東京都教委に対して、「10.23通達」の撤回教職員への不起立処分の取り消しを求める

                 
東京第二弁護士会の「警告書」

                                                 2007.2.13
第二東京弁護士会発第1471号
2007年(平成19年)2月13日

 東京都教育委員会御中
                                          第二東京弁護士会
                                         会 長  飯 田  隆 

                          警  告  書

 申立人河原井純子氏、根津公子氏、渡辺厚子氏、岸田静枝氏より、当弁護士会に対して人権侵害救済の申立があり、当会人権擁護委員会において、本件申立事案の調査と執るべき措置につき審議しておりましたところ、この度、同委員会は別添の報告書のとおりの措置を決定しました。よって、当会はこの措置決定に基づき、貴委員会に対し下記の通り警告いたします。

                           警告の趣旨

当会は、東京都教育委員会に対し、
1 2003(平成15)年10月23日付け「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について(通達)」を直ちに撤回する

2 申立人河原井純子に対する別紙1記載の懲戒処分、申立人根津公子に対する別紙2記載の懲戒処分、申立人渡辺厚子に対する別紙3記載の懲戒処分及び申立人岸田静枝に対する別紙4記載の懲戒処分をいずれも取り消す

3 今後、申立人らに対して、入学式・卒業式等において、「式場内の指定された席で国旗に向かって起立する、または着席しない」、「国歌を斉唱する」ことを強制しない

4 今後、申立人らに対して、入学式・卒業式等において、「式場内の指定された席で国旗に向かって起立しなかったこと、または着席したこと」、「国歌を斉唱しなかった」ことを理由としていかなる不利益処分も科さない
よう警告する。
 
                           警告の理由

 別紙調査報告書のとおり
                                               以 上

平成17年第1号
申立人河原井純子・根津公子・渡辺厚子、岸田静枝
相手方 束京都教育委員会
                        調 査 報 告 書
                                             平成19年2月8日
第二東京弁護士会
会長 飯 田 隆 殿
                                    第二東京弁護士会人権擁護委負会
                                       委員長神 田 安 積

上記申立人の申立てにかかる上記事件について、調査のうえ検討した結果を、 次のとおり報告する。

第1結論
  当会は、束京都教育委員会に対し・
1 2003(平成15)年10月23日付け「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について(通達)を直ちに撤回する

2 申立人河原井純子に対する別紙1記載の懲戒処分、申立人根津公子に対する別紙2記載の懲戒処分、申立人渡辺厚子に対する別紙3記載の懲戒処分及び申立人岸田静枝に対する別紙4記載の懲戒処分をいずれも取り消す

3 今後、申立人らに対して、入学式・卒業式等において、「式場内の指定された席で国旗に向かって起立する、または着席しない」、「国歌を斉唱する」ことを強制しない

4 今後、申立人らに対して、入学式・卒業式等において、「式場内の指定された席で国旗に向かって起立しなかったこと、または着席したこと」、「国歌を斉唱しなかった」ことを理由としていかなる不利益処分も科さない

よう警告する。

第2 申立の趣旨及び理由(申立人の申立内容の引用であり、認定された事実ではない)
1 申立の趣旨
(1)申立人河原井純子について
 相手方東京都教育委員会に対し、別紙1記載の処分を撤回し、以後、「君が代」の斉唱時の不起立等によって、不利益処分をしないこと
(2)申立人根津公子について   
  相手方東京都教育委員会に対し、別紙2記載の処分を撤回し、以後、「君が代」の斉唱時の不起立等によって、不利益処分をしないこと
(3)申立人渡辺厚子について
  相手方東京都教育委員会に対し、別紙3記載の処分を撤回し、以後、「君が代」の斉唱時の不起立等によらて、不利益処分をしないこと
(4)申立人岸田静枝について
  相手方東京都教育委員会に対し、別紙4記載の処分を撤回し、以後、「君が代」の斉唱時の不起立等によって、不利益処分をしないこと

