
治療選択肢 |
● 無処置 |
「雑録 顔面痙攣」では、患者の視点で収集した情報をご紹介しています。記述には慎重を期したつもりですが、私は医師・薬剤師ではありません。「参考情報のひとつ」としてご利用いただき、ご自身の責任で専門家にご相談くださるよう、お願いいたします。 |
顔面痙攣の大部分は放っておいても危険はないそうで、どれ程の症状なら治療が必要かは患者自身の感じる辛さの程度によるようです。私自身は、診断を受けてから手術を選択するまでは無処置でした。一刻を争う疾患は疑われないようですが、脳腫瘍などが顔面痙攣の原因となっている場合も稀にあるそうなので、数週間〜数カ月と症状が続くなら、一度は専門医を受診されてはいかがでしょうか。
顔面痙攣に対する新しい治療法としてA型ボツリヌス毒素の筋肉注射が注目されており、欧米では1990年頃から、日本では1997年から「眼瞼痙攣」を対象に使用されており (商品名 ボトックス)、2000年1月18日に「片側顔面痙攣」への適応拡大が承認されました。(2001年6月20日には「痙性斜頚」への適応も承認)
目の廻りや口元に筋肉注射をして、ボツリヌス菌の毒素によって人工的に顔面神経を麻痺させるものです。注射の数日後から効果が現れますが、一過性の顔面麻痺(効きすぎ)で瞼が閉じにくくなる場合もあり、そのような時はドライアイに対するケア(目薬や眼帯など)が必要なようです(逆に涙が出すぎて困ったケースも聞きました)。この時期を過ぎると安定した効果が期待されますが、3〜4カ月ほど(個人差あり)で神経の再生が進んで痙攣も再現します。根治療法ではなく、数カ月間隔で注射を繰り返さなければならないのです。また、免疫作用(中和抗体の産生)で注射しても効かなくなる場合もあるとされていますが、私は頻度の統計を存じません(7回までは大丈夫との論文記載もあります:J. Neurosurgery,1995, 82,201)。
現在のところ、注射を受けるには文書による同意が義務づけられており、健康保険での自己負担は約3万円(70才以上は1〜2万円)です。私自身はボトックスの適応拡大を待たずに手術療法を選んだことを後悔していませんが、これは結果論かもしれませんし、ボツリヌス療法で当面の苦痛を取り除いてから手術を再考するのも選択肢のひとつとなっているようです。
米国 Allergan 社の発表(2002年4月15日)によると、A型ボツリヌス毒素(BOTOX® COSMETIC)は、65歳以下の成人男女における眉間の縦皺の一時的改善について、 FDA(米国食品医薬品局)の承認を受けたそうです。額の皺は主に皺眉筋(しゅうびきん)と鼻根筋(びこんきん)の過剰収縮によって生じ、これらの筋肉を弛緩させることで、注射後4ヶ月にわたって表情を改善するとされています。皺とり目的でボトックスを使用することは、日本国内でも既に行われていますが、医療用医薬品としての適応は未承認です。美容目的の適応外使用については紹介を避けていましたが、FDAが承認したのを機に加筆しました。
神経血管減圧術(Neurovascular Decompression: NVD)という開頭手術で、熟達した医師が施術すれば片側顔面痙攣の9割以上が治癒すると言われています。「微小血管減圧術 (Microvascular Decompression: MVD)、ジャネッタ術(Jannetta's Surgery)などの呼称は同じ術式を指しますが、術式の細部は医師の方針や患部の状況によっても異なるようです。私が主治医から受けた説明を本編に記載していますが、合わせて他の医師による情報も紹介します。
現在のところ片側顔面痙攣に対する最も有効な治療法とされており、開頭手術としては侵襲(患者の身体的負担)も少ない部類のようですが、他の疾患をお持ちの方などが「手術に耐えられない」と診断される場合もあるようです。「命に関わらない病気を治療するために脳幹部の手術を施すこと」の必要性 vs リスクのバランスから、手術療法に消極的な先生もいらっしいます。顔面痙攣の症例数はそう多くないので、この手術に熟達した医師は限られているようですが、「手術を薦める医師は神経血管減圧術に熟達しているはず」というご意見を伺ったこともあります。それなりに有意義な目安という気がいたしますが、本来は症例数や手術成績を担当医師に尋ねるべきでしょう。そんな質問は、ひと昔前なら「恐れ多い」という感じだったでしょうし、私自身も尋ねる度胸がなかったのですが、「インフォームド・コンセントの一環として患者に伝えるべき」と考える医師も増えてきているようです。
