135kHz 帯の等価等方輻射電力考 JH1GVY 森岡進

始めに

2009年3月17日付官報にて総務省告示が掲載され、事前に知らさ れていたとうりの内容で本年3月30日から日本のアマチュア無線においても135kHz帯が開放 されました。事前にこの詳細と海外の動向などがJE1SPY芦川氏によりCQ誌1月号で紹介され、更に同氏により135kHz帯等価等方輻射電力の解説もCQ誌3月号に掲 載されました。この135kHz帯の等価等方輻射電力(以下ではEIRPと略します)は1W以下である事が求められていますが日本のアマチュア無線におい ては馴染みが薄いので芦川氏の記事になったと思われます。幸いと言って良いと思いますが、EIRPに関しては、電界強度を測定したりアンテナの利得を測定 したり、理論計算したりしてEIRPが1W以下である事の証明は無くても構わない模様です。しかし、筆者はアマチュアとはいえ無線技士の端くれとして発射 する電波のEIRPを把握する方法を考えてみました。(以下輻射は放射と記します)


1、電界強度測定結果からEIRPを計算する方法

EIRPを 明らかにするには、送信電波の電界強度を測定してその結果から逆算する方法、又は、送信アンテナ利得と空中線電力から計算する方法の二通りあると思いま す。
まずは前者の方法を考えます。前者の方法では正確な電界強度計が必要でアマチュアには経済的余裕のあ る方以外では一般的には難しいですし、自作するにしても使用頻度も多くないことから手間暇と金を注ぎ込みたくはありません。従って電界強度計に匹敵する物 をいかにして簡単に自作するかという事になります。
筆者が考えたのは図1の方法です。つまり受信アンテナには例えば非同調且つマッチング抵抗内蔵の1m 角の空芯正方形ワンターンループアンテナを使います。次に、受信機のSメータを信号発生器により較正しておきます。
尚、この際、話を簡単にする為に、芦川氏の指摘する上空での電界強度の値や、アンテナ環境の変動によ る影響は忘れる事にします。また、より精度を上げるためには測定回数と測定場所を増やして平均値を得るなどの方法が考えられます。

EIRPと電界強度の関係

EIRPと電界強度の関係は、Eを電界強度(V/m)、r を送信アンテナからの距離(m)とすると、次式のとうりです。
EIRP = { ( r E )^2 } / 30 (1式) 又は、E = [ √(30EIRP) ] / r (2式)
但し、r は半波長程度以上の事。
例えば、距離 r = 2 km、電界強度 E = 1.37 mV/m  とすると、1式から、EIRP = { ( 2 x 1.37)^2 } / 30 = 0.25 W になります。
例えば、EIRP = 1 W で、距離 r = 2 km とすると、2式から、電界強度 E = (√30) / 2 x 10^3 = 2.74 mV/m になります。
尚、ここで距離を2kmとしたのは、あまり距離が近いと放射電磁界以外の誘導電磁界成分の為に誤差が 生じるとされている事と、あまり遠いと電波が弱すぎて測定しずらい、つまり誤差が生じ易いからで、切の良い値にしてみました。

受信アンテナ

この様なアンテナを使う理由は二つあります。理由の一つは、誰が作っても間違いなくほぼ同じ特性が得 られそう、つまり再現性が高そうだという事です。他の理由の一つはアンテナ自身の較正があまり必要でない ことです。このループは非同調で使うので、受信端に現れる電圧は低いですがそれは再現性が高い値と思えるからです。もし仮に、このループを同調してQが高 い状態で使ったとすると、出力電圧はループのQ値により影響を受けます。つまり下記の式で示す様に、出力電圧は受信の起電力のQ倍になり、アンテナの作り 方などによってQが変われば当然出力電圧も変わります。(アンテナ出力を低いインピーダンスで終端すると、アンテナインピーダンスのバラツキに起因して同 様に誤差が大きくなります。一番誤差が少ないのは開放端電圧の測定です。)
eL = Qer  (3式)
eLは 出力電圧(受信機入力電圧)、erは受信の起電力 er = EL、Eは電界強度、Lはループアンテナ実効長 = 2πAN/λ、AとNはループの面積と巻数
A = 1m x 1m = 1、N = 1なので、er = EL = E2πAN/λ = E2π/λ
eL = QE2π/λ  (4式)
しかし、非同調で使えば受信端に現れる電圧はほぼ受信の起電力が表れて変動要因が少なくて、ループの 作り方でQが変わっても1m x 1mの寸法さえ正しければ出力電圧はループアンテナの実効長だけに従った値となって変動はありません。しかし、そのままではループのインピーダンスは数オームなので出力を同軸ケーブルで引き回す目的でループの出力端子に抵抗 を挿入して、受信機のインピーダンスになるべく等しくしますので、最終的なループの出力電圧は受信の起電力の半分にほとんど等しくなり、
eL = er/2 = Eπ/λ (5式)
となって、極めて簡潔な式になります。図1の例で計算してみると電界強度 E = 2.74 mV/m、λ = 2206mを5式に代入すると
eL =  3.9uV  です。
もしも、この電圧が受信機にとって足りない値であればループの大きさや巻数を少し増やすことも考えな ければなりません。尚、ループは図1に示すように、正方形を保ちつつループの中心で45度回転(菱形に)して給電点を角にしても全く同じですので、この方 が支柱を含んだ十字架フレームで済むので簡単です。
 
