マグネチック・ループ・アンテナ開発レポート JH1GVY 森岡 進 

 はじめに

JH1GVYは、出力50ワットの移動運用で細々とトップバンド (160mバンド)DXを楽しんでおりますが、使っている幾つかの送受信アンテ ナの中の一つ、大型のマグネチック・ループ・アンテナ(Magnetic Loop Antenna=MLA)の詳細を今回紹介させて頂きます。 同時に、その開発(少しおおげさです)の過程でJH1GVYが得たMLAという物の捉え方 と、JH1GVYが考えた設計パラメータ(ルー プ外径、エレメント太さ、素材、ループ形状、等々)の設定方法を紹介させて頂きます。 固定局のトップバンドDXにはあまり参考にはならないと思いますが アマチュア無線家諸氏のアンテナの捉え方の一つとして何かの参考になればと考えます。 
写真1: Inverted 6MLA48R2AL建設状況(エレメントが見えにくいので加筆した)
ヨーロッパとの交信を終えた日の出直後、おおよそ道路と45度交差したヨーロッパ方向に展開してあります。 車がまるでオモチャの様に小さく見えます。

 MLAとの出会い

2002年夏に移動運用トップバンドDXを目指してそれ用のアンテナを模 索し始めました。
移動運用トップバンドDXに使えるバルーンアンテナを既に持ってはいたのですが、封入ガスや風船という消耗品があることと、耳の悪さ、接地ラジアル問題が 気になり他のアンテナを模索しました。
移動運用では短時間で簡単に良好なアンテナの接地を得ることは、エレベーテッド・ラジアルを含めて、とりわけトップバンドでは難しそうでした。 また夜間 や早朝に散歩などで近くを通る人に対して地表や手の届く高さのラジアル・ワイアー類は危険を感じましたので、打ち上げ角が低くDXに向くと言われていまし たが、接地が必要なバーチカル系アンテナは敬遠しました。
一方、接地が不要なアンテナとしての水平ダイポールは、移動運用で建てられる程度の地上高では打ち上げ角が高くてDXには向かないと言われていましたし、 逆ブイ型も水平ダイポール同等であると考えました。
他にアンテナは無いかと考えた所、当時既に過去の話題となりつつあったMLAがありましたが、市販品でトップバンドまで使える物は直径 3.4mで放射効率が11%しかなく、到底50W出力でDXに使える値とは思えず、ブーム込みで50kgもの重量と日本円に換算して十五万円以上もの価格 でした。  しかし、上述の理由でMLAしかないのでループアンテナという物の受信性能にも多少期待を込めてMLAに決めて、放射効率を向上させてトップバンドDX に使えるアンテナとして開発することにしたのです。 MLAが盛んに話題にされていた頃にJH1GVYはこれに全く関心を示さずにいましたので過去の雑誌 記事や書籍、各ウ エッブサイト等を頼りに情報を得ました。

 開発の目標

JH1GVYは当初、アンテナ技術がほとんど無いに等しくまた、MLAに関しても全く無知でしたが、電子機器の配線に普通に使う細い(AGW24)ビニー ル電線を 使った一辺が2メートルの四角い7MHz用ループを作ってその素養を確かめる実験から始まって、実験と失敗と勉強を重ねて紆余曲折を経ておおよそ二年間か けて移動運用トップバンドDX向けMLAを開発しました。 そ の最終開発目標は以下の点でした。
1、JH1GVYが使っていたバルーンアンテナ(風船でワイアを吊った四分の一波長垂直アンテナ)と同等の飛び
2、バルーンアンテナより優れた受信S/N
3、放射効率は50%以上(=損失3dB未満)
4、許容電力は50W以上
5、一人の移動運用で容易に建設が可能なこと
6、実用的な時間内で建設および撤収が可能なこと
7、20m程度の最高地上高(ポール)を実現すること
8、ポールは一本で済むこと
9、周波数同調は手動で行う
10、給電点は地表に近い側に置く
上には挙げていませんが、ラジアルなど地表や低い所を這うワイアー類が無いということも目標の一つでしたが、形式をMLAに決めたことでそれらは不要とな りその目標は既に達成されております。
 
 開発したMLAの構造

最終的に似かよった二つのMLAが出来上がりましたが、実用に供して両者に大きな差は無い様ですので、以下にその一つ(6MLA54R2AL型と命名)を 中心に説明させていただきます。 もう一 方( Inverted 6MLA48R2AL型と命名)は、地面の影響を考慮して外径寸法を少し小さくしてその分だけ最低地上高を高くしたことと、ループエレ メントは直径2.5mmの園芸用アルミ針金を二本、撚らずに並列接続する方法をとっていることと、同調容量を天頂ではなくその反対の最低地上高側に置くこ とで電流 最 大点がエレメントの天頂部分になる様にしてあることです。

【 外 観 】

外観は図1 に示すとうりで、一般に認識されている小型のMLAと比較すると、外形が飛びぬけて大きいことと、対照的にエレメント径が極めて細くてアルミ針金で作られ ている点が異なります。 給電用ループは無くてメインループのみです。
図1: 6MLA54R2AL外観図 ( Inverted 6MLA48R2ALの場合には同調部が給電部に一体化されて図に示す同調部は無くなり、そこは 写真1に見るようにエレメントが通過するだけです)
 
