検証:135kHz帯のアンテナの条件   JH1GVY
はじめに

JARLメールマガ ジン第80号(2009年4月20日号)にて、TSS(株)保証事業部のWebサイトに『135kHz帯のアンテナの条件』が掲載されているとの知らせが あり、早速に内容を見てみましたが、筆者が想定していた状況に比べて厳しい内容でした。示された条件が保証認定においてどの様な影響力を及ぼすのか、又は 及ぼさないのかについては不明ですがここでは、この『135kHz帯のアンテナの条件』で示された『垂直型空中線(モノポールアンテナ、垂直ダイポールア ンテナ等)』の部分を検証してみました。
(後日発見した総務省の資料も結果は同じですが、更に詳しく計算式が示されています。アンテナにおける損失分として接地抵抗を10Ωに設定、ローディングコイルの損失は除外されている。)
尚、TSS(株)保証事業部のWebサイトの文中では以下のような説明があります。

------ ここから、TSS(株)保証事業部のWebサイトから抜粋  ------
『ここで示された例は、大地面の導電率が高く接地抵抗が小さい条件で、かつインピーダンスマッチングなども良好な状態で試算した結果に基づいています。
この高さより高いアンテナであっても、その設置条件によりEIRPが1W以下であることが合理的に推定できる場合は、その値によることができます。』
------ ここまで、TSS(株)保証事業部のWebサイトから抜粋  ------

との事ですので、合理的な説明がなされるのであればこの条件の範囲を超えたアンテナ高さも許容されそうです。だからと言って、免許申請の書類の【空中線】 の欄に高さや水平部長さなどを記入する必要は無くて、従来どうりアンテナの形式、例えば『単一型』と単純に記入すれば良い。

なぜアンテナの条件が示されたのか
135kHz 帯以外のアマチュア無線では空中線電力により発射の強さが 規定されていて、アンテナ利得の上限に関しては特段の条件はありません。むしろ、目的の方向以外にはなるべく輻射を抑えて、目的の方向に輻射を集中する事 が推奨されますので、それは、なるべく利得の高いアンテナが推奨される事になります。しかし他の周波数帯と異なって135kHz帯のアマチュア無線局は空中線電力の規定に 加えて、EIRP (等価等方輻射電力)を1W以下として運用しなければならない事は本誌記事でも知らされているところですが、このEIRPは空中線電力及びアンテナの利得 によって決まる物なのです。従って空中線電力に相応したアンテナ利得の上限が存在する事を意味します。 式に表すと、

EIRP = 空中線電力P0 X アンテナ絶対利得G  (式1)

また、EIRPが1W未満とすれば

アンテナ絶対利得G < 1/空中線電力P0  (式1−1) 又は
空中線電力P0 < 1/アンテナ絶対利得G  (式1−2)

の様になり、EIRPの規定に従う場合には空中線電力及びアンテナの利得の両方を知る必要があります。他の方法としては、自局から輻射された電波の電界強度を測定してEIRPを算出する事もあります。
しかし、アマチュア無線家では空中線電力は割合と容易に確認出来ますが、この周波数でのアンテナの利得を計算したり電界強度を測定する 知識や設備が現状では一般的になっていない為に、誰でもが容易にこのEIRPの規定に従っている事を確認出来る様にはなっていません。そこで、その難点を解消する目的で条件(事例)が示されたものと推測され ます。

何が示されて、何が示されていないのか
示されたもの:
空中線電力の範囲毎に三種類のアンテナ形状に関して、EIRPが1W以下になる、その最大地上高が示されました。
具体的には、下記 (TSS(株)保証事業部のWebサイトから抜粋)がその三つの中の一つで『垂直型空中線(モノ ポールアンテナ、垂直ダイポールアンテナ等)』の例です(逆形アンテナの水平部分に相当する長さの違いで更にニ種類のアンテナ形状についても同 様な表が示されていますがここでは省略します)。つまり、自局の空中線電力に照らし合わせて三種類のアンテナ形状から適応する最大地上高を選んで運用する事だけで EIRPの条件を満足する事が可能になります。これに従えば難しい計算や測定をしなくても済む事になりますので大変に便利です。

示されていないもの:
 しかし、『EIRPが1W以下になる』為の条件ですから、それに従っても現実に自分のアンテナと送信機においてEIRPが1W以下の幾らになっているかは 判りません。アンテナの地上高から何の損失も無い理想状態における利得の理論限界は決まりますが、現実のアンテナの利得は決まり ませんので結果的にEIRPは決まりません。特に、この表の作成に当たり想定したアンテナの利得を決定する、しいてはEIRPを決定する主要なパラメータ であるところの接地抵抗値 ローディングコイルでの損失が示されていない事と、アンテナの形状に関しても単純な垂直アンテナから複数本のトップロードワイアを備えた垂直アンテナの可 能性までを示唆した幅の広い記述になっているので、想定されたアンテナの詳細が判らなくて、EIRPが1W以下ならばそれで満足する場合を除いて、1Wに 肉迫して且つ又なるべく簡単なアンテナを現実 に自作する場合にこれら三つのパラメータの設定に困ります。