まとめると、1式と5式から
EIRP = { ( r eL λ/π)^2 } / 30
ここで、距離 r = 2 km、λ= 2206m、とすると
EIRP = (6.57 x 10^10) x eL  ^2  (W) (6式)
但しeLは ループ出力終端電圧(受信機入力電圧) (V)

受信機のSメータの較正

アンテナの次に受信機のSメータの較正をしなければなりません。出力信号レベルが正確に読める信号発 生器があればSメータの較正は簡単です。3.9uV を EIRP = 1W としてSメータを較正すれば良いのです。周波数が低いので低周波信号発生器でも可能性があります。自作する場合にはLC発振回路を作り、確認し易い少し大 き目の電圧を発生させて、アッテネータで減衰させて所望のレベルにするのがよいでしょう。将来的にはメーカー製のトランシーバや受信機でSメータのピンポ イント設定がされる事が可能ならば嬉しい限りです。
お断りしておきますが、これはあくまで机上論で、実際に確かめた訳ではありませんので、受信機が 3.9uVを十分なS/Nで受信できるのか、Sメータの表示の細かさは機種毎に異なると思いますが、細かい機種でもこの測定に適する細かさが有るのかは確 かめてありません。


2、送信アンテナ利得と空中線電力からEIRPを計算する方法

送信アンテナの絶対利得G及び空中線電力P(W)が判っていればEIRPは簡単に次の式で計算できま す。
EIRP=GP (W) (7式)   dB表記では EIRP=G+P  G:dBi、P: dBW
しかし、波長2200mの送信アンテナの利得を知るために測定する にしても、計算するにしても簡単ではありません。しかし、アンテナ入力インピーダンスの抵抗分が測定可能ならば、そして多少の割り切りをすれば計算は簡単 になります。最初に述べた電界強度測定によればEIRP が判りますので、ここでは送信アンテナの利得を直接的に計算する事にします。アンテナシュミレーションのフリーウエアMMANAを使ってパソコンで簡単に計算出来ます。その前にアンテナの利得Gを指向性利得 Gdと放射効率ηに分けて考えると7式を8式に書き換えられます。
EIRP = Gd (Rr/Ra) P (8式)
ここで、Gd:指向性利得、Rr:放射抵抗、Ra:アンテナ入力インピーダンスの抵抗分、 (Rr/Ra)=η:放射効率


指向性利得と放射効率

指向性利得は放射効率を考えない場合の、つまり効率100%と考えた無損失の場 合の理論利得で、従って完全無指向性からどの程度指向性が絞られたのかだけを表します。この指向性利得という用語はあまり馴染みが無いと思いますが、実は よく出て来る『半波長ダイポールアンテナのアイソトロピックアンテナに対する(損失が無い場合の理論的な)利得は2.15dB 』というのがこれに当り、『損失が無い場合の理論的な』を通常は省略しています。式で表すと、
G=Gdη (9式)
となって、実際のアンテナで通常使う利得は損失を含むこのGの事です。半波長ダ イポールと同じで、他のアンテナでも、実際の利得とは別にアンテナの形式によりこの指向性利得は決まっていて、接地された短いモノポールでは、
接地された短いモノポールの指向性利得Gd ≒ 4.8 dBです。
この4.8dBの利得には当然に接地での損失やローディングコイルでの損失も含 んでいない完全無損失な場合のアンテナの利得です。136kHzバンドの送信アンテナとしては現実問題としてこの接地された短いモノポールアンテナ以外に は適当な物が無くて、逆L形もこれに含まれますのでEIRPを計算上する場合には4.8dBを使います。8式の利得Gdは4.8dBで、空中線電力Pは判りますので残りは放射効率η=(Rr/Ra)だけです。これをMMANAで計算させれ ばEIRPは計算が可能です。勿論、アンテナシュミレーションのソフトウエアが無くても公式を用いて計算する事も出来ますが、ソフトウエアを使った方が便 利です。公式を使う場合にはRik, ON7YDの136kHzアンテナのページ(http://www.strobbe.eu/on7yd/136ant/) に詳しく掲載されています。尚、短いモノポール系アンテナでの計算ではMMMANA内で指向性利得として約4.8dBが使われています。