2 申立の理由
(1〉 申立人らは、いずれも、東京都立の養護学校、小学校及び中学校に勤務する教員である。
(2)申立人らは、いずれも、入学式、卒業式その他式典にて、「君が代」斉唱時の不起立又は伴奏の拒否を理由として、東京都教育委員会から地方公務員法32条及び33条違反を理由として処分を受けている。
 処分の詳細は、申立人河原井純子について別紙1、同根津公子については別紙2、同渡辺厚子については別紙3、同岸田静枝については別紙4のとおりである。
(3)申立人らは、「「君が代」は児童・生徒に押し付けるのではなく、多角度から学び考える機会が保障されなければならず、その上で、児童・生徒は思想及び良心の自由を保障されなければならない。そして、申立人らは、児童・生徒に「周りに流されることなく、よく考えて行動しよう」と教えて.いる教員として起立等の強制には服従することができない」旨主張し、直接的には、申立人らの思想及び良心の自由の違法な侵害からの救済を求め、間接的・将来的には、児童・生徒の思想及び良心甲自由の保障を求めている。

2005年3月24日 申立人河原井純子、同根津公子、同渡辺厚子より各申立
2005年3月28日 申立人岸田静枝より申立
2006年4月18日 申立人根津公子及び同岸田静枝より事情聴取
2006年5月11日 申立人渡辺厚子より事情聴取
2006年5月18日 申立人河原井純子より事情聴取
その他、、適宜、申立人らより、各発令通知書及び処分説明書等の関係資料の提出を受ける。
2007年1月25日 相手方に対する照会
2007年2月2日  相手方より回答

第4 当会からの相手方に対する照会とこれに対する相手方からの回答
1 2007年1月25日付けの当会からの相手方に対する照会
(1)2003(平成15)年10月23日付通達について
@貴委員会は、2003(平成15)年10月23日付にて、都立高等学校及び都立盲・ろう・擁護学校の各学校長に対して、「入学式・卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について」と題する通達(以下「本通達」といいます。)を発していますが、いかなる目的及び必要性に基づくものなのか具体的にご教示下さい。
A本通達において、「式典会場において、教職員は、会場の指定された席で国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する。」とされていますが、いかなる理由で国歌斉唱時に起立しなければならないとされているのかについて具体的にご教示下さい。
B「本通達の内容は、入学式、卒業式等の式典における国旗掲揚、国歌斉唱の具体的方法等について詳細に指示するものであり、国旗掲揚、国歌斉唱の実施方法等については、各学校長の裁量を認める余地はほとんどないほどの⊥義的な内容になっていると解される」という見解について、貴委員会において反論がありましたら具体的にご教示下さい。

(2)申立人らに対す号これまでの処分について
@ これまで申立人らが日の丸君が代に関して受けた別紙1ないし4記載の各処分に関する事実関係において何らかの実害があったか否か、特に申立人らが式典の進行や国歌斉唱を妨害したり、子どもたちに対して国歌斉唱の拒否を煽ったことがあったか否かについて、具体的にご教示下さい。
A 申立人らに対する別紙1ないし4記載の各処分に関する「処分説明書」によると、いずれにおいても、申立人らが君が代斉唱時に起立しなかった結果として、「教育公務員としての職の信用」が傷つけられたと認定されていますが、その点について具体的にどのような事実を指して認定されているのかご教示下さい。
B申立人らに対する別紙1ないし4記載の各処分に関する「処分説明書」によると、いずれにおいても、申立人らが君が代斉唱時に起立しなかった結果として、「職全体の不名誉」が生じた旨認定されていますが、その点について具体的にどのような事実を指して認定されているかご教示下さい。

(3)その他、本件につき、貴委員会において特記すべき事項があれば、ご回答下さい。

2 2007年2月2日付けの相手方からの当会に対する回答
 東京都教育委員会は、地方公務員法その他の法令等に基づき、適正な人事管理を行っており、管下の都内公立学校の教職員に係る服務管理、懲戒処分等についても適法な手続きにより行っております。
 本件照会のあった事項につきましては、現在、東京都人事委員会及び東京地方裁判所において係争中の事件に関するものであることから、回答は留保させていただきます。

