君が望む永遠 ヒロイン別ネタばれ感想

涼宮遙
本作に対する典型的な評のひとつに、「主人公が超ヘタレ」というのがあります。プレイ前にも、それは聞き及んでいました。で、こうしてプレイを終えてみると、…うん、確かに、今その時言わなきゃいけないことをなかなか切り出せなかったりと、見ていてイライラするところはありました。しかしその一方で、状況が状況だけに、孝之の気持ちもしょうがないかなという理解もできました。いわば、死んだはずの恋人が突然生き返ったも同じ。その間に、新しい恋人と絆を深めていた主人公にとって、二者択一をしろというのはあまりに酷。どんな選択をするにせよ、傷つかない人はいないわけです。客観的な正解はない。言うなれば、孝之の選んだ道が正解となるように、前に進むしかない。理屈で割り切れるものではない、極めて人間的な苦悩を描いたという点は評価できると思います。
本ルートではもちろん、最終的に水月ではなく遙を選ぶことになります。ほんのちょっとしたきっかけで選択が逆転する可能性が十分あるほどの危ういバランスの上に立った決断だったのでしょうが、ここで遙を選んだ決定的な理由は何か?これはまだ自分の読み込みが十分でないからかもしれませんが、その決定的なものがつかめませんでした。どうもまだ、こんな目に遭いながらもなお純粋に自分のことを想ってくれる遙に対する同情がメインのように見えてしまうんですよね…。
もうひとつ引っかかるのは、遙が本当に正気に戻った後、孝之と水月がつき合っているということに気づいたことへのショックというのが見えませんでしたね。妙に落ち着いて受け入れ過ぎているというか。もっとも、内心は穏やかではなかっただろうし、見えないところでは非常に苦しんだのでしょうが、その動揺や苦悩の片鱗といったものも同時に描き出してほしかったと思います。
あと、このルートは、全エンドを終えた後にもう一度やってみるのがいいかもしれません。遙をはじめ登場人物それぞれの背景がわかり、また違った感慨が得られることでしょう。
水月が遙の退院祝いに花束を贈ったところで、「長いこと形に残るのは嫌だから、花にしたよ」という言葉が非常に印象に残りました。水月の心情を一言で表現した、素晴らしいセリフだと思います。


速瀬水月
遙ルートを経てきたのでなおさら感じるのですが、本作では遙ルートでは水月の、そしてこの水月ルートでは遙の切ない心情というのがより心に響くような作りになっています。要するに、孝之に「選ばれなかった」方の子の印象の方がより強く残るんですよね。だからこそ単純なハッピーエンドではない、どこか後ろ髪引かれるような切なさが混じる読後感になるのでしょう。
というわけで、本ルートではその遙の果たされなかった想いというものがクローズアップされるということになるのですが、…参りました。遙ルートではなかば放ったらかしにされていた感のある「マヤウルのおくりもの」をここで持ってくるとは思いませんでした。物語に出てくる妖精マヤウルが自分の元に残った親友への最後の贈り物が、「さよなら」という別れの言葉だった。私たちの出会いのきっかけがこの本だったんだから、このさよならは避けられないって思ったりするんだ、なんて、遙そんな悲しい事言うなよー!、と、そこでたまらず涙が出てしまいました。加えて、(事故に遭う前の)孝之との1ヶ月は、夢だったんだよなんて…。そんな心にもない事を並べてさらっと流そうとする遙の胸の内を想像すると、もうたまらない気持ちにさせられます。
正直、ここまでの流れが、まあ決して悪くはないものの、ストーリーとしては普通程度だなあと思いながらプレイしていたところで、ここでガツンと不意打ちくらったような感じです。自分の気持ちに無理やり整理をつけて、降りかかった運命の理不尽さに時には絶望しながらも自分の思いを封じ込んで強く前へ進もうとする遙の気持ちを、ありきたりでなくここまで克明に浮き彫りにしてくれたのは素晴らしいです。