----  記  ----
(TSS(株)保証事業部のWebサイトから抜粋)

垂直型空中線(モノポールアンテナ、垂直ダイポールアンテナ等)
垂直に立てられている場合の他、エレメントの折り曲げや傾斜等によるアンテナの基部(給電点)から、エレメントの最大地上高H【m】の2分の1以下の長さの水平方向成分L【m】がある場合を含みます。
ここで、Hには建物等の高さを含みます。ただし、エレメントの最大地上高が建物等の高さ以下の場合(途中階のベランダから突き出したような場合など)は、エレメントの最大地上高とします。
また、給電点から多方向に水平方向成分を持つ場合には、Lは最も遠い方向への長さとします。
 
該当する空中線の例
 
●EIRPが1W以下となる条件
最大地上高H【m】が以下に掲げる高さ以下であること
空中線電力:0 最大地上高H【m】
5W以下 90
5W超10W以下 63
10W超20W以下 45
20W超50W以下 28
50W超100W以下 20
100W超200W以下 14
--------  TSS(株)保証事業部のWebサイトから抜粋ここまで  ---------
尚、図の中で『短絡化』とあるのはエレメントの短縮(shorten)との事です。



検証

三種類のアンテナ形状に対応して上記に示したと同様な表が各々示されていますが、ここでは一例として上記の表のみに絞って、この表について以下に検証してみたいと思います。

表を一つの数式で表す

TSS(株)により示された『EIRPが1W以下となる条件』の上記の表は良く見ると簡単な一つの式で表す事が出来ます。それが(式2)で、式中のP0 は表のP0 の範囲の大きい値を使います。例えば、『100W超200W以下』ならば大きい200を式中の P0 とします。表と(式2)では多少誤差が有りますが表では端数が処理されている結果と思われます。

H = 200 / √P0   (式2)

(式2)の意味
(式2)から空中線電力 P0 をN倍にするとその平方根(√N)に反比例させたアンテナ高さにすれば同じEIRPを実現できることになります。従って、示された表の様な階段的なアンテナ高さによらず、任意の P0 に対して連続的なアンテナ高さを計算できます。

また、(式2)を書き換えると(式3)の様になります。

  P0 = ( 200 / H )^2   (式3)  但し、^2 はニ乗のことです

この式の意味は、アンテナの高さに応じて一定のEIRPを確保するのに必要な空中線電力を与えます。
例えば H=20m とすると
P0(式3)から100Wになります。アンテナの高さによりその利得が変化することで一定のEIRPを確保する所要空中線電力が変わる事を示していて、それは(式1)からも理解できます従って、任意のアンテナ高さHに対して連続的な空中線電力 P0 を計算できます。

利得がアンテナの高さHの二乗にのみ比例すると想定
ところで、(式1−1)はEIRPが1Wだとすると、次の様になります。

G=1/P0   (式1−3)

また、
(式3)の条件でEIRPが1Wだとすれば(式3)と(式1−3)から

G=( H / 200 )^2
 =(H ^2)/40000   (式1−4)

これはつまり、アンテナの利得がアンテナの高さHの二乗にのみ比例する事が、TSS(株)によて示された『EIRPが1W以下となる条件』において想定されている事に他なりません。
下記の『アンテナの利得は何によって決まっているか』で説明している様に、アンテナの利得がアンテナ高さの二乗だけに関連しているということは、TSS(株)によて示された『EIRPが1W以下となる条件』ではHに対応して装荷コイルの損失が変わる事を計算に入れていない事を意味します。
但し、装荷コイルの損失がゼロとしているのかある固定値にしているのかは判りません。アンテナの利得がアンテナ高さHの二乗に比例する
輻射抵抗成分だけに比例すると想定されていて、他のパラメータは固定されている事だけは判ります。

アンテナの利得は何によって決まっているか

アンテナ利得を決めるパラメータについておさらいしておきます。アンテナの利得は次のように決定されます。

利得=指向性利得・輻射効率

ここで、指向性利得はアンテナの
導体の良し悪しや、接地抵抗やその他の損失に関係なく決まっている値で、例えば無損失無指向性アンテナでは1倍(0dBi)で、例えどんなに損失の多い導体を使っても半波長ダイポールでは1.64倍 (2.15dBi)、短い接地型垂直(モノポール)アンテナでは3倍(4.77dBi)で、導体や接地、その他の損失を含めない物です。逆L形やT形などで 波長に比べて十分に低いアンテナも短い接地型垂直アンテナとほぼ等しいです。
後は、
以下に示した輻射効率だけを考えれば良いことになります。