第5 当委員会の判断
1.事実認定
(1)本件において問題となる学習指導要領及び通達の内容
@ 文部科学大臣が公示する現行学習指導要領は、「第4章 特別活動」の「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」において、「3 入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と定めている。
A 2003(平成15)年10月23日、相手方は、相手方教育長横山洋吉名で、都立高等学校長及び都立盲・ろう・養護学校長に対し、「入学式及び卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について」と題する下記の通達を行った(以下、「本件通達」という)。
                   記
1 学習指導要領に基づき、入学式、卒業式等を適正に実施すること
    2 入学式、卒業式等の実施に当たっては、別紙「入学式、卒業式等における国 旗掻揚及び国歌考唱に関する実施指軌のとおり行うものとすること
    3 国旗拘揚及び国歌斉唱の実施に当たり、教職員が本通達に基づく校長の職務命令に従わない場合は、服務上の責任を問われることを、教職員に周知すること。
 別紙「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針」
(1) 国旗の掲揚について
  入学式、卒業式等における国旗の取扱いは、次のとおりとする。
 @ 国旗は、式典会場の舞台壇上正面に掲揚する。
 A 国旗とともに都旗を併せて掲揚する。この場合、国旗にあっては舞台壇上正面に向かって左、都旗にあっては右に掲揚する。
 B 屋外における国旗の掲揚については、掲揚塔、校門、玄関等、国旗の掲揚状況が児童・生徒、保護者その他来校者が十分認知できる場所に掲揚する。
 C 国旗を掲揚する時間は、式典当日の児童・生徒の始業時刻から終業時刻とする。
(2) 国歌の斉唱について
  入学式、卒業式等における国歌の取扱いは、次のとおりとする。
 @ 式次第には、「国歌斉唱」と記載する。
 A 国歌斉唱に当たっては、式典の司会者が、「国歌斉唱」と発声し、起立を促す。
 B 式典会場において、教職員は、会場の指定された席で国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する。
 C 国歌斉唱は、ピアノ伴奏等により行う。
(3) 会場設営等について
  入学式、卒業式等における会場設営等は、次のとおりとする。
 @ 卒業式を体育館で実施する場合には、舞台壇上に演台を置き、卒業証書を授与する。
 A 卒業式をその他の会場で行う場合には、会場の正面に演台を置き、卒業証書 を授与する。         
 B 入学式、卒業式等における式典会場は、児童・生徒が正面を向いて着席する ように設営する。
 C 入学式、卒業式等における教職員の服装は、厳粛かつ清新な雰囲気の中で行 われる式典にふさわしいものとする。
 
(2)申立人らの地位及び申立人らに対してなされた相手方による処分の内容等
 申立人ら提出の相手方作成の発令通知書及び処分説明書によれば、申立人らはいずれも東京都立もしくは東京都下の公立学校の教職員であり(申立人らの各処分当時の所属学校については、別紙1ないし4の各「対象者の所属」記載のとおりである)、いずれも入学式または卒業式において、「国歌斉唱の際は起立して斉唱する」、「国歌斉唱の際は指定された席で起立する」、「式場内の指定された席で、国旗こ向かって起立し国歌を斉唱する」等の文書による職務命令に違反し(地方公務員法第32条違反)、これが、全体の奉仕者たるにふさわしくない行為であって、教育公務員としての職の信用を傷つけ、職全体の不名書となること(同法第3台条違反)を理由として、相手方より、別紙1ないし4の「各処分年月日」記載の各年月日(いずれも本件通達が出された後である)に、同「種類及び程度」記載の各懲戒処分がなされたことが認あられる。

2 本間題に対する当会のこれまでの見解
 本件で問題となるのは、上記1で事実認定したとおり、申立人らが、学校長が本件通達に基づいて発じた職務命令に従わず、卒業式や入学式において君が代斉唱時に起立しなかったことを対象として、相手方か行った懲戒処分が申立人らの人権を侵害する行為と評価できるか否かである。
 かかる本件通達または本件通達に基づく職務命令・懲戒処分に関する法的問題点について、当会は、次のとおり見解を示してきている。