ループは何と巨大で一辺が9mの六角形ですから、最大外形18m、ループ総延長54m(約0.33波長)という代物です。 ループエレメントはまるでリッ ツ線の様に直径1mmの園芸用アルミ 針金12本を撚らずに並列接続で構成し軽量化と表面積を稼ぐ(表皮抵抗を下げる)方法をとっていて、半径2mmのアルミ針金一本に相当する 高周波抵抗を実現しているつもりです。 これらの構成からして、JH1GVYはこれに勝手な名前を付けて6MLA54R2AL型としています。 エレメン トは一本 のポールを頂点として支えて他の四つの角をそれぞれ水糸で引っ張って空中に正六角形に近い形で展開しています。 最も低い所にある給電点の角は中央ポール に取り付けた竹竿で支えて います。 ループの最高点20m高、給電点2m高です。
最高点20mを実現する為の支柱は、12m長のジュラルミン伸縮ポールとグラスファイバー竿をつなげて構成しています。 当初グラスファイバー竿はPG  ANT100を使ってみましたが腰が弱くてエレメント重量を支え切れずにこのアンテナの具現化が難航した時期がありましたが、W−GR−1000Hの出現 で一挙に解決しました。
尚、20mもの高さのポールですがステーはエレメント展開の為の水糸のステー以外には、下から四段目と五段目の竿の繋ぎ目一箇所から3mm径のロープを たった二本張っているだけです。 

【 同調容量 】

同調容量はループの最も高い位置に有ってバリコンと固定コンデンサで構成してプラスチックの入れ物に収納しています(写真2)。  バリコンは1kV耐圧の普通の摺動接点の物を使いましたが、接点の接触抵抗を避ける為にローテータ軸に直接半田付けしています。  50Wの電力でも1kV耐圧のバリコンでは耐圧が不足した為 に放電してしまいましたので固定コンデンサを組み合わせてバリコンに加わる電圧を下げると同時に周波数可変幅を抑えて微妙な周波数調節を可能にしています (写真3、図2)。 図3は Inverted 6MLA48R2AL型の場合です。

写真2:同調部(上空20mのバリコンBOX、糸コン)

写真3:バリコンBOX内の様子
ローテータ軸に直接半田付けしている。
バリコン耐圧不足を補うと同時に周波数可変幅を抑えて微妙な周波数調節を可能にする為に3kV小型円盤セラミックコンデンサを使う。

図2:6MLA54R2AL型の接続図
 VCは1kV耐圧品、VCのローテータ軸に直接半田付けする
C1、C2は小型円盤セラミックコンデンサの場合と同軸ケーブルで作る場合ではそれぞれ下表のようになります。
定  数
小 型コンデンサ
5pF/3kV
同 軸ケーブル
5D−SFA
C1:35pF
7ヶ並列 42cm+α
C2:25pF
5ヶ並列 30cm+α
同軸ケーブルの+αは半田付代などに必要なコンデンサを形成しない長さです


図3:Inverted 6MLA48R2AL型の接続図
C1=C2=C3=60pF、10pF/3kV セラミックコンデンサ 6ヶ並列
VCは1kV耐圧品、VCのローテータ軸に直接半田付けする 
 
高周波の高圧電力固定コンデンサは微妙な容量を欲すると極めて入手が困難ですし、入手可能な幾つかの容量の物で希望の容量を合成すると、単価が高い だけに大きな出費になります。 発泡ポリエチレン絶縁の低損失同軸ケーブルでコンデンサを形成して使ってみましたが、かさばったことと、重量が増えました ので、最終的には小型で耐圧の高いコンデンサを多数並列に接続して電流容量を確保しつつなるべく安価に済ませました。

バリコンの調節=糸コン


写真4:糸コンの糸(垂直の二本)と、竿に巻いてあるガイド
バリコンの調節は、モータードライブの遠隔操作方式にすると重量が増え ることと構造が複雑になること、JH1GVYがそういう物の製作を得意としていなかったことから手動としました。 地上20m高のバリコン の軸にツマミの代わりのプラスチックのレバーを取り付けてその両端に糸を結び(写真2)、その二本の糸を地上から引っぱって周波数調節をおこなうやり方 で、名付けて “糸コン”です。 糸コンの糸は20mもの長さになりますので、絡んだり引っかかったりしない様に、ポールの途中に糸で輪っかに作ったガイド(写真4)を 幾つか設けてそこに通しています。

【 給電とアルミエレメントの接続 】

給電は、ループの最も低い位置を開いてコイルを挿入し、そのコイルの両端にフロートバランを介して同軸ケーブルで給電しています(写真5、図2)。
 そのコイルの値(約1μH)によりインピーダンスマッチングを行っています。 フロート・バランは アミドンFT82−#77材トロイダルコア(μi =2,000、 厚さ8mm、外形22mm)にφ1.2mmコーティング銅線10回 バイファイラ巻で、アイソレション22.4dB、挿入損失0.2dBです。
 Inverted 6MLA48R2AL型の 給電は同調容量と兼用した容量分割法です、図3を参考にしてください。
尚、エレメントがアルミですので電気接続は圧着スリーブにより行うか、エレメントにスリーブを圧着してそれに半田付けして行うか、または両者を併用します (写真6)。

写真5:給電部の様子(地上高2m、マッチングコイルとバラン)

写真6:圧着スリーブと半田付けを併用した直径1mmのアルミ針金12本によるエレメントの接続の様子

 開発したMLAの性能

残念ながら、出来上がったアンテナの性能を測定できていません。
交信実績の飛距離等から推測した り、アンテナ解析ソフトウエアの結果を信じるのみです。 空中線電力50Wでの交信実績とコンテスト結果を表に示します。 ヨーロッパはLatvia (YL)、南はVK3まで の大圏図の距離で、大体8000kmまで届くようです。 北米はアラスカ、カナダ西海岸はもちろん、距離で11000kmに近いGA州、IL州の耳のすば らしい局とQSOできています。 コンテスト順位はSingle−OP/Lowpower/JAの範囲で「順位/ログ提出数」で表示しています。 コンテ スト成績が良 くないのはアンテナ性能の差か、テクニックの差か、出力電力の差か、運用時間の差か、良くは解りませんが両コンテスト共に二日間の内の一日のみ参加です。  確かLowpowerは出力電力制限が150W以下だったと思いますが、JH1GVYは移動なので当然50W運用です。
 
開発したMLAの50Wでの交信実績  '04.Sep - '05.Jan
コールサイン数
84
エンティティー数 17
アメリカ本土の州の数 14
ARRL 160m CW 順位 5/5
CQ WW 160m CW 順位 ?

