Curtiscreek in NewZealand 2005


ロッドにつながるラインの先端を、水中で何か非常に質量のあるモノが引っ張っているような感じだった。例えば高速で動くベルトコンベアーに根掛りしたみたいな。
有無を言わさずラインは下流に動いていく。
‘流れていく’とか‘引っ張られている’というのではない。強い意志を持って‘動いて’いく。
次の瞬間、ラインの伸びるその延長上に茶色のクネクネがもんどりうって出た。なぜか、それは魚だった。

2005年2月、私はおよそ1週間の予定でNewZealandに旅立った。
昨年12月より観光滞在期限の3ヶ月間釣り三昧で旅している釣友がいて、彼を頼りに転がり込む算段である。
雨男の私が事前に調べた世界の天気予報では、滞在期間中はやはり雲行きが良くない様子。雨と濁りが心配された。
が、いざ現地入りしてみると予想に反する好天続き。
日本より格段に強い紫外線に体力を奪われながら、雄大な自然と鮮やかな牧草地の緑の中で私の心は文字通りトリップしていた。

§Lake Rotoruaで 肩の荷を降ろす

初日、2日目と芳しくない釣りが続く。両日とも世界に名だたるRangitaiki水系やTongariroRiverへの釣行だった。
それなりに魚もスレていたのかも知れないが、それ以上に好天の代償である渇水に魚たちは神経を尖らせていた。
目の前を流れるニンフにさえ反応を見せず、挙句の果てはこれ見よがしに避けてみせてくれる。
「ニュージーランドにまできて、まさか・・・」
という悪夢が頭によぎり始めた3日目。
アパートの近所、LakeRotoruaのインレットに立ちこんだ。
日本ではあまり目にしないBlackSwan(白鳥の黒いやつ)が水面に遊び、キャストする私の目の前で頭を水中に突っ込んで餌漁りをしている。
水中からいきなりケツが立上がるその姿は奇妙におかしい。心に余裕があるならば、見慣れぬ生物と雄大な風景の中で癒される絵ではある。しかし目の前で人にケツを振るBlackSwanたちが、リトリーブの障害物と感じる心持だった。

沖へのキャストを諦め岸に戻りかけると、岸から張出した木陰の水面に友人の視線が突き刺さっている。
「4〜5匹並んでる。」
ポイントを譲ってもらった。
ウェーディングのままラインをシンキングからフローティングに交換し、ダブルニンフを魚の先に落とす。
少しのリトリーブで目の前を泳がすが・・・避ける。
たまに思い出したようにフライに興味を示す事もあるが、口を使うに至らない。
‘魚の反応が見えると面白い’という余裕の気持ち。
‘ここで釣らねば!!’という焦った気持ち。
その狭間で、私はいつもよりマメにフライを交換し試行錯誤した。
そしてようやく私の肩の荷を降ろしてくれたのは、#14パートリッジ&オレンジ。
湖産らしい銀ピカの魚体は、湖に立ち込む私の周りを360度使うファイトを見せてくれた。
NZでは決して大きいと言えるサイズではないが、今まで見ていた景色に彩を加えてくれるには十分な魚だ。

§Waikaremoanaの夜、ジンクリアな‘空気’

その日の午後より拠点であるRotoruaを離れ、一路南東へ進路をとる。Muruparaの町を超え、100qを超える距離のダートのSHを走りぬけ、LakeWaikaremoanaのキャンプ場へ。
キャンプ場到着後、日没までの短い時間に周辺の河川で竿を振ったが、やはり渇水の影響か芳しくない。
明日は、今回最も楽しみにしているRuakituri。しかしこれまでの川の状態が思い起こされ、弱気の虫が頭をもたげかける。
そんな気持ちをよそにめっきり雨降る気配の無い夜空を見上げると、久しぶりに見る満天が広がっていた。
ものすごい数の星だ。空気に‘ジンクリア’という形容が正しいかどうかは知らないが、これほどフィルターがかからぬ夜空を見たのは初めての事だった。そして自然と気持ちも晴れていく。