(1)東京都教育委員会の「国旗掲揚・国歌斉唱」の通達等についての会長声明(2005年2月28日)
 東京都教育委員会は、2003年(平成15年)10月23日付で、都立学校の入学式・卒業式などにおける国旗掲揚・国歌斉唱の実施について、教職員は国旗こ向かっで起立し、国歌を斉唱すべきこと、国旗掲揚・国歌斉唱の実施に当たり、校長の職務命令に従わない教職員は服務上の責任を問われることを周知すべきことを通達した。また、東京都教育長は、2004年(平成16)3月16日、都議会において、卒業式で多数の子どもが国歌を歌わない、起立しないととは、て教師の指導力不足であるか学習指導要領に反する恣意的な指導があったと考えざるを得ないので、処分の対象になる旨答弁した。さらに、同年6月8日には国旗国歌に閲し、学習指導要領や通達に基づいて児童生徒を指導すること、を校長め職務命令として教員に出す方針を示した。
 これら通達等に基づき、東京都教育庁は、同年5月25日までに、卒業式、入学式において国歌斉唱時に国旗に向かって起立しなかったことを理由として、合計248名の教職員に対し職務命令違反による懲戒処分等を行い、また、生徒に不適切な指導をしたとして、67名の教職員に厳重注意等を行った旨発表した。
 今日においても、日章旗については過去の日本の軍国主義を想起させるものとの主張や、君が代については国民主権と矛盾する天皇制を賛美するものとの解釈などが国民の間に存在している。
 個人によってはその解釈の大きく分かれる国旗・国歌につき、教職員に対し、起立・斉唱を処分等を背景に教育委員会が求めることは、公権力による強制であり、教職員の思想・良心の自由を侵害する疑いが強く存するものである。また、児童生徒への指導に関して、児童生徒の不起立・不斉唱について教職員に厳重注意等の処分を行うことは、公権力たる教育委員会が、教職員をして児童生徒への起立・斉唱を間接的に強制することにつながり、子供の思想・良心の自由な形成を侵害する疑いが極めて強いものである。
 思想・良心の自由は、個人の内面的精神活動のうち最も根元的な自由であり、憲法19条は、その根元的自由を外部からの干渉介入から守るために絶対的に保障している。個人の内面的精神活動の自由についての規律はあくまでも個人の自律に委ねるものである。
 1994年(平成6年)の政府統一見解では、「学校における『国旗・国歌』の指導は内心にわたって強制するものではない」とされ、1999年(平成11年)7月21日の衆議院内閣委員会文教委員会連合審査会においても、国旗・国歌の指導について「何らかの不利益を被るようなことが学校内で行われたり,あるいは児童生徒に心理的な強制力が働ぐような方法でその後の指導等が行われるということはあってはならず、「学習指導要領は直接、児童生徒に対して拘束力を持つものではない」と確認されている。
 よって、当会は、東京都教育委員会に対し、2003年(平成15年)10月23日付入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について(通達)」を廃止すること、そして、都立学校の卒業式・入学式において、教職員・児童生徒に国旗への起立・国歌斉唱を強制しないこと、さらに、教職員・児童生徒の不起立・不斉唱を理由として教職員に不利益処分を科さないことを強く求めるものである。