図4に6MLA54R2ALの、図5にInverted 6MLA48R2ALのMMANAアンテナ解析ソフトウエアによるアンテナを含む面内での垂直放 射パターンを示します。  リアルGNDとして誘電率=10、導電率=5(mS/m)を設定しました。 地上高はループの中心です。 水平放射パターンは省略してありますが仰角 27度での利得が表示される様に してあります、以下同じです。
また 図6に6MLA54R2ALの、図7にInverted 6MLA48R2ALの、NEC−2 for MMANAアンテナ解析ソフトウエアによる放射パ ターンを示します。 解析条件はMMANAと同じですが、同調 周波数が少し動くので同調容量を補正して解析しました。 両ソフ トウエアで入力インピーダンスが結構異なって解析されます。 また、利得はNEC−2 for MMANAの方が約2dBほど低く解析されます。

図4:6MLA54R2ALの放射パターン(MMANA)

図5:Inverted 6MLA48R2ALの放射パターン (MMANA)


図6:6MLA54R2ALの放射パターン(NEC-2 for MMANA)

図7:Inverted 6MLA48R2ALの放射パターン(NEC-2 for MMANA)

参考までに、図8、図9に頂角20m高、端点4m高、直径2mmアルミ針金の逆ブイ型アン テナの、NEC−2 for MMANAアンテナ解析ソフトウエアによる放射パターンを示します。 逆ブイ 型の場合、よく見かけるのは水平ダイポールでの場合と同じ様にエレメントに直角方向に放射される水平偏波成分を描くのですが、図8ではMLAと同じでアン テナ を含む面内での垂直偏波成分を描いています。 最大放射方向(天頂)の利得はMLAよりも大きいですが、低い仰角ではMLAの方が大きいです。 図9は水 平偏波成分です。

図8:頂角20m、端点4m、直径2mmアルミ針金の逆ブイ型アンテナの放射パターン(NEC-2 for MMANA)アンテナを含む面内での垂直偏波成分を描いてあります

図9:頂角20m、端点4m、直径2mmアルミ針金の逆ブイ型アンテナの放射パターン(NEC-2 for MMANA)アンテナ線展開方向に直角の水平偏波成分を描いてあります

実際に屋外に建ててみると、SWRは給電点のコイルを調整すれば問題なく下がります。  帯域幅が狭くSWR=2で10kHz程度ですから1.8MHz帯の15KHzをカバーできませんので時として同調周波数を調節しながら使用します。 他の アンテナでAMラジオ放送電波からの妨害を強く受ける場合にでもこのアンテナでは自身が高い選択度を持っている為に妨害量は少ないです。

【開発したマグネチック・ループ・アンテナの緒元】
型 式 (自称)
: 6MLA54R2AL : Inverted 6MLA48R2AL
周波数可変幅
:1810−1915kHz :同左
同調点SWR
:1.1以下 :同左
帯域幅
:約10kHz (SWRが2以下) :同左
放射抵抗(推測値) :約2.0オーム :約3.7オーム
損失抵抗(推測値) :約1.4オーム :約4.0オーム
放射効率(推測値) :59%(2.3dBの損失)前後 :48%(3.2dBの損失)前後
給電方法と地上高 :インダクタンス挿入法(図2参照)、 2m高 :容量分割法(図3参照)、4m高
許容電力
:CW 50W(連続使用不可、使用する 同調コンデンサの特性による) :同左
ループ総延長
:54m (約 0.33波長) :48m (約 0.29波長)
ループ外観形状
:一辺9mの正六角形、最大外形18m (対角) :一辺8mの正六角形、最大外形16m (対角)
エレメント径と材質
:直径1mmアルミ針金12本並列 (直 径4mmアルミ単線相当) :直径2.5mmアルミ針金2本並列  (直径4mmアルミ単線相当)
重 量
:1500g(エレメント約1350g、 同調部約150g)
:1300g(エレメントのみ)
地上高
:最高点20m、最低点2m :最高点20m、最低点4m
同調容量地上高 :20m :4m
エレメント支持方法
:12m長ジュラルミン製伸縮ポールに 10m長(8mだけ使う)グラスファイバー伸縮竿をつないだ全長20mのポール :同左
エレメント展開方法
:水糸によりエレメントの四つの角を引っ 張る :同左
周波数可変方法 :バリコンを地上から二本の糸で手動操作 (糸コン) :バリコンの軸に取り付けたレバーを棒の 先で叩いて調整

 開発結果

1、DXへの飛びはバルーンアンテナより劣りますが、同じ高さの逆ブイ相当です
2、受信S/Nはバルーンアンテナよりは良いです
3、放射効率は50%以上(推測値で59%前後)を達成
4、許容電力はCW 50W以上、但し使ったコンデンサの特性でCW 50W連続はできません
5、一人で建設が可能です
6、建設時間は一時間と少し、撤収50分です
7、簡単に仮設できる20mの最高地上高(ポール)を実現しました
8、ポールは一本で済みます
9、周波数同調は遠隔手動で行いました
10、給電点は地表に近い側に置きました
 
 いかにしてMLAを設計するか(放射効率の三要素:パラメータ設定)

