曲目解説


モーツァルト作曲 歌劇「ドン・ジョヴァンニ」ハイライト

1.劇の展開を準備する序曲は、初演に先だってわずか一晩で書き上げられたと言われています。序奏、アンダンテ、ニ短調。劇的なニ短調の主和音の強奏ではじまりますが、これは第2幕のフィナーレで、騎士長の石像が登場する緊迫した不気味な場面からとられたものです (13)。5小節目からの弱奏の音形は騎士長の不気味な歩みを表し、続く第一ヴァイオリンのシンコペーションの増2度の音程が印象的です。そのあと恐れおののくレポレロを象徴する16分音符の動きが現れ、強奏が繰り返します。不気味な音階の連続が続き、曲調は一転し、急速な主部に入ります。主部。モルト・アレグロ、ニ長調。明るく、華やかではありますが、激しい劇的な緊張も含まれています。展開部、再現部と続き、ハ長調で締めくくり、すぐに第一幕に進みます。

2.導入曲。モルト・アレグロ、ヘ長調。夜。ドン・ジョバンニが騎士長の娘ドンナ・アンナの許に忍び込んでいて、レポレロが騎士長邸の前で見張りをしています。「人にこき使われるのは、もうまっぴらだ。自分も早く偉くなりたいものだ」と、主人とわが身を比べてぶつぶつ不平を言う歌です。

3.レポレロのアリア。アレグロ、ニ長調。有名な『カタログの歌』です。軽妙な曲ですが、まず主人ドン・ジョバンニが各国でナンパした人数を挙げ、続いてその内容に及びます。(ちなみにその人数は、イタリア 640、ドイツ 231、フランス 100、トルコ 91、スペインではなんと 1003 人です。原曲は、さらにテンポと拍子を変え、さらに女性の分類や好みに触れますが、あまりに内容がキワドイので後半は省略いたします。)歌詞なしで聴くと、とても想像できないような内容ですが、モーツァルトの天才的な名人芸の一つです。(2、3はファゴットの独奏で演奏いたします。)

4.合唱。アレグロ、ト長調。マゼットとツェルリーナの今宵の婚礼の喜びの歌です。まずツェルリーナが歌い、マゼットが続けます。3度の音程が特徴的に使われ、単純で素朴な曲調を醸し出しています。(クラリネットとファゴットのデュエットでお楽しみ下さい。)

5.小二重唱。アンダンテ、イ長調。ドン・ジョバンニがツェルリーナを誘惑する場面です。ツェルリーナははじめためらいながら、しかしついにはドン・ジョバンニの甘い誘惑に屈してしまい、途中の8分の6拍子からはむしろ積極的に声をあわせてしまいます。(ヴァイオリンとチェロの掛け合いにご注目下さい。)

6.アリア。プレスト、変ロ長調。『シャンパンの歌』として有名ですが、快楽の追求には飽くことを知らないドン・ジョバンニを表した傑作です。「広場で娘を見たら連れてこい、酒を飲ませ、踊らせろ。明日の朝には名簿に10人の名前が増やせるように」。(ファゴットで挑戦してもらいます。)

7.アリア。アンダンテ・グラツィオーソ、ヘ長調。「ぶってよ、優しいマゼット」ではじまるこのアリアは、単純ななかにもツェルリーナの性格を巧みに表現しています。ドン・ジョバンニに誘惑されて喜んでいるツェルリーナに対して、腹をたてているマゼットに、機嫌を直してと甘える場面です。単純なマゼットもすぐに機嫌を直し、仲直りします。(甘えるツェルリーナをクラリネットの音色でお聞き下さい。)

8.アレグロ、変ホ長調。明るく楽しげなオーケストラの合奏のあと、しつこくツェルリーナを狙うドン・ジョバンニ、それに気づき心配するマゼット、楽しそうなツェルリーナなどの掛け合いが聴かれます。

9.この音楽は実際のオペラでは、舞台上に3つの小編成楽団が並び、だんだんと演奏を開始し、3つの異なる曲、しかも拍子まで全く違う曲を同時に演奏するという、とんでもない場面です。(我々も、ステージで別れて演奏すればよいのですが、時間とスペースの都合上一緒に演奏します。その点も考慮して、楽器数を増やし音色の変化をつけてみました。)全奏による前奏のあと、第一楽団がそのまま、4分の3拍子のメヌエットを演奏します。つづいて第二楽団も調弦をはじめ(調弦まで楽譜にあります!)4分の2拍子の田園舞曲(コントルダンス)をはじめます。さらに第三楽団も調弦をはじめ8分の3拍子のドイツ舞曲を演奏します。何れも拍子が異なり、雰囲気の違った3種の舞曲は、同時に演奏されることによって、一種独特の効果が生まれます。この3種の舞曲にそれぞれ異なった3つの社会的階層を対応させて考える研究者によると、メヌエットは上流階級に、コントルダンスは市民階級に、ドイツ舞曲はさらにもう一段低い階層に対応するそうです。実際メヌエットはドンナ・アンナ、ドン・オッターヴィオが踊り、ドン・ジョバンニはコントルダンスでツェルリーナを誘い、レポレロ とマゼットはドイツ舞曲を踊ります。モーツァルトの天才的ユーモアセンスをお楽しみ下さい。

10.カンツォネッタ。アレグレット、ニ長調。弦楽器のピチカート演奏を支えられたマンドリン伴奏によるこのアリアは『ドン・ジョバンニのセレナーデ』と言われています。女心をあやしくとろかすようなこのセレナーデはまさにドン・ジョバンニの本領発揮ともいえる誘惑の調べです。(今回はマンドリンをヴァイオリンに、ドン・ジョバンニをチェロにしての対等なデュエットとして演奏致します。)

11.アリア。グラツィオーソ、ハ長調。レポレロに扮したドン・ジョバンニに、さんざん殴られて、うなっているマゼットをツェルリーナがやさしく看病する場面です。『薬屋の歌』とも呼ばれる甘くやさしいこの曲は、イタリア風の情趣をたたえた、単純ながら印象的なメロディーです。(オーボエの音色でお楽しみ下さい。)

12.フィナーレ。アレグロ・ヴィヴァーチェ、ニ長調。きわめて晴れやかで快活な前奏のあと、ドン・ジョバンニが楽しげに祝宴の采配をふるっています。ステージ上の楽士達に演奏を命じ、自分は食事をはじめます。この楽団が演奏する3曲は、当時流行していた楽曲です。最初はマルティーン・イ・ソレール作曲のオペラ『ウーナ・コーサ・ラーラ(珍しいもの)』の第一幕終曲の音楽です。次はサルティの歌劇『漁夫の利を占め(とんびに油揚)』の音楽です。3番目はなんとモーツァルト自身の『フィガロの結婚』から<もう飛ぶまいぞ、この蝶々>を使って聴衆にサービスしています。そのあいだ、レポレロは主人のごちそうのつまみ食いをしながら、二人の会話が続きます。

13.


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