輻射効率=輻射抵抗/入力抵抗
      輻射抵抗/(輻射抵抗+損失抵抗)   (式4)

装荷(ローディング)された接地型垂直アンテナの場合には損失抵抗の主な物は(アンテナの近くに木立や建物等が無いとして)装荷コイルの損失抵抗、接地抵抗、ワイアの損失抵抗があります。

135kHz でのアンテナは波長約2200mに比べて極めて短い為に輻射抵抗は大体は数十ミリΩから数百ミリΩで、ワイアの損失も大きくはありません。一方、接地や装荷コイルの抵抗は合計して数十Ωあるので簡単の為に、(式4)を下記の(式5)に書き換えても大きな誤差は生じません。

輻射効率=輻射抵抗損失抵抗
      輻射抵抗/(接地抵抗+装荷コイルの損失抵抗)   (式5)

(式5)輻射効率の各パラメータがアンテナ高さHにどの様に影響されるかを見ると、接地抵抗には影響がなく、輻射抵抗はアンテナの高さHの二乗に比例し、装荷コイルのインダクタンスはアンテナの高さに反比例して、Qが一定とすればその損失抵抗も同様です。
従って、輻射効率ηは、ほぼアンテナの高さHの二乗に比例する成分(輻射抵抗Rr)に加えてHに相応して増える成分(装荷コイルの損失抵抗Rx)があります。そこで(式5)をHに関連する成分で少し書き換えると(式6)になります。K1、K2 は定数です。

η=Rr/(RgRx
 =K1・H^2/(Rg+K2/H)   (式6)

利得に戻すと、指向性利得をGdとして、(式6−1)の様になります。

G=Gd・K1・H^2/(Rg+K2/H)   (式6−1)


TSS(株)により示された表を少し噛み砕いて、
EIRP=1Wを実現する為のアンテナの表を新たに作ってみました。

P0を、示された範囲の最大の値に固定して、その場合にEIRPが1Wになる為のアンテナ利得Gを示してあります。これは(式9)から簡単に計算できました。つまり、示された表では各アンテナの高さに応じてこのGで示される利得を想定しています。
そ れでは、その想定された利得Gを実現するにはどの様なアンテナにすれば良いでしょうか。アンテナの形状を単純モノポール、逆L形、T形、クロスワイア形 トップロードの四種類で考えてみました。上で述べた様にアンテナの高さと利得を決めた場合に選択可能な主なパラメータは、輻射抵抗Rrを決めるH^2の係数、接地抵抗Rg装荷コイルXの損失抵抗Rx、ワイアの損失抵抗の四つですが、アンテナの形状をこの四種類から選べば輻射抵抗が決まり、おのずとその値において目的の利得を得る為のアンテナ入力抵抗Riが決まりす。また、装荷コイルインダクタンスXはアンテナ形状から決まり、そのQを固定(例えばこれ以上は難しそうな300に固定)すると損失抵抗も決まります。ワイアの損失抵抗は大きく有りませんので、選択肢はほとんど接地抵抗しか他に無く、これを頑張って目的の利得を得るしか道はありません。これらを式で表すと以下の様になって、EIRPの1Wを実現する為に許容できる接地抵抗は(式12)から計算できます。式の中のKsはアンテナ形状により決まる定数でそれを導き出さなくても、直接RrをMMANAで行ってしまうのが手っ取り早いです。Ri はアンテナ入力抵抗Ω

Rr = 0.082(Ks・H)^2   Ksはアンテナ形状により決まる定数
Ri = Rr・Gd/G
Rx = 2πfX/Q
Rg = Ri - (Rr + Rx + Rw)   
(式12)

新たな表では Rr、X、Rx、Rw はMMANAでのシュミレーションから得ました。
Ri はRr から目標利得により算出しました。

新たな表をみた所、接地抵抗 Rg がマイナスになってしまい、目的の利得Gを得られない場合がある事が判ります。これが、TSS(株)によて示された『EIRPが1W以下となる条件』がHに対応して装荷コイルの損失が変わる事を計算に入れていない事の影響です。

単純モノポールアンテナでは高さ90mの場合だけは目標の利得に届くかも知れませんが0.3オームの接地抵抗は不可能に近く、それ以外の高さでは接地抵抗がゼロでも目標の利得に届きません。