ここではシングルバンドのMLAを念頭に考えます、つまり周波数は固定して考えます。
MLA を設計する場合には、高い放射効率が得にくいのでまず最初にそこを押さえます。 パラメータとしてはループの大きさ、エレメントの太さ、エレメント がパイプかその他か、エレメントの素材、ループの外観形状は丸か四角か多角形か、などがあります。 損失抵抗、放射抵抗、放射効率などの計算式は雑誌の記 事や書籍から得られますが、それら三つの計算式を用いて、例えばエレメント損失抵抗を減らそうとするとループの長さを短くすることになり、そうするとルー プが囲む面積が小さくなり放射抵抗が下が り、結局放射効率が低下しかねません。 パラメータのどこから決めてゆけば簡単に最適に設定できるのでしょうか、皆様も方向性が得られずに迷うところでは ないでしょう か。 色々な大きさや形状を仮定して計算を繰り返すしかないのでしょうか。 損失抵抗、放射抵抗、放射効率の三つの個別の式を一つの式にまとめなければ答 えが簡単に得られそうにありません。

MLA放射効率の三要素

その答えは、導入経過は省略しますが、下記の式1にあります。
 (Rloss / Rr)  =K/{ ( D^3 )C√σ }  (式1)
ここで、
 Rloss:損失抵抗
 Rr:放射抵抗
 D:ループの直径
 C:エレメント断面の外周長さ
 σ:エレメント導電率
 K:比例定数
但し、損失抵抗は現実には接続の抵抗、誘電損失等々がありますがここではエレメントの高周波抵抗、つまりは表皮効果による抵抗のみを考えています。 周波 数は固定、およびループの外観形状は円形で考えます。

この式1はMLAの放射効率がアンテナのどの様な要素によりどの様に決定されるかということを一つの式で現したものです。
現実にMLAを構成する為には、その他に接続の抵抗、誘電損失等々の要素が存在しますが、アンテナの原理的なものとしてはこの式1に含まれる以外の要素は ありません。

式1の見方ですが、放射効率ηは
 η= 1 /{ (Rloss / Rr) + 1 }  (式2)
ですから (Rloss / Rr)を小さくすると放射効率が上がりますので式1の右辺が小さくなる、つまり右辺の分母 ( D^3 )C√σ が大きくなるようにすれば放射効率が上がることが理解できます。

式1は放射効率を具体的な数値で導き出すことは出来ませんが「何が重要で、何が重要でないか」を現しています。
つまり、式1から放射効率を高める為には、

1、ループの直径Dを大きくする事が大変効果的です
2、次にエレメント断面の外周長さC(つまりは太さ)、を大きくすると効果的です
3、導電率σは平方根でしか効きません。

JH1GVYは、 これを 「MLA放射効率の三要素」と名付けました。

【ループの外観形状】
ループの外観形状が円の場合には上記の 「MLA放射効率の三要素」により開発の方向性が極めて明快に得られましたので早速に設計に着手したいのですが、その前に、ループの外観形状が円形以外の 場合を考えておきます。 「MLA放射効率の三要素」はループの外観形状が正多角形の場合にも適用できますが、形状により式1中の比例定数 Kが変わってきます。 後で示す放射抵抗の式から、ループ総延長が同じならば放射抵抗は円形の場合が一番高く、正多角形の 角数が少なければ少ないほど低下します。 これは同じ長さのエレメントで囲える面積が円に比べて少なくなることからそれに比例して放射抵抗が低下してしま うこと に起因します。 ループ総延長が同じでエレメントが同じ、つまりRlossが同じ、ならば放射抵抗が大きい方が放射効率は高くなりますので予め、ループの 外観形状を決めておきます。
形  状
単 位長で囲める面積 m^2
放 射抵抗 %
円 形 7.96E−2 基準(100)
正八角形 7.54E−2 89.7
正六角形 7.22E−2 82.3
正方形
6.25E−2
61.7

MLA放射効率の三要素を考慮した設計手順

STEP1:ま づはループの直径Dを設置場所等の状況で許される範囲の最大の大きさにします。 (但し、ループ総延長は理論的に使用周波数の半波長より長くはできません し、現実的にはストレイ容量の存在でさらに短くせざるを得ません。) また、その時に重量はとりあえず忘れて、とにかく寸法的に許される最大の大きさにし ます。 これで放射抵抗Rrは決まってしまいました。

STEP2:次に、仮にエレメントの素材を決めて(例えば銅線)、目 標の放射効率が実現できる様にエレメントの太さを決めます。 STEP1でループの大きさを決めたので、後はエレメントの素材とその太さを決めれば損失抵 抗Rlossが決まり、放射効率が決定されます。
エ レメントの太さは、発表されている計算式を使って電卓を叩いたりする必要はありません。 無償 で提供されるアンテナ解析ソフトウエアを入手して、エレメントが無損失導体の場合と実際の素材の場合の利得差でいとも簡単に解ります。 目標の放射効率が 実現できるまで幾度かエレメントの太さを変えて計算させれば結果はすぐにでます。 問題はアンテナ定義ファイルの作成ですが、場合によっては新 規にアンテナ定義ファイルを作成しなくても、基本的なMLAアンテナ定義ファイルがソフトウエアに付属されていて周波数と幾つかの定数を修正するだけで済 むかも知れません。
ちなみに、利得の差dBと放射効率%との関係は以下の表の様になっております。
利得の差dB 0.5 1.0
1.6 2.2 3.0 4.0 5.2 7.0 10 13
放射効率% 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10

STEP3:最終的に重量が大き過ぎた場合にはエレメントを、中抜き つまりパイプにしたり、素材をアルミにして軽量化を図ってください。 損失抵抗分は表皮効果によるも のですからエレメントの表面積を確保すればパイプでも全く問題ありません。 また、銅とアルミではあまり損失が変わらない反面、重量的には大きく異なりま す。 同じ重量ならば銅に対して、アルミではその導電率の低さを補って余りある太いエレメントを実現できます。 丸い単線として、同じ高周波損失抵抗を実 現する時に銅では、アルミに比べて約2.3倍の重量になってしまいます。
項  目
ア ルミ
比 重 8. 95 2. 7
導電率 (S/m) 58E6 40E6
表皮深さ (μm) @1.825 MHz 48.9
58.9
表皮深さ (μm) @ 7 MHz 25.0
30.0

