橋下知事の「教育日本一」戦略にストップを! 競争激化と格差拡大の「大阪の教育力」向上プランに反対! |
橋下知事は、公務員と労働組合バッシングの次は教育にターゲットを絞り、大阪の教育に全面的な介入を始めています。橋下知事が大阪維新プログラムの「重点政策」にあげた習熟度別学習や大阪版学力テスト、「大阪まなび舎事業」などは、この秋から実施されつつあります。橋下知事と府教委は、今後10年の教育ビジョンである「大阪の教育力」向上プラン(素案)をまとめ、年内完成、2月府議会での予算化、2009年度から本格実施に移そうとしてしています。 今、大阪の教育は重大な転機を迎えています。現在橋下知事と府教委が進めようとしていることは、これまでの大阪の教育を根本的に転換し、競争による差別選別教育を一気に持ち込むものに他なりません。早急に橋下知事と府教委の描く教育政策の本質を暴き、反対の声を強めなければなりません。橋下「教育日本一」戦略にストップをかけなければなりません。 1.「学テショック」を利用して教育に不当介入し始めた橋下知事 (1)市町村教委に対して学テ結果公表を強制する橋下知事 橋下知事は、全国学力テストの結果に対して「このザマはなんだ」と教育委員会と教職員をののしり、「教育非常事態宣言」を発しました。マスコミを最大限利用して教育危機をあおり、橋下教育政策に反対する教育委員会を「くそ」呼ばわりして教育へ露骨な政治介入をはじめました。 橋下知事は、府教委に対して市町村別正答率の公表を「指示」し、公表に慎重な市町村に対しては、「できが悪いから公表できない」「教員がにげているだけ」と圧力をかけました。9月府議会では「公表・非公表を含めて、府教委と一緒に積極的に教育に取り組む市町村には、総合的な判断で予算配分していく」と発言し、公表・非公表で予算を差別化すると発言しました。これ自体行政による教育への不当介入であり、教育の自由と独立性を完全に無視する違法行為です。橋下知事が主張する地方分権や道州制は、地方自治体による教育への全面的な介入を前提としたもので、改悪教育基本法16条でも尊重された不当支配の禁止に抵触するものです。 当初公表に慎重姿勢を示していた市町村教委の中で、公表の雪崩現象が起きています。連日公表を決めた市町村を報道し公表の流れを作るマスコミの影響もありますが、決定的なのが予算を握っている橋下知事の圧力でした。 私たちは、学力テストの市町村別公表に反対します。いったん公表が進めば市町村間の競争激化と「足を引っ張る」市町村への個別攻撃が強まることは必至です。はやくも9月府議会で「なぜ学校別公表ができないのか」の声が出ているように、次は学校別公表に向けてエスカレートしていくことは明らかだからです。 (2)大阪での学校支援地域本部制=和田中モデルの導入 @橋下知事は、元和田中校長:藤原和博氏を大阪府特別顧問に委嘱しました。藤原氏が和田中で実施した地域本部制と「夜スペ」は、文科省のモデル事業となり、全国へ拡大しようとしているものです。橋下知事は、早速これに飛び付き、全国に先駆けて和田中モデルを自治体レベルで実施しようとしているのです。 藤原氏は、池田市で教員研修会の講師をし、池田中学校で「夜スペ」をモデルにした放課後授業を開始させました。11月からは大阪府内全域の校長・市町村教委を対象にした研修会を行おうとしています。橋下知事と藤原氏は、今後池田市の取り組みを突破口にして、大阪府内全体に広げていこうとしているのです。 A藤原氏が大阪に何を持ち込もうとしているのか。それは和田中で彼がやったことを見れば一目