あまり上手く言えないのですが、このルートにおいて孝之は結果として単純に遙ではなく水月を選んだ、というわけではないと感じます。遙に未練がある、というよりは、やはり孝之にはどちらかを選ぶなんて最後までできなかったんだと思います。ただ、遙が眠っていた3年間という埋め難い空白と、その間に育まれた水月との絆、それらもろもろを含めた状況 − ありていに言えば、そうなる「運命」としか形容しようのないものに従った中での最善の行動が、水月とともに歩むことだった。そして、別に孝之の遙への想いがそれによって消えたわけじゃない。むしろ、遙と「さよなら」することが、遙への愛情を失わないためのぎりぎりの次善の方法だったのではないか、と思います。…うーん、やっぱよくわからんかな。要は、単なる二者択一というテーマに単純化できない物語の提示の仕方がちゃんとできていて、ストーリーに厚みがつけられていたのは素晴らしかった、ということです。
だから、まあ、遙エンドというのは何と言うか遙のための救済ハッピーエンドという感じで、あくまでトゥルールートはこっちなんだろうと思います。これが一番自然な流れですよ、やっぱり。遙にはかわいそうだけど。制作側もそのつもりで作ったのではないでしょうか。
というわけで、非常に良いシナリオでした。名作と謳われた所以を知ることができました。ただひとつ不満といえば、遙がリハビリで歩行訓練しているのを覗き見るシーンですかね。あれはちょっとクサすぎ。特に、訓練を指導する先生の掛け声が月並み過ぎてイタかったです。感動するべきシーンなのだから、もっと気を遣ってほしかったと思います。


涼宮茜
この子はたまにピンポイントにこちらの胸を打ち抜く一言があって、それでかなりやられました。いくつか例を挙げると、中学時代の茜との回想シーンで、将来遙と結婚するかという話になったとき、
「…私、お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃなきゃ、イヤだからね!」
うーーーん、何かすごくときめく。そして、意味が深い。
あと、これはいつだったか、遙の病室内で茜が孝之への想いをポツポツと打ち明けるシーンで、確かもし孝之が自分をいったん受け入れたら、という話の流れで、茜の一言。
「そうしたら、もう誰にも渡さないんだから」
これだけ切り取ったら何でもない言葉ですが、実際の会話の中でのこのセリフには非常にドキリとさせられました。これまで自分を押し殺してきた茜の本心が突如むき出しになったからでしょうか。
本シナリオ(トゥルーエンド)において、孝之はなぜ最終的に茜を選んだのでしょう? それも、遙と水月という最重要人物ふたりを振ってまで。まだ自分の作品に対する理解が不十分なのかもしれませんが、少なくとも現時点では、孝之と茜が結ばれるという結果に至る納得できる理由・必然性というものが見いだせません。確かに茜の彼に対する並々ならぬ想いというものは十分すぎるほど伝わってきて、それはわかるのですが、それに対する孝之の気持ちというものがついていってないというか。茜に対する孝之の気持ちというのは、概ね「この子のそばにいてあげなきゃだめなんだ」という一言に集約されると思うのですが、これは積極的な愛情というよりむしろ同情に近いものではないのか?これでは、孝之側の動機としては弱すぎると思うのです。孝之を熱烈に想っていたのは何も茜だけではない。遙と水月からも同じくらいの想いを感じ取っていたはずです。いわば、条件では三人ともほぼ同じ。その中で、孝之はなぜ遙でもなく水月でもなく茜を選ぼうと思ったのか?この問いに対する納得できる回答というものが、シナリオ内には見つけられませんでした。
まさか、遙とも水月ともこれ以上続けることができないからという消去法的な理由で茜を選んだわけでは、ないですよね? なんか、そうとも受け取られかねないような気もしますが…。それじゃあ、茜がかわいそうですよね。
この事に関連して言えば、今回孝之に選ばれなかったヒロイン達 − ここでは遙と水月の切ない思いというのが重過ぎて、ここでのメインヒロインであるはずの茜の存在感がだいぶ打ち消されてしまった感じがあります。茜も健気に頑張ってるんだけど、主役というよりはやはり名脇役という印象。まあ、本作においては「選ばれなかった」方のヒロインの方が強く印象づけられるようなシナリオ作りという傾向が見受けられはするのですが、それでも互いに互角に張り合っていた遙と水月ルートにおいての二人の場合と違って、ここでの茜は大御所二人に寄り切られぎみ、かな? 本ルートにしたって、ベッドから転落してまで孝之に懇願する遙を冷たく振り切るなんて、あんな場面見せられたらアナタ…(しかも、ここで助けたらバッドエンドって)。