但し、アルミの電気接続は簡単に半田付けができませんし、やり方によっては大きな接続損失抵抗が発生しますので考慮が必要で、やはりループは余裕を持って 可能な限り大きな寸法にすることが得策です。 

その他:原理的なもの以外に当然、接続部での損失、バリコンの接点で の損失、マッチング回路での損失、同調コンデンサでの損失、等々がありますので部品の 選定や製作・加工には注意を要します。 それらの損失抵抗分はループの放射抵抗値を十分に認識してその数分の一以下の値で考えなければなりません。

導電率は平方根でしか効かない

VHF帯以上のアンテナではエレメントの素材にアルミパイプを使うことが普通ですが、ワイアーアンテナではどうしても銅を使う傾向があります。
入手し易さと取り扱い易さから銅を使うことも合理的です。 しかし、導電率の違いによる表皮効果を考えた時にはそれ程の効果は無く、振り返って重量を考え ると場合によってはアルミを使うべきでしょう。
それは損失抵抗が導電率に反比例するのは直流での話であり、高周波での表皮効果を考えると導電率の平方根に反比例するだけだからです。
つまり導体の直流での抵抗値Rは、電流が導体断面全体に流れる為に、導体の長さをL、物理的断面積をS、導電率をσとすると、 
 R=L / Sσ 
ですから直流での抵抗は導電率に反比例します。

また導体の交流での抵抗値Raは、電流が導体表面に集中して流れる為に、表皮効果による断面積をSe、表皮深さを d 、透磁率をμ、角周波数をωとすると、 
 Ra=L / Seσ 
 ここでSe≒ d C 、 d =√(2/ωμσ) - - - - - 表皮深さの式
表皮深さの式を見ると、導電率が低いほど表皮深さが深くなって電流の流れる断面積が増えて、導電率の低さを補うことが解ります。
 Ra=L / Cσ√(2/ωμσ)
     =L√(ωμ) /C√(2σ)
導電率以外を固定して定数Kとして単純化すれば
 Ra=K / √σ
ですから交流の場合には抵抗は導電率の平方根に反比例するだけです。 例えば導電率が二倍でも損失抵抗は半分になるのではなく、1/√2 (約0.71)にしか減少しないのです。 逆に、導電率が低く例えば半分でも損失抵抗は二倍になるのではなく、約1.4倍にしか増えないのです。 

MLA成功のポイント

MLA成功のポイントは数百ミリオーム以上の放射抵抗を持つ大きさのループにすることです。
希望する放射抵抗 Rr を得る為に必要なループの直径Dは次式で計算できます。
 D=2λ{(Rr/320π^6)^(-4)}  (式3)
  注: ^(-4) は四乗根の意味、√のまた√です。

例えばアンテナ解析ソフトウエアにおいて、エレメントに『無損失』を選択して自由空間で計算させると、計算結果のアンテナ入力インピーダンスの抵 抗分が放射抵抗に相当すると思われますので、この方法でループの直径Dにおいて希望の放射抵抗が得れているかどうかを確認できます。

ご参考までに、微小ループアンテナの放射抵抗の一般式は
 Rr=320 { (π/λ)^4 } (NS)^2   (式4)

また、微小ループアンテナの損失抵抗の一般式は
 Rloss={ N L1√(πμV/λ)} /C√σ)   (式5)

但し、エレメントの高周波抵抗つまり表皮効果の抵抗のみの計算。
ここで
 N:ループ巻数
 S:ループの囲む面積 (m^2)
 L1:ループの一巻周長 (m)
 C:エレメント断面の周長 (m)
 λ:波長 (m)
 μ:エレメント透磁率  非磁性体 ≒ 4πE-7 (H/m)
 σ:エレメント導電率
 V:光速 3E8 (m/s)
となっております。

 MLAの秘密?

過去にMLAは多分『小型高能率』として話題にされていたと記憶していますがJH1GVYも、多分大勢の方が感じていたと同じで、半波長ダイポールに比べ て極めて 小さなアンテナが同等の性能を有するというのは全く信じてはおりませんでした。 しかし、それは技術的な根拠が有った訳ではありませんでした。 長年の経 験等から『長さや大きさが、アンテナの性能を決める』と信じておりました。 しかし、『同等』という所に若干の疑問はあるものの、マルチバンドMLAの可 変範囲内の低い方の周波数バンドを除けば、MLAは半波長ダイポールに比べて若干劣る程度の高い性能を持っております。 但し、間違えても半波長ダイポー ルを超えられるとは考えないで下さい。 そのMLAの高性能の秘密は難し い数式を持ち出すよりも、以下の様に考えれば理解できると思います。