逆L形でも高さを28m以上にしなければ目標の利得に届きません。

T形では14mより高ければ目標の利得に届きます。

二本のクロスワイア形のトップロードではしっかりした接地をすれば目的の利得に届きます。
 
EIRP=1Wを実現する為のアンテナ

周波数136kHz、指向性利得Gd=3倍(4.77dBi)、アンテナ線は直径1.6mm銅線とする、装荷コイルXのQ=300とする。
H:アンテナ高さ
P0:空中線電力
G:EIRPが1Wになるアンテナ利得 G=1/P0
Rr:放射抵抗、MMANAでの計算値
Ri:入力抵抗 Ri = Rr・Gd/G
X:装荷コイルインダクタンス、MMANAでの計算値
Rx:装荷コイル損失抵抗、MMANAでの計算値
Rw:ワイア損失抵抗、MMANAでの計算値
Rg:接地抵抗 Rg = Ri - (Rr + Rx + Rw)

下記の各表中の接地抵抗 Rg が赤色で示されるのは、
値がマイナスになってしまい、目的の利得Gを得られない場合


垂直部H【m】の単純モノポールアンテナ
H【m】P0【W】
G【倍(dBi)】 Rr【Ω】
Ri【Ω】 X【mH】
Rx【Ω】Rw【Ω】 Rg【Ω】
905
0.2 (-7)
0.638
9.6
2.84
8.1
0.5 0.3
6310
0.1 (-10)
0.311
9.3
3.96
11.3
0.3 -2.6
4520
0.05 (-13)
0.158
9.5
5.40
15.4
0.2
-6.3
2850
0.02 (-17)
0.061
9.2
8.30
23.6
0.1
-14.6
20100
0.01 (-20)
0.031 9.4 11.2532.00.1 -22.8
14200
0.005 (-23)
0.015
9.0
15.46
44.0
0.1
-35.1


垂直部H【m】、水平部0.5H【m】の逆L形アンテナ
H【m】P0【W】
G【倍(dBi)】 Rr【Ω】
Ri【Ω】 X【mH】
Rx【Ω】Rw【Ω】 Rg【Ω】
905
0.2 (-7)
1.135
17.0
1.935.50.9
9.5
6310
0.1 (-10)
0.549
16.5
2.747.80.6
7.6
4520
0.05 (-13)
0.278
16.7 3.7610.70.4
5.3
2850
0.02 (-17)
0.107
16.1
5.8216.60.3
-0.9
20100
0.01 (-20)
0.055
16.5 7.9022.50.2
-6.3
14200
0.005 (-23)
0.027
16.2 10.931.00.1
-15.0

垂直部H【m】、水平部H【m】のT形アンテナ
H【m】P0【W】
G【倍(dBi)】 Rr【Ω】
Ri【Ω】 X【mH】
Rx【Ω】Rw【Ω】 Rg【Ω】
905
0.2 (-7)
1.44
21.6
1.47
4.2
1.1
14.9
6310
0.1 (-10)
0.694
20.8
2.12
6.0
0.8
13.3
4520
0.05 (-13)
0.352
21.1
2.94
8.4
0.5
11.9
2850
0.02 (-17)
0.135
20.2
4.57
13.0
0.3
6.8
20100
0.01 (-20)
0.069 20.7
6.22
17.7
0.2
2.7
14200
0.005 (-23)
0.034
20.4
8.59
24.5
0.2
-4.3





垂直部H【m】、水平部H【m】二本のクロスワイア形トップロードアンテナ
H【m】P0【W】
G【倍(dBi)】 Rr【Ω】
Ri【Ω】 X【mH】
Rx【Ω】Rw【Ω】 Rg【Ω】
905
0.2 (-7)
1.770
26.6
1.02
2.9
1.4
20.5
6310
0.1 (-10)
0.850
25.5
1.52
4.3
0.9
19.5
4520
0.05 (-13)
0.430
25.8
2.14
6.1
0.7
18.6
2850
0.02 (-17)
0.165
24.8
3.37
9.6
0.4
14.6
20100
0.01 (-20)
0.084
25.2
4.60
13.1
0.3
11.7
14200
0.005 (-23)
0.041
24.6
6.38
18.2
0.2
6.2

尚、以上では大地特性を完全大地として取り扱っています。しかし下に示 した放射パターンで判るとうり現実の大地では放射が低下します。従って、以上でのEIRP=1Wとした条件に基ずく計算でのアンテナは、実際には実大地で の放射低下の分だけ【EIRPが1W以下であること】の規定に対して余裕があると思われますので、そのままでもEIRPの規定を超えることはないと推測さ れます。


以上。    (C) 2009年 JH1GVY