茜の存在感という意味では、むしろアナザーエンド「茜妊娠エンド」の方が出ているかもしれません。自分は遙の代用品と完全に割り切って孝之に迫る茜に孝之の心が動くというのは、少なくともトゥルールートにおける孝之の気持ちよりははるかに納得ができました。…にしても、このエンディングにはしばし「ぽかーん」でした。最後の最後まで、これは「遙妊娠エンド」のタイトル間違いだろと画面に突っ込んでたら、スタッフロール後のエピローグで大どんでん返し。…というか、遙かわいそう過ぎーー!! ふと思ったんだけど、これって遙の子を茜との子として育てているってわけじゃないんですよね? よくよく思い返してみたらそう取れなくもないですが、それだと「茜妊娠エンド」というタイトルと矛盾するし、やはり孝之は最後の最後で茜を選んだ − 遙の子は中絶ってことですよね。
良くも悪くも無難なトゥルールートより、印象度ではこちらが上でしたね。
(補足)…………なーんてずっと思っていたのですけど。
フルコンプ後にWeb上のレビューを見ていたら、ほぼどのレビューでもこのエピローグシーンの子は「遙の子」と解釈されています。要は、中絶させずにそのまま産ませたのだけど、茜が遙の代わりにママをやっているということです。で、「茜妊娠エンド」というタイトルは、茜ルートの中での妊娠という結末を示すものであって、茜が妊娠したという意味じゃない、というお話。
初めはウッソだーと思っていたのですが、どのレビューでもそうなっているので、何か多勢に無勢で、自説にもだんだん自信がなくなり、しまいにはこのエンディングあたりを再プレイしてみたものの、やっぱり結論は出ませんでした。というか、まあそもそもこのエンディング自体曖昧なんだけど、あのエピローグの病室シーンとかの雰囲気的にみて確かに「遙の子」と考えた方がしっくりするのかなあという気もしてきました。先にも自分で書いた通り、茜は遙の代用品と割り切っているということからしても、母親の代役をやるという流れは自然だし。
でもですね、一方で、本当にそうなのかなという気持ちもまだどこかで持っています。出産か中絶かという究極の選択を迫られた孝之は、期限ギリギリのところで出産を選ぶことに気持ちを固めていたということはわりとハッキリ読み取れます。遙がどういう状態であろうが、子供を遙と一緒に育てていく決意みたいなものが見えました。
その決断を伝える前夜に、遙の服をまとった茜が現れたわけです。この事によって孝之の気持ちに具体的にどんな変化があったのか再プレイしてもなかなかよく見えなかったのですが、これがきっかけで孝之はこれまでほぼ出産で決心していたはずの気持ちを180度翻意してしまったのではないでしょうか? 普通に考えたら、中絶という選択肢はやはり道徳的にも世間的にもためらわれる。遙の親だって、娘を託した孝之との子なのだし、中絶させるくらいなら出産を望んだでしょう。いわば中絶は孝之にとって逆風。 ―  しかし、そんな孝之に絶対の味方がいたら? どんなに逆風になってもそばにいて支えてくれる茜という絶対の存在がいることを、孝之はあの夜確信したのではないでしょうか。
茜は遙が孝之に対して将来行うはずだった役割の「全て」を代わりに引き受けた。だから、子供も「遙の子」の代わりに「茜の子」。
もともと遙に宿っていて生まれるはずだった子は中絶のため世に出ることはなく、茜の産んだ子が無邪気にその子の代わりをしている。− そんな視点であの微妙な空気のエピローグを見てみたら、それはそれで成立するんではないかと。
だいたいですね、いろいろ理屈つけますけど、「茜妊娠エンド」といったら茜が妊娠したエンドって素直に読むのが普通じゃないかー! 茜ルートの中でのエンドっていうことだけど、だったら何で遙ルートの中に「水月バッドエンド」っていうタイトルがあるの?