(2)日の丸・君が代」・強制予防訴訟東京地裁判決を支持する会長声明(2006年9月27日)
 去る9月21日、束京地方裁判所は、都立学校の教職員らが、東京都及び東京都教育委員会(都教委)に対して、国歌斉唱義務不存在確認等を求めた訴訟(日の丸・君が代」強制予防訴訟)において、原告らの訴えを全面的に認め、(1)原告ら都立学校の教職員らに、入学式・卒業式等における国歌斉唱の際に、国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する義務、ピアノ伴奏をする義務がないことを確認し、(2)不起立・不斉唱・ピアノ伴奏拒否等を理由にいかなる不利益処分もしてはならないとし、(3)原告らの被った精神的損害に対する慰謝料の支払いを命ずる判決を言い渡した。
 本件は、都教委が、2003年10月23日付で、都立学校の教職員に対し、入学式・卒業式などにおいて国旗た向かって起立し国歌を斉唱すべきこと、ピアノ伴奏をすべきことなどをはじめとする詳細な事項を、校長の職務命令を通じて命じ、かかる職務命令に従わない教職員は服務上の責任を問われることを周知すべきことを通達した(10・23通達)ことに起因する。その後、、10・23通達及びこれに関する一連の指導等に基づき、東京都では現在までに延べ345名にものぼる教職員が懲戒処分を受け、さらに懲戒処分を受けた者には強制的に研修が命じられ、定年後の再雇用を拒否されるなど、行政による教育現場への介入が続いている。
 当会は、2004年2月18日付で、公立学校長に対し、入学式・卒業式等における国歌のピアノ伴奏を強制しないよう勧告を行い、さらに2005年2月28日には、都教委に対して、10・23通達を廃止すること、都立学校の卒業式・入学式において教職員・児童生徒に国旗への起立・国歌斉唱を強制しないこと、教職員・児童生徒の不起立・不斉唱を理由として教職員に不利益処分を科さないことを強く求める会長声明を発してきた。
 今回の判決は、都教委による10・23通達と、それに関する一連の指導等が「教育の自主性を侵害し、一方的な理論や観念を生徒に教え込むことを強制することに等しい」と指摘し、教育基本法10条1項が禁ずる「不当な支配」に該当して違法であり、書法19条の思想・良心の自由を侵害するものであることを明確に判示した。
 およそ思想・良心の自由は、個人の精神活動のうち最も根元的な自由であり、憲法19条は、その根元的自由を外部の干渉介入から守るために絶対的に保障している。そして教育基本法10条は、戦前の教育における過度の国家的介入と統制を反省し、「教育は不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきもの」(第1項)と定め、公権力による教育内容への介入はできるだけ抑制的でなければならないとする憲法上の要請を担保している。
 当会は、今回の判決が憲法と教育基本法とを忠実に解釈・適用したものであり、当会が従来から都教委などに対し繰り返し求めてきた内容と合致するものであって、これを高く評価するものである。
 当会は、東京都及び都教委が本判決を真筆に受け止め、(1)直ちに10・23通達を撤回すること、(2)今後、都立学校の入学式・卒業式等において、教職員・児童生徒に対し国旗への起立・国歌斉唱・ピアノ伴奏等を強制しないこと、(3)今後、教職負・児童生徒の不起立・不斉唱・ニピアノ伴奏拒否等を理由として教職員に不利益処分を科さないこと、(4)10・23通達に基づいてなされた教職員に対する不利益処分を取り消すことを強く求めるものである。

(3)人権救済申立に関する勧告 
  なお、当会は、公立学校の音楽専科教職員から申し立てられた、「卒入学式における君が代のピアノ伴奏強制による思想・良心の自由の侵割に関する人権救済申立事件に関してこ本件相手方ではなく、各公立学校長にこ対してではあるが、大要、次の内容の勧告を行っている(当会平成15年第3号、第7号、第28号)。
@ 入学式・卒業式における「君が代」のピアノ伴奏について、思想・良心の自由を守るたために行いたくないとする申立人に対して、その理由を知ったうえでなおピアノ伴奏を行うことに関する職務命令を出して強制したことについては、達意の疑いが極めて高い。相手方(学校長)は、今後、「君が代」のピアノ伴奏について、思想・良心の自由を守るために行いたくないとする申立人に対して、その理由を知ったうえでなおピアノ伴奏を行うことに関する職務命令を出して強制しない。
A 相手方(学校長)は、「君が代」のピアノ伴奏について、職員会議での教職員の意見を十分聴取したうえで、できる限り申立人を含む教職員の理解と納得を得られるよう努力する。

3 人権侵害性に関する判断
(1)本件で問題となる申立人らの人権とその保障の限界
@ 思想・良心の自由
 上記の2005年2月、28日付当会会長声明において指摘されているとおり、今日においても、日の丸については過去の日本の軍国主義を想起させるものとの主張や、君が代については国民主権と矛盾する天皇制を賛美するものとの解釈などが国民の間に存在している。
 したがって、日の丸や君が代についていかなる考えを持つかという点については、当該個人の思想・良心に属する問題であって、憲法第19条の保障の対象となる。