アンテナの利得は二つの要素のみで決まる

そもそもアンテナの利得は何により決定されるているのかを、話を単純化す る為に大地の影響の無い自由空間で考えた時にそれは、指向性の広 がりと内部損失のたった二つの要素しかありません。 これは極めて単純明快な事柄なのです。 例えば、無損失の完全無指向性アンテナ(アイソトロピックア ンテナ)に比べて無損失の半波長ダイポールでは その利得が 2.15dB だけ高いのは、両者の指向性の広がりの違いからです。 無損失の両者に同じ高周波電力を供給した場合に、空間に放たれる総エネルギーはエネルギー不変の原 則 から両者で同じであることは容易に理解できます。 そうならば、そのエネルギーが完全無指向状に放たれるのか、それとも半波長ダイポールの様にドーナツ状 に、ある方向に集中して放たれるのか、その指向性の広がりの違いだけがアンテナの利得を決定し、そのエネルギーの集中度が利得の大きさを決定します。 全 ての指向性アンテナはこれを積極的に利用して指向性を狭めることで高い利得を得ています。 後は、アンテナの内部損失の分だけ利得が下がるだけです。  これは全てのアンテナの基本原理です。
半波長ダイポールとMLAに話を戻すと、両者はほぼ同じドーナツ状の指向性ですが半波長ダイポールは長い寸法が幸いしてこちらの方が指向性が若干狭められ ているのでその分だけ若干利得が高いです(最大でも約 0.4dBの差)。 従って内部損失を同じにできるのならば、寸法が大きく異なる両者であってもアンテナ利得に大きな差が無くて何の不思議も無いのです。  短縮アンテナ全般において同じことです。 その内部損失は何により決まるかといえば大勢は、放射抵抗とそれに対するアンテナエレメントの損失(高周波表 皮)抵抗 の割合により放射効率ηは式6の様に簡単に決まりま す。
 η= Rr / (Rloss  + Rr )   (式6)
放射抵抗Rrや損失抵抗Rlossの絶対値の大きさで決まるのではなく、その比率で内部損失(放射効率)が決まります。
給電点から見たアンテナの電気等価回路を10に示します。 式 6はこの等価回路に当てはまります。

図10:MLAの等価回路
ご存知のとうり半波長ダイポールの放射抵抗は約75オーム ですからアンテナエレメントの高周波表皮抵抗が例えば19オーム(現実にはこんなに高い抵抗値はありえない)有ったとしても放射効率は約80%(=損失約 1dB)です。 一方、MLAの放射抵抗は波長に対するループの大きさによりますが一般にあるものでは数ミリから数百ミリ・オームしか有りません。 放射 効率80%を実現する為にはアンテナエレメントの高周波表皮抵抗は放射抵抗の四分の一しか許容されませんのでMLAでは極めて厳しい値であります。 しか しまた、それを知って対応した設計をすれば不可能ということでもありません。 従ってMLAは半波長ダイポールと同等の性能が得られるとして何の不思議も ないのです。
それ以外にも、MLAがエレメントを丸く畳んでいることによる視覚上の小型さがその高性能さを疑わせる一因であったかも知れません。 丸く畳んだエレメン トを直線に引き伸ばすと結構な長さになり、高い放射効率が得られる周波数では半波長からそれ程にも極端には短縮されてはいないのではないでしょうか。 例 えばAMA2という直径1.7mのMLAは14MHzでの効率は95%とありますが、エレメントの総延長は単純計算すると5.34mであり、短縮率50% 程度です。

MLAのQに関して

MLAを給電点から見た等価回路(図10)からQは7により表せます。(但し、信号源とインピーダンスマッチングさせて接続 された状態では半分の値になります)
 Q=2πf L/(Rr+Rloss) (式7)
Lはループのインダクタンスです。 ループに内部損失が無くRloss=0とした場合は
 Q=2πf L/Rr
ここで、Lは概ねループの直径Dに比例し、Rrはループの直径の四乗に比例する ので、周波数を固定して比例定数をKとすると
 Q≒K(D/D^4)=K/D^3 (式8)
こ の式8をみると、Qはループの直径の三乗に反比例の関係にあって、面積を小さくした小型化ループほど高Qで帯域幅が狭くなり、大きなループほど低Qで帯域 幅が広くなることを示していて、基本原理的には例え内部損失が無くてもQはループの寸法によって決まることを意味しています。

また、帯域幅BはQの逆数に比例しますから、帯域幅はループの直径の三乗に比例 することになります。 比例定数をKbとすると
 B=KbD^3
になります。

図11:MLAは原理的に小型ループほど高Qで狭帯域、大きなループほど低Qで広帯域
説明したようにQ が高いと損失が少なく、Qが低いと損失が多いということではありません。 しかし、現実にはループのRloss=0ということはなく、小型化し過ぎると Rrが極端に小さくなる為 にエレメント導体の損失抵抗や接続抵抗の割合 が増してかえってQが低下します。 この場合のQの低下は損失が多くて放射効率が低下したことを意味し、設計値よりもQが低くて広帯域の場合には何か予想 外の損失が発生してい ると見るべきでしょう。 短縮したアンテナ全般に同じと思えますが、小型なのに帯域幅が広いアンテナは放射効率が低いことが多いので要注意です。 最も小 型で最も広 帯域のアンテナはダミーロード・アンテナであり、ほとんど電波は出ません。
説明したようにMLAのQと放射効率(アンテナの内部損失)の関係は一概に、比例とか反比例とかの関係にないことになり、Qから単純にアンテナの良し悪し を判断することはできないのです。

周波数可変マルチバンドMLAの宿命

MLAをシングルバンドで設計すると適度なエレメント太さと重量の範囲内で効率をある程度確保することは容易です。
しかし同調コンデンサを可変してマルチバンド化する形式では希望する最高動作周波数によりループの大きさの上限が制限されて、希望する最低動作周波数で高 い効率を確保するのに必要な大きなループ(大きな放射抵抗)を構成できません。 つまり、MLAの同調コンデンサ容量をゼロにすると最も高い周波数で動作 をして、それはルー プ総延長が半波長になる周波数になります。 そうです、それはほぼ半波長のダイポールを丸く畳んだ物に他なりません。 しかし、現実にはバリコン等は容量 をゼロにすることはできなくてストレイ容量が残ってしまい、その為にループ総延長が三分の一から四分の一の波長になる周波数が最高動作周波数になります。  逆に言うと、希望する最高動作周波数の三分の一から四分の一波長の総延長のループよりも大きくすることはできないのです。
最高動作周波数により大きさが制限された中で同調コンデンサを可変して可変周波数比を大きく取ると低い周波数の波長に対してループ総延長を大きく短縮して 使うことになり、放射抵抗が低下してどうしても効率が下がってしまい低い周波数で『電波が出ないこともない』程度のアンテナになりかねません。
それを補うためにはエレメントを極太に(つまりは表面積を多く)して高周波表皮抵抗を下げなければならず、結果的にとんでもなく大重量になってしまいま す。
周波数可変マルチバンドMLAでは、半波長ダイポールに匹敵する高い効率は最高動作周波数に近いバンドでしか得られなく、可変範囲の全てのバンドで得られ る訳ではないのが現状です。 これが周波数可変マルチバンドMLAの宿命です。
以上がMLAの秘密です。
 