…って、いろいろ書いたけど、なんかこれも違うかなって気がしてきた。
あー、もうわからん。


大空寺あゆ
全体的な印象は極めて「痛快」なシナリオでした。孝之と遙と水月との間に横たわる非常に重苦しい問題を、あゆが彼女らしい視点からバッサリと解決してしまった、という印象です。この問題に関しては最初から部外者であるあゆがメインヒロインのストーリーなんて無理があるんじゃないかなーと不安混じりに進めていたのですが、最後にはああこういう結末もあり得るかも、とまで感じられるようになりました。逆に、部外者であるあゆだからこそ導けたエンドと言えるかもしれません。当事者である3人だけだったら、いつまでたってもドロドロウジウジで、これまでと同じく何も進展しないまま深みにはまっていくだけだったでしょう。
それを示す最たるものは、あゆが孝之の不在の間に、絵本などの思い出の品を全部捨ててしまったところですね。普通に考えたら、何てことをしてくれたんだとブチ切れるところでしょう。でも、孝之も最初こそそうだったものの、怒りは持続しなかった。それは、遙や水月との過去の思い出というしがらみを、あゆがきれいさっぱり断ち切ってくれたことに対する安堵のようなものがあったからではないか。思い出の品々を孝之自身が捨て去ることなど、できるはずがなかった。踏ん切りをつけたいと思っているのに、やはり自らの手ではできない。現に、今さっき遙の病室であれほど言おうとかたく誓っていたはずの決別の言葉を結局一言も口にできず、大ヘコミ状態だったわけです。その自分がしたくてもできなかったことを、あゆがやってくれた。こんなことができたのは、あゆしかいなかったわけです。彼女独自の存在意義というものをしっかり提示してくれた、重要不可欠なシーンだったと思います。
もうひとつ強く印象に残ったのは、水月との口論。「わたしは、あなたにパンを焼いてあげました」と、何の脈絡もなく始まるところにはドキリとさせられました。それからは、ボルテージが上がっていくあゆに完全に感情移入状態。「いいぞー、あゆ! もっと言え!」みたいな(苦笑)。水月が「見返り」を求めることによって孝之と繋がり続けようとしている、縛ろうとしてしまっているのを看破したのですね。…ここでの水月は悪役になってしまってかわいそうでしたが、非常に具体的かつ明快に相手の誤りを指摘してみせたあゆに拍手です。そして、このシーンがあったおかげで、孝之がなぜ遙と水月から離れなければならなかったか、その根拠みたいなものがおおよそ納得できました。別に二人とも嫌いになったわけじゃない。しかし、「こうだからこうしなければならない」といった理由やその他もろもろのしがらみの方が先にきてしまって、純粋な好き、愛してるで結びついているのかどうかもはやわからなくなってしまった。どちらを選ぶにしろ、何か「義務感」みたいなものがのしかかってしまい、素直な形で愛することがもはやできなくなってしまった、というところでしょうか。これは誰が悪いというのではなく、様々な偶然や紆余曲折を経てこういう形になってしまった運命としか言いようがないですね。
で、そういう足かせやしがらみの全くないのがあゆだった。口げんかこそ絶えないが、何も考えず自然な形で付き合うことができる。人を愛するのに理由はいらないという言葉に最も近い状態だったのが、この二人だったということでしょう。
というわけで、ほぼ最後までいい感じにストーリーが流れていたのですが…、え、エッチシーンで終わりっすか?? エピローグ的なものも無し?
これはいくらなんでもいろんなもの放り投げっぱなし過ぎでしょう。自分の本当の気持ちを言えず誤解させたままの遙とは、そしてその父親とはどうなったの? 水月も、あのあゆとの口論以降出ずじまいで、憎まれ役のまま終わりですか? シナリオの流れからして、この二人に関することは絶対にその後のフォロー入れておくべきです。じゃないと、解決しているのは孝之とあゆだけということになり、納まり悪過ぎじゃないですか。
あと、あゆ自身の父親との関係というのも、おおよそ月並みな金持ちの親と子という描かれ方でしかなく、このままでは雑過ぎ。あゆは父親をただ憎く思っていたわけではないのだから、そういう複雑な感情というものももう少し広げてほしかったです。
(おまけ)
レストラン「すかいてんぷる」ってどんな意味だ?とふと思い、sky templeを無理やり日本語に直してみると…。
おおー、なるほど。あゆがここで働いていたのは、必然だったわけですね。


玉野まゆ
「御意」「まことかっ!」「ぐ、ぐおおおお…」…などなど。あまりに不自然な口癖だらけですが、それが馴染んでしまうのが不思議です。立ち絵の各バリエーションがかわいらしいのも、愛嬌に拍車をかけていると思います。