A 教育の自由
 また、申立人らは、公立学校の教職員であるところ、憲法の保障する学問の自由は学問研究の自由のみならずその結果を教授する自由をも含むと解され、かかる自由は普通教育の場においても、例えば教師が公権力によって特定の意見のみを教授することを強制されないという意味において、−また、子どもの教育が教師と子どもとの間の直接の人格的接触を通じその個性に応じて行なわれなければならないという本質的要請に照らし、教授の具体的内容及び方法につきある程度自由な裁量が認められなければならないという意味においても、一定の範囲で保障されるというべきである。
 もっとも、憲法26条は、1項で「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」と定め、2項で「すべて国民は、法律め定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。」と定めているが、この規定の背後には、国民各自が、一個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有すること、特に、みずから学習することのできない子どもは、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利(学習権)を有するとの観念が存在していると考えられる。
 したがって、国や地方公共団体にあっては、かかる子どもの学習権の保障のため、子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような介入、例えば、誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制するようなことが許されないと解すべきである。
 このことは教師に対しても妥当するというべきであり、よって、教師は、子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような介入、例えば、誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制しない限りにおいて、教育の自由が保障されると解するのが相当である(最高裁大法廷判決昭和51年5月21日・刑集30巻5号615貢。いわゆる旭川学テ大法廷判決)。
 なお、「誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制しない限りにおいて」という限界は、学校教育現場において問題となる教師の思想・良心の自由の限界をも画するものと解するべきである。

(2) 本件通達の人権侵害性
 そこで、本件において、申立人らに対してなされた懲戒処分ないしはその前提となった職務命令の法的根拠を明らかにしつつ、相手方の措置の人権侵害性について検討する。

@ まず、相手方による懲戒処分はその理由の一つとして職務命令違反が挙げられている。当該職務命令は本件通達に基づくものと解されるところ、本件通達の内容は、上記第5・1(1)A記載のとおり、日の丸掲揚及び君が代斉唱のいずれについても、他に選びうる手段・方法が残されていないといいうるほど、その実施方法について詳細な指示がなされており、およそ各学校長の裁量の余地を見出し難い一義的な内容であることが明らかである。

 加えて、                       
イ 本件通達に引き続き、平成16年3月11日に、東京都教育庁は、指導部高等学校教育課長賀澤恵二名で、都立高等学校長に対し、「入学式・卒業式の適正な実施について(通知)」と題して、大要、「10月23日の新たな実施指針に基づいた通知により、儀式的行事においては、国旗・国歌の適正実施が進められているとこころです。しかしながら、一部の学校の卒等式において、生徒のほとんどが国歌斉唱時に起立しなかったなどの不適正な事態が生じています。学習指導要領においては、「入学式や卒業式などたおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする。」とあり、学校は児童・生徒の発達段階に即して教育を施すことを目的とするものであり、校長や教員は、関係の法令や上司の職務上の命令に従って教育指導を行わなければならないという職務上の責務を負うものです。つきましては、校長が自らの権限と責任の下に、教育課程の適正な管理を図り、入学式・卒業式等の儀式的行事の適正な実施について、次のように教職員への指導の徹底をお願いします。@ホームルーム活動や入学式・卒業式等の予行等において、生徒に不起立を促すなどの不適切な指導を行わないこと。A生徒会や卒業式実行委員会等の場で、生徒に不起立を促すなどの不適切な指導を行わないこと。B式典の妨げになるような行動に生徒を巻き込まないこと。」という内容の通達が出され、