 アンテナ解析ソフトウエア

無償で提供される、ごく普通のパソコンで動作可能な、アンテナ解析ソフトウエアが幾種類かあります。
JH1GVYは移動運用トップバンドDX向けMLAの開発において始めてアンテナ解析ソフトウエアに触れ、MMANAと呼ばれる皆様も既にご存知のものを 使わせて 頂きました。 このソフトウエアには計算エンジンとしてMININEC(ミニ・ネック)というものが組み込まれているとのことですが、それには解析能力に ある部分限界があ るとのことです。 アンテナ近傍の実大地の影響を正しく解析することができない場合があるようです。 つまり、ローバンドでは波長が長くてアンテナの地上 高が波長に比べて非常に低い場合が多いですし、接地をすることがありますが、その様なときに解析結果に大きな誤差が出る場合があるようです。  JH1GVYの経験 では利得が多めに計算されましたし、極端な場合にはエレメント上の電流分布が異常な波を打ちました。
一方、NEC−2 for MMANAというソフト ウエアがあり、MMANAで作成したアンテナ定義ファイルを読み込んで解析ができます。 JH1GVYはMMANAでアンテナ定義ファイルの作成を行い、 そのファ イルをNEC−2 for MMANAに読み込んで解析し、問題があれば再びMMANA でアンテナ定義ファイルを修正し再保存後に、再びNEC−2 for MMANAのRefreshボタンで修正済ファイルを読み込みし直して解析するとい う作業を繰り返します。 JH1GVYもまだ不勉強で良くは解っていないのですが、NEC−2 for MMANAの方がローバンドにおいてア ンテナ近傍の大地の影響をより正しく解析できるようになっているのではないでしょうか。 但し、幾つかの制限事項があるようです。 また、ワイアが大地に 接続されていると大地構造を完全大地(完全導体)としてしか解析できないので、接地型アンテナで実大地の影響を解析するには向いていないと思えます。

 放射抵抗と損失抵抗

放射抵抗はその定義から給電点から見た値です。 従って一般に、同じアンテナでも給電点を移動すると放射抵抗は変わります。 波長に対して十分に小型の ループアンテナの場合にはループのどの場所でも同一電流が流れているとして、計算や解析が行われれることが多いようですし、話を簡単にする目的でこの記事 でも同様にしています。 ループのどの場所でも同一電流とすると給電点が何処にあろうと放射抵抗は何処でも変わることはありません。 これらは損失抵抗に ついても同様です。 一方、ここで紹介したMLAでは大型の為にループの場所によって多少電流の大きさが異なります。 同調コンデンサの所で電流が最小 で、その対向点で最大になります。 その為に、場合によっては一見矛盾したことが起きます。
例えば、理論上は大きなループほど放射抵が大きいのですが【開発したマグネチック・ループ・アンテナの緒元】の表で放射抵抗(推測値)はアンテナの大きさ と反転していますし、エレメントは同じ直径4mmアルミ単線相当ですのでループの大きな方が損失抵抗が大きくなるはずですがこれも表の損失抵抗(推測値) は反転しています。 この現象は、ループの場所によって多少電流の大きさが異なる中で、二つのアンテナで給電点が、一方が同調コンデンサの所、他方がとそ の対向点にあることによります。
損失抵抗は物理的に計算されたものであり給電点が何処にあっても変わりようがないように思えますが、抵抗は抵抗であってそこ に電流が流れて始めて熱として損失が発生するのであって、同じ抵抗値であっても電流の少ない所にある抵抗はより少ない損失しか発生しなく、図10のMLAの等価回路で考えた場合の損 失抵抗はあくまでも“給電点から見た等価損失抵抗”という意味になるので理想化したり単純化した計算や考え方と現物は違ってきます。 MLAでは放射抵抗 が低く、それに対する接続による抵抗での損失を考えると給電点はインピーダンスの高い同調容量付近にする方が得策かも知れません。

 他のアンテナとの類似性


図12:ハロー・アンテナとスケアロー・アンテナ
移 動運用トップバンドDX向けMLAの開発を終えてから、他のアンテナも色々と勉強してみるとアンテナ間の類似性が見えてきました。 MLAの同調コンデン サ容量をゼロにすると最も高い周波数で動作をして、それはループ総延長が半波長になる周波数になり、ほぼ半波長のダイポールを丸く畳 んだ物に他ならないことを説明しましたが、この状態のアンテナは古くから知られているハロー(またはヘイロー:Halo)アンテナ(図12) というもので、放射特性 はMLAとほとんど同じです。 同じ様に、丸ではなく四角に畳んだ物はスケアロー・アンテナと呼ばれていて基本的に同じ物です。
これらのアンテナを含む面を水平にすると水平偏波で、多少崩れています が、水平面無指向性に近い放射になります。 ハローアンテナのエレメント端間に容量を少し取り付けて同調周波数を少し下げたもの(少し小型化されている) を更に発展させるとMLAになります。
また、逆ブイ型アンテナのエレメント両端を中 央ポール付近に引いて三角形の底辺の一部分が切断された様な形状のアンテナを作って『コンパクト逆ブイ』(図13)と命 名しましたがこれは三角形のハローアンテナを垂直設置したに過ぎませんでした。 このアンテナの周波数を1.9MHzから1.8MHzに切り替える方法と して両エレメント端に2mのワイアを垂らしましたが、これはMLAの同調容量と考えることもできます。
図13:コンパクト逆ブイ型アンテナ