とまあ、位置的にはヒロインというよりマスコット的サブキャラの方が合っている彼女のシナリオの持っていきかたというのが、要は最初はお兄ちゃんの代わりとして孝之に懐いていたものの、それが恋愛感情に変わっていったことで一人の対等な異性として見てほしいという気持ちに変化していった。初めはその変化に気づかず彼女を傷つけてしまった孝之だが、最後でようやく彼女の気持ちを理解し、自分の気持ちにも気づかされた − という流れなのですが、うーん、ちょっと無理があるかな。まゆを妹と思って接してきた孝之の気持ちが異性に対するそれにどうやって変わっていったのかという点が描写不足だし、同じことがまゆの方にも言えます。この二人が一組の男と女として恋愛で結ばれるということ自体もともとちょっと無理があるのに、その無理さをシナリオでカバーし切れなかったというか。
まゆがひとりで何でもできるようになって、「兄妹」の関係から脱却したい、対等に見てもらいたいという思いを孝之がなかなか理解できず、つい過保護になってしまうことでまゆ自身やあゆの反発を食らってしまうわけですが、…まあ、ここでの孝之も大概ヘタレってはいたものの、そこまで孝之に気づけというのは酷なような気がします。だいたい、まゆみたいにああも毎日ドジばかり繰り返していたら、いきなり仕事は任せられないなと判断するのが普通でしょう。孝之に過保護にさせる原因は他ならぬまゆ自身にあるわけで、自分の仕事が一人前にできない状態のままで孝之さんわかってくれない、大嫌いなどと文句言われてもなあ、と感じてしまいますが、どうなんでしょう。受け手にこう思わせること自体、シナリオの見せ方の失敗ではないか、と思います。
終盤もいきなりエッチシーンの後唐突に終わった感じで、ちょっと投げやりでは。せっかくなのだから、もっと丁寧に着地させてほしかった。
まとめると、「兄妹」から「恋愛」に変わる過程の描写に納得性がなかった、ということに尽きます。それ以外の部分は特に悪くなかっただけに、この最重要ポイントが十分掘り下げられなかったのは残念ですね。
(余談)しかし、ファミレスの店員って、あんなにお皿割るものなんだろうか…。


天川蛍
ストーリーの早い段階で彼女の持つ重い心臓疾患の事実がわかり、おやおやこれはいわゆる「病人ゲー」のパターンかいと感じた人も多いでしょう。もはやこの業界ではやりつくされた手法にあえて挑むのは難しいと思うのですが、本シナリオはこの手の流れのお決まりパターンからは脱却した一味違うところが見られ、その点では評価できます。
手紙のやりとりをしていく中で、実はもう蛍は途中で死んでいて、後を頼まれた文緒が代筆で孝之に返事していた。このくらいの伏線にはすぐ気づく人も多いでしょうが(もっとも、鈍い私は最後の直前まで気づかなかったが…)、これだけにとどまらず、二人が互いを「好きだ」とまだ言ってなかったとはまさか思っていなかった文緒が、手紙の中で「大好き」と書いてしまったことが孝之に違和感を引き起こさせたということにつなげたり、後でそれを知った文緒が孝之に「どうして好きって言ってあげなかったの?その言葉を天川は待ってたんじゃないの?」という感じで詰め寄る場面の切なさとか、この手紙ネタを単なるトリックに終わらせない意味の持たせ方は非常に素晴らしかったと思います。
しかし、です。こうしたシナリオの組み立て方は良かったにもかかわらず、それを支えるべきテキストがどういうわけか貧弱でした。表現が全体的に薄っぺらで、読んでいて乗れないのです。あと、孝之が何だか急に頭の悪い小学生(失礼)並みの単純な思考パターンに変わってしまったのがすごく気になりました。メインの遙や水月ルート等での彼は、確かにヘタレ度も大きいけど、いろいろああでもないこうでもないと複雑に考え悩むところが物語に厚みを持たせていたのに対し、ここでは何か軽くなり過ぎて、彼独自の魅力が失われています。彼の蛍への想いも、ことによると軽薄なものに見えてしまうんですよね。
それから、孝之がどうして蛍を一人の女性として愛するようになったか、そこの描写が弱いです。彼女のことは確かに同情すべき境遇ではありますが、そこから即恋愛に発展させてしまうのは無理があるように見えます。少なくとも、簡単に語りつくせないくらいの時間と想いを共有し続けてきた遙や水月を簡単に振り切ってまで蛍にシフトしてしまうほどの大きな動機というものが見えないのです。このことがあったため、シナリオの最後まで違和感が残ってしまいました。あんた、蛍、蛍って言ってるけど、遙と水月をよく放っとけるな、みたいな。