MMANAで計算する場合の設定は、

  1. 完全導体グランドを選ぶ。(これは割り切りです、お望みならばリアルグランドを設定して下さ い)
  2. アンテナアナライザ等で測定した入力インピーダンスの抵抗分(接地抵抗、ローディングコイ ル、エレメントでの損失等々全てが含まれている)を給電点に設定する。
  3. ローディングコイルのQはゼロ(この場合のゼロは損失がゼロでQが無限大を意味します)を入 れる(二番目の入力インピーダンスの抵抗分に含まれる為)。
  4. エレメントは無損失を選ぶ(二番目の入力インピーダンスの抵抗分に含まれる為)。
アンテナを定義した後で、ここで示した設定によりMMANAで計算させると指向 性利得と損失を合わせた利得G (例えば -30dBi )が表示されますので、7式のdB表示の方を使って、例えば空中線電力Pが100Wならば P = 20 dBW として、
EIRP= -30 + 20 =  -10 dBW = 0.1 W
の様に計算できます。尚、空中線電力P = 10W = 10dBW、50W = 17dBW、200W = 23dBW、500W = 27dBW、1kW = 30dBWです。


計算例

試しに、高さ H = 10m、水平部 L = 10m の逆L形アンテナで、地面近くでコイルでローディングして同調させたとします。アンテナ入力インピーダンスの抵抗分が120オームと測定されたとして MMANAで計算すると、
G = -33.7 dBi になって、P = 100 W ならば
EIRP = -33.7 + 20 =  -13.7 dBW = 43 mW になりました。
また、ロー ディングコイルのQを300として、その分を除いた損失抵抗分を20オームに設定すると入力抵抗分は約51.4Ω、SWR(50Ω) = 1.1 程度になり、
G = -30 dBi になって、P = 1 kW ならば
EIRP = -30 + 30 =  0 dBW = 1 W になりました。
これで、空中線電力1kWで、やっと EIRP = 1W を達成することが出来ました。
尚、アンテナに入力された1kW は0.033%( = 0.33W )が利得=3のアンテナで電波として放射されてEIRPが1Wになり、ローディングコイルで約61%が、接地抵抗その 他の20オームで約39%が熱として消えています。ローディングコイルのインダクタンスは約 11mH になって許容電力は610W以上が必要です。アンテナの放射抵抗を公式で計算すると17.3 mΩですが、MMANAではかろうじて0.017Ωと計算されます。
 


まとめ

135KHz帯において、EIRPを計算する為の簡易電界強度測定方法(図1)及 び、アンテナシュミレーションソフトMMANAでの送信アンテナ利得計算からEIRPの理論(推測)値を求める方法について考えてみました。EIRPの理 論値を求める過程で EIRP = 1W を実現する事がどういう事なのかの概要を示唆することが出来ました。筆者はアマチュアですので何か間違いがあるかも知れません、ご指摘やご意見を歓迎しま す。
尚、このバンドでの運用でEIRP以外に注意するべき点として、A1A(通常の電 信)及び幾つかのデジタルモードが許可されますが、デジタルモードの占有帯域幅は100Hz以下の規定からすると通常のRTTYの170Hzシフトは使え ません。また、総 務省サイト及びTSS潟Tイトで 135kHz帯アンテナの条件としてガイドラインが示されています。皆さんもアンテナを楽しみましょう。
 
埼玉県草加市 森岡進(もりおかすすむ) JH1GVY
メール:こーるさいん@jarl.com