なお、眼瞼痙攣(Meige症候群)は本手術の対象になりませんが、「いわゆる眼瞼痙攣」が片側顔面痙攣の一症状を指している場合もあるようです。
公式な公開情報でありませんが、成功率や合併症発生率は施設(医師)によって差が大きいようです。片側顔面痙攣症の診断が確定したなら、急を要する病気ではないのですから、手術を受ける施設(医師)は慎重に探されることをお奨めします。 |
様々な抗痙攣薬が対症療法的に使われていますが、残念ながら顕著な効果は期待できないようで、薬物療法に消極的な先生もいらっしゃいます。主に処方されているベンゾジアゼピン系抗不安薬には「痙攣があっても気にならない」という精神状態に近づける意義もあるかもしれません。
頭蓋骨に顔面神経管というトンネルがあり、ここを通って耳たぶの後ろで頭蓋骨を出た顔面神経は、枝分かれしながら顔面の各所に延びています。顔面痙攣に対する神経ブロックでは、顔面神経管の出口(茎乳突孔)から針を刺し、局所麻酔薬などで神経活動を弱めるそうです。効果は永続的でないとされ、顔面神経の損傷(意図的に神経線維の一部を切断する方法もある)によって顔面麻痺を生じるリスクも指摘されています。 ほかの疾患があって手術に耐えられない症例や患者が手術を躊躇する場合に、神経ブロックが行われてきたようです。
私は神経ブロックについて医師の説明を受けておりませんし、素人勉強で得た知識も断片的なので、この療法に関する私の記述は不正確かも知れません。その点はお含みいただきたいのですが、私個人は「ボツリヌス療法の出現によって、顔面痙攣の治療法としては淘汰されつつある」と感じています。なお、神経ブロックが大きな役割を果たしている疾患もあります。
顔面痙攣に対する鍼(針)治療も一部で行われているようです。私には東洋医学の基礎知識がありませんが、患者さんの経験談をウェブで拝見した範囲では、鍼で治癒した方を存じません。「鍼には顔面麻痺のリスクも懸念される」との脳神経外科医のご意見もあります。
疾患によっては鍼の有効性が広く(西洋医学的にも)認められているとも聞きますが、顔面痙攣に対する療法として私個人は不安を感じます。また、代替療法(東洋医学を含む)では個々の治療師の感覚が重視されるためか、一般に有効性・安全性に関する客観的情報を得るのは困難なようです。
一部で「瞼のピクピクにカルシウム(またはマグネシウム)の補充が有効」とも言われています。「カルシウムが不足すると、(1) 骨に貯えられたカルシウムが溶け出したり、細胞が盛んにカルシウムを取り込もうとし、(2) その結果かえって細胞内カルシウムが過剰になり、(3) 筋肉細胞が異常収縮したり、神経細胞から神経伝達物質(アセチルコリン)が過剰に放出されて、瞼がピクピクする、(4) だからカルシウムを採ると有効」というような理屈だそうです。この説の真偽はわかりませんが、以下に示すように、片側顔面痙攣の原因・治療法として広く受け入れられてはいない模様です。
医学文献のデータベースPubMedで hemifacial spasm(片側顔面痙攣の英名)を検索すると842件がヒットしましたが、calcium(カルシウム)で絞り込むとヒットは0件でした。また、blepharospasm(眼瞼痙攣の英名)986件は calcium 絞り込みで 5件残りましたが、上記の説とは無関係の論文のようです(検索日 2003.5.12)。一方、マグネシウムに関しては (検索日 2004.10.5)、hemifacial spasm 926件をmagnesiumで絞り込むとヒットは0件、blepharospasm 1097件は magnesium 絞り込みで1990年の Ploceniak著の文献 1件が残りましたが、原報がフランス語のためか英文抄録には内容がほとんど記載されていませんでした。
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Modified on Oct 5, 2004
Thaz6