非常にもったいないですね。たぶん、これと同じ内容のシナリオを、水月シナリオを担当したライターさんがテキスト化したら、ボロボロ大泣きできたんじゃないでしょうか。
…ちなみに、何でエンドはこの一つしかないんでしょうね。さすがに、蛍がかわいそうです。個人的には、多少ご都合と言われようが、ここではハッピーエンドもほしかったところ。


穂村愛美
孝之を部屋に監禁してしまうというところくらいまでは、まだ想定の範囲内であり許容できなくもなかったですが(これだけでもたいがいだが…。犯罪じゃん、これ)、その後のさらに踏み込んだえげつなさにはさすがに参りました。着せ替え人形みたく女装させられ、あまつさえ孝之の方がそれに洗脳されてしまい、豊胸手術までしてしまうなんて…。
終盤で孝之が幼稚園児言葉になり、「マナマナが大好きなんだ!」みたいなのを連発するところでは、もう引くのを通り越して唖然。イタすぎ。極限状態にあったのはわかりますが、五年、十年といったスパンならまだともかく、たった数ヶ月程度でこんなにぶっ壊れてしまうのは情けないですねー。やっぱヘタレだわ、こいつ。
女装した孝之がマナマナと遊園地に遊びに行くシーンでは、まさかここで水月や慎二とばったり会わせたりしないだろうな、とヒヤヒヤものでした。もしそこまでやってしまっていたら、私はその場でPCの電源引っこ抜いてたかもしれません。
エッチシーンがあるというのも含めて、基本的に表現にタブーを設けないというのが18禁ゲームのひとつの存在意義であると思うので、まあ、百歩譲って、こういう展開もアリということは否定しません。しかし、それでも、どこか別のところでやってほしかった…。少なくとも、遙や水月シナリオとかと同格の正規ルートとして本作に盛り込んでほしくはなかったです。ここでの孝之が、遙や水月シナリオでの孝之と同一人物なんて、考えたくもないですね。シナリオ単体の出来はともかくとして、ゲーム全体の方向性やイメージというものを、もう少し大切にしてほしいと切に願います。
また、何よりも愛美自身がかわいそうですよね。このシナリオは愛美のあまりに一途な想いがあらぬ方向にねじれてしまったがために起こったひとつのバッドエンドであって、それとは別に愛美の献身的な愛が本当の意味で孝之を救ったとかいうトゥルールートをせめて設けてほしかったです。このままでは、彼女は単なる異常者じゃないですか(なんて思ってたら、後に発売されたDVD版やPS2版では、もうひとつの純愛系ルートが追加されているとのことです)。
あと、ここでは孝之を取り囲む人間たち、その中でもとりわけ水月には大いに文句を言いたいです。確かに孝之も軽はずみなところがありましたが、水月はかつてあれほど心を通わせた恋人のことをなぜ最後まで信頼してあげられなかったのでしょうか? 情報は全て愛美からで、孝之本人から直接説明があったわけでもなく、いきなりバイトを辞めて自室を引き払った、そんな不自然さになぜ気づいてやれなかったのでしょうか? 孝之が一度愛美のもとを脱走して、街中で水月(と慎二)とバッタリ出会うところでも、彼が異常な状態にあったということは、その姿を一目見たらわかるはずです。いろんな事情を差し引いても、あまりに薄情だと思います。
孝之がこんなに簡単に転落してしまったのは、もちろん本人の落ち度もあるけれど、それ以上に水月をはじめとする周囲の人たちの責任です。そして、孝之と水月たちとの絆というのは、本来こんなに脆いものではないはず。だからこそ、本シナリオ内での各キャラの薄っぺらい描き方には、強い違和感を感じます。
繰り返しになりますが、こういう展開はこれでまた面白いかもしれないけど、本編とは完全に切り離してどこか全く別でやってくれたら良かったのです。こんなふうに中途半端に混ぜられては、プレイする側も割り切れないじゃないですか。水月シナリオでの感動を返せー!、という感じ。
ちょっと、悪ふざけも度が過ぎると思います。


星乃文緒
えーっ、これじゃあ、文緒はイメージそのまんまの軽薄女ってことじゃないですか。一見派手でちゃらんぽらんそうだけど実は根は真面目で、様々な恋愛に傷つきながらも乗り越えてきた、というのが彼女のキャラクターじゃないんですか? 別にバッドエンドでも短くても何でも構いませんが、文緒の影の部分というか、隠れたもう一つの部分というのをちゃんと出してあげないとかわいそう。天川蛍シナリオ内でのあの真摯な彼女は何だったの?
結末も、前夜の情事を文緒があたり構わずベラベラしゃべりまくり、あげくのはてに茜や水月にも総スカンを食らってチャンチャン、で、何だこれはギャグエンドか?という感じでした。
どっちらけ過ぎてて、逆に興ざめしました。なくてもいい、というか、いっそなくしてほしかったルートです。