ロ さらに、平成18年3月13日に、相手方教育長中村正彦名で、「都立高等学校長、都立盲・ろう・養護学校長及び都立中学校・中等教育学校長に対し、「入学式及び卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の指導について(通達)と題して、「東京都教育委員会は、「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について(通達)」(平成15年10月23日付15教指企第569号)により、各学校が入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱を適正に実施するように通達した。また、「入学式・卒業式の適正な実施について(通知)」(平成16年3月11日付15教指高第525号)により、生徒に対する不適正な指導を行わないこと等を校長が教職員に指導するよう通知した。しかし、今般、一部の都立高等学校定時制課程卒業式において、国歌斉唱時に学級の生徒の大半が起立しないという事態が発生した。ついては、上記通達及び通知の趣旨をなお一層徹底するとともに、校長は自らの権限と責任において、学習指導要領に基づき適正に児童・生徒を指導することを、教職員に徹底するよう通達する。」
との通達も出されている。
 これらの事実からも、元々の本件通達の趣旨が、教職員に対し、相手方都教委の一方的な指示に従って、入学式・卒業式等における君が代斉唱、斉唱時の起立を求めることを徹底することにあることは明らかであって、泰件通達の内容は、教職員に対していわば一方的な観念を子どもに植えつける内容の指導・教育を施すことを強制するに等しく、子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げかねない介入として是認し難いものといわざるをえない。
 したがって、本件通達は、それ自体、教職員の思想・良心の自由及び教育の自由並びに子どもの学習権を不当に侵害するものであるから、直ちに撤回されなければならないものというべきである。

A 職務命令の効力
 本件通達が教職員の思想・良心の自由等を侵害するものであるならば、本件通達に基づいて、教職員に対し、日の丸に向かって起立して君が代を斉唱することを職務命令によって求めることは許されないことも明らかである。

B懲戒処分の効力
 以上のとおり、相手方が申立人に対して、本件通達に基づいて職務命令を行うことは許されないのであるから、当該職務命令に違反したことを理由とする本件懲戒処分も効力を有しないこととなる。

(3)想定されうる反論等の検討
 もとより、教師の思想良心の自由や教育の自由の保障も絶対無制約ではなく、公共の福祉による一定の制約を免れないものであるから、かかる観点から想定されうる反論について検討する。
@ まず、本件は、起立をしないという行動を伴う点において、思想・良心が内心にとどまっておぢず、外部に思想か表れているから、いわば消極的な表現の自由に対する制約の間遠として、公共の福祉との関係で制約が可能となりうるという考え方がありうる。
 しかし、憲法が、明治憲法下の反省にもとづき思想・良心の自由を保障した趣旨に鑑みるなら、その保障は最大限に確保されるべきであるところ、自らの思想・良心の自由を守るために必然的に消極的な表現形感を伴うことを余儀なくされる場合において、安易に公共の福祉による制約を認めるときは、本来無制約でなければならないはずの思想・良心の自由を結果的に不当に制約するおそれが多分にあるから、かかる表現の自由の制約を検討するにあたっては慎重な検討を要する。
 そして、本件の場合においても、申立人らが君が代斉唱に伴う起立をしないという消極的表現行為は、申立人らの思想・良心の中核に関わるものであり、その行為と内心の思想とは密接不可分である。つまり、申立人において、君が代斉唱の際に起立を強制された場合、これに反対するという自己の思想を守るためには起立しないという行動を必然的に取らなければならないのであって、これを懲戒処分の威嚇の下に一義的な内容の通達に基づく職務命令によって強制するならば、これは、まさに「踏み絵」を踏むことを強制するに等しく、外部的行為を切り離して制約を正当化するときはおよそ思想・良心の自由の保障は画餅に帰してしまうから、上記の考え方は妥当でない。
                                        
A 同様に、思想・良心の自由や教育の自由が保障されるとしても、教職員に職務命令に違反して起立しないことや国歌斉唱をしないことまで許容すると、たとえば、本件通達の別紙「入学式、卒業式等における国旗揚揚及び国歌斉唱の実施指針」において指摘されている「厳粛かつ清新な雰囲気」が損なわれるのであるから、公共の福祉の観点から制約が許容されるとの見解やありうる。
 しかし、そもそも「厳粛かつ清新な雰囲気」というものが人権制約の根拠たりうるかについて疑問の余地があるうえ、仮に制約事由となりうるとしても、はなはだ曖昧な内容であって、思想・良心の自由や教師の自由という人権の制約を正当化しうる事由とも言い難い。また、仮に正当化事由として考慮するとしても、当該教職員が、式場において自己の見解を大声で述べて、子どもたちに自己の見解の正当性を押しつけたりするなどの行為に及べば別論、単に君が代斉唱時に着席した、あるいは起立しなかった、さらには君が代を斉唱しなかったということをもって直ちに「厳粛かつ清新な雰囲気」を阻害したと認定することは困難である。したがって、上記の見解も採りえない。