翌日、待望のRuakituriに向かって車を走らせる。
今日も快晴。この天気運の半分でも日本に持って帰りたいと思いつつ、強烈な紫外線避けに長袖を着てSmithBridgeから入川。
キャスト
ドリフト
ラインが動く
フッキング!
ヒットだ!
そして、バラシた・・・。

Ruakituriのこの区間は雄大だった。
日本と似た渓相から連なる山々は放牧地であるため樹木が極端に少なく、その地形を露わにしている。
川原から一気に昇りあがるこの豪快な風景は、そこで竿を振っているだけで大きな満足感を得る事ができた。
しかし土手の上から魚を探す事に専念してくれている相棒に、今日までの3日間ほとんどのチャンスをもらってしまっている申し訳なさ。
何とか1匹でも満足サイズを手にして、一緒に楽しめる状態にもっていきたい。
魚の位置を指示してもらってニンフを投げ込む。
一発で決まらないもどかしさに自分の未熟を強く感じる。
そこだ!ばっちりだ。
・・・食わぬっ。

いつもより見える魚が少ないというその場所を後に、次のポイントへ移動した。

§驚愕、そしてRuakituriの谷に愚者の叫び

強烈な紫外線といつもより暑い気温に耐えかね、急激に消耗したようだった。
車での移動を経て新たなポイントに降り立った時、補給した水分の重量がダイレクトに足に来た。
情けない事に、最も期待できる流れを前に体が休息を欲した。
木陰に入ると心地よい空気が体に触れ、疲労と重なって心がトリップしてくる。
立ち上がり、はるか先に進む相棒に追いつく。岩盤の滑りやすい川原を、どう歩いていったのかあまり覚えていない。
気がつくと既に追いついていて、
「平気ですか? 次の流れ、やって下さい。」

上流に向かって左側の岸に立つ。前方をこちらに向かってくる流れは重く、深さを感じる。自分の5m位前方で右に曲がり瀬となって下流のプールに流れ込んでいく。その瀬頭の嫌な位置に、岩に引っかかった木の枝が頭を出す。
#10のヘビーウェイトニンフに#14フェザントテールをトレーラにしたシステムを、ReviewXXは軽くとばす。
アップクロスのアプローチでうまい具合に深い流れの頭に落ちたフライは、流れのよじれに沈んでいった。
手前を流れるフライラインが木の枝に引っかかるのを嫌い、テンションをかけて打ち返そうとしたその時、自分の予想以上の速さでラインが流れ下ってきた。
いや、違う。
何か圧倒的な力がラインの先を引く。
木の枝に引っかかったラインをはずそうと上流に動いたその瞬間、真横の瀬の中で重量のある茶色いものが躍り出た。
「ブラウンだ! でかい!!」

俗に言われるほど舞い上がってはいなかったと思う。それは決して私の精神力が強いのではなく、トリップしていた精神状態が幸いしただけであろう。
魚体が見えた直後に私は上流に動き、ラインがたるむ瞬間を捉え冷静に木の枝からはずした。
直後、ダイレクトにロッドに伝わる躍動に冷静さなどブッ飛んだ。
容赦なく魚は瀬を下る。
「勝負は下のプールだ」
と心に思い下流に移動しようとしたその時、フッとテンションが緩む。しかしわずかながら残る躍動の感触が、バレたのでは無い事を感じさせている。
???
瀬を逆行して、こちらに向かって泳いできている。
無我夢中でたるんだラインを巻く。
・・・結果的にはこの“無我夢中”に巻いた事が敗因だったのだろうか。
たるんだラインはロッドティップを絡め、直後に反転して強烈なテンションを受けた2XHのフックは耐え切れずに開いた。
そして何事も無かったかのように流れる川のほとりで、呆然とする。
「あぁ、おろかもの・・・」

§再訪を心に期す

NZの自然は雄大だった。
言葉も文化もちがうこの土地で、「釣りをする」という事を自ら切り開いた相棒の行動は尊敬に値する。
その彼に、数々のチャンスをもらいながらも結果を出せなかった自分に不甲斐なさを感じる。
それらの事を全てひっくるめても、心に受けたインパクトは強く病的に尾を引くだろう。
再訪を心に期す事が、日常を乗り越える十分な糧になり得る。
そんな旅になった事を、彼に感謝している。


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