 ま た、頂点高20mでエレメントがアルミ針金直径2mmの逆ブイ型アンテナのエレメント両端を下げて各端4.3mの長さを地上高10cmに保持した場合の垂 直偏波の放射特性(図14)を見てみると Inverted 型のMLAと似てきます。 このアンテナは、もはや水平偏波ではなく垂直偏波が主要成分にの し上がっ て、天頂方向の利得が下がって、 逆に低い打ち上げ角の利得が持ち上がってきて、垂直偏波のDX向けアンテナに近づきます。 これはエレメント両端が大地間容量を介して結ばれてルー プ状になりMLAと似た特性になっているためと考えられます。 
CQ誌2003年10月号で紹介された、160m Band DXCCを完成させた、JA1BWAのトップバンドのロングワイアはどういう動作形式のアンテナなのか解らずに「不思議なアンテナ」でした。 しかしよく 見ると給電こそエンドフェッド形式になっていますが、まさに上に述べた逆ブイ型アンテナの両端を更に大地と強く結合させた物ではないでしょう か。 アンテナ解析ソフトウエア上でJA1BWAのトップバンドのロングワイアを解析してみるとまさに Inverted型MLAに似た放射特性(図 15)で、見事に低い打ち上げ角まで垂直偏波の利得が 伸びていてDXに向くのではないかと思われます。 JA1BWAはそれを『送受にバランスが取れたアンテナ』と評していて、受信特性にも幾らか優れた点が あると推測できますが、そうだとすればそれはループアンテナ的なところから来ているのでしょうか。

図14:エレメント両端を下げて大地に限りなく近づけた変形・逆ブイ型 アンテナの放射特性(MMANA)

図15:JA1BWAのトップバンドのロングワイア・アンテナの放射特 性(MMANA)
注意:図14と15は利得が高めになっていますが、NEC−2 For MMANAにより例えば、エレメント両端を下げて大地に限りなく近づけた変形逆ブ イ型アン テナを評価するとパターンの形は変わりませんが、利得は下表のとうりMMANAでの場合に比べて5.3dBほど低く解析されます。 評価結果はソフトウエ アにより、MLAと逆ブイ系のDX向け低仰角での優位性が反転してしまいます。

アンテナ解析ソフトウエアによる計算結果の違いの例 (仰角27度の利得 dBi )
アンテナ
MMANA
NEC −2 
For MMANA
差  分
6MLA54R2AL
0.57 (図 4)
−1.20 (図 6) 約1.8
Inverted 6MLA48R2AL 0.33 (図 5) −1.68 (図 7) 約2.0
Inv−Vee, アルミφ2mm
 wire end H=4m
1.27 (図なし)
−1.95 (図  8) 約3.2
Inv−Vee変形, アルミφ2mm
 wire end L=4.3m/H=0.1m
2.63 (図14) −2.64 (図 16) 約5.3
JA1BWAのトップバンドのロングワイア 2.05 (図15)

上表中の*印は大地に完全導体を要求されるので評価から除外しました。
最高点の高さは、JA1BWAのトップバンドのロングワイアが23m、他は20mです。
 
図16:エレメント両端を下げて大地に限りなく近づけた
変形・逆ブイ型アンテナの放射特性(NEC-2 for MMANA)



 夢のアンテナ

何事も夢を見ること、夢を見られること、それは将来に希望を持てるという意味で重要です。
アンテナに一つの夢があります。 それは超伝導の導体によるアンテナです。 例えば、電 波時計に利用されている 40kHzの超長波は波長が7.5kmであるから送信アンテナを大きく短縮して建設せざるを得ないだろうが、それでもなお広大な敷地を要することは明白だ し当然、放射抵抗が低下して放射効率が大きく低下しているだろうが、ここで超伝道の導体でアンテナを作るとすると損失抵抗はゼロだから、アンテナを極端に 短 縮して放射抵抗が低下しても放射効率が低下することは無く、猫の額ほどの敷地で数キロメートルのフルサイズのアンテナと同じ利得のアンテナの建設が可能で はないだろうか。 この場合、放射抵抗がマイクロオームになってインピーダンスマッチングが困難になるかも知れません。 アマチュアに137kHz帯開放 という話もあり、夢のアンテナを実現すれば実に痛快ではないでしょうか。

 最後に

移動運用トップバンドDX向けMLAの開発の結果としては、送受信性能的 には逆ブイ型アンテナとほぼ同等で、建設の容易性で は 劣るというお粗末なことになりました。 がしかし、恐らく初めてと思えますが、一つの式で高い放射効率を得る為の方向性を示したことおよびその式から「放 射効率の三要素」とい う考え方を提示して、結果としてトップバンドで約60%の高い放射効率の得られるMLAが開発できたことは意義があるのかも知れません。 また、開発の過 程でアンテナ技術や関連諸事に関して多くを学び、JH1GVYとしては得るところが極めて大でした。 以上説明し たことがアンテナの捉え方の一つとして諸氏の何かの参考になることを願っております。
JH1GVYはアマチュアでアンテナ技術の初心者ですのでこの記事に技術的な間違えや不正確さが有るかも知れませんので、皆様のご指導ご指摘を頂ければ幸 いです。
マグネチック・ループ・アンテナに関してはCQ誌1999年9月号の記事『マグネチック・ループ・アンテナの研究、筆者:JG1UNE 小暮裕明氏』を大 い に参考とさせていただきました。

(C)2006年  埼玉県草加市 森岡 進 JH1GVY