B むしろ、前述したとおり、本件通達は、一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制する内容を含んでいるのでおり、かかる通達に基づく指導がなされている場合には、教職員が、教育の自由の限度の中で、子どもたちが自由かつ独立の人格として成長するように、そして子どもたちに一方的な観念を植えつけられることがないように、子どもたちに対して、「周りに流されることなく、よく考えて行動しよう」と教えることは憲法価値に合致した行動と評価することも可能というべきである。

(4) 本件におけるあてはめ
 以上に論じてきたことを前提として、本件について検討することとする。

@ まず、申立人らからの事情聴取によれば、申立人らが君が代斉唱時において起立しなかったのは、日の丸・君が代の歴史的意義をふまえて、子ども自身で斉唱すべきか、また起立すべきか否かを判断すべきであると教育してきたことから、相手方による一方的強制に基づく指導教育に従うことが自らの信念に反するものであったことに基づくものと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
 したがって、申立人らが君が代斉唱時に起立しなかった、あるいは着席した行為は、申立人らの思想・良心の自由に属し、またこれに基づくものであると認められる。

A また、申立人らの君が代斉唱時の不起立または着席の行為によって、子どもたちに対して一方的な観念を植えつけるような内容の教育を強制した事実は確認められないから、申立人らが、「児童・生徒に対して、『周りに流されることなく、よく考えて行動しよう』と教えている教員として、起立等の強制には服従することができない」と考えて、君が代斉唱時に起立しなかった、あるいは着席した行為は、申立人らの教育の自由にも属し、またこれに基づく行為であると認められる。

B そして、申立人らはいずれも、君が代斉唱時に起立しなかった、あるいは着席したという限度を超えて、申立人らの行為が、各入学式もしくは卒業式の「厳粛かつ清新な雰囲気」を阻害したと認めるに足りる特段の事情は認められない(この点から、申立人らの行為が信用失墜行革に該当するとまで認めることはできない)。

C したがって、相手方の職務命令ないしは職務命令違反として懲戒処分を行うた行為は、申立人らの思想良心の自由及び教育の自由を侵害するものというべきである。

第6 まとめ
以上のとおり、本件通達は憲法に違反し、したがって、本件通達に基づく職務命令は無効であり、かつ無効な職務命令に違反したことを理由とする相手方の申立人らに対する懲戒処分も無効というしかない。
 そして、申立人らほ現在も都立ないしは東京都下の公立学校の教職員であるところ、相手方は、入学式・卒業式等における君が代斉唱時の起立の問題だけに限っても、いずれも本件通達が出された後に、申立人河原井純子に対して別紙1記載のとおり合計4回の懲戒処分、申立人根津公子に対して別紙2記載のとおり合計3回の懲戒処分、申立人渡辺厚子に対して別紙3記載のとおり合計2回の懲戒処分及び申立人岸田静枝に対して別紙4
記載のとおり合計2回の懲戒処分を繰り返して行い、その結果、上記別紙1ないし4の各「処分の種類及び程度」記載のとおり、申立人らに対する処分は段階的に重い内容になっていることが認められる。
 したがって、仮に万が一にも本年3月に行われる卒業式または本年4月に行われる入学式における「君が代」斉唱時に職務命令が出されたときには、同様の事態を招来し、申立人らに対して更に重い処分がなされる可能性が否定できない情況にある。
 そこで、当会は、2005年2月28日付当会会長声明及び2006年9月27月付会長声明をふまえ、相手方に対し、[第1結論」記載のとおり警告することが必要かつ相当であると判断した次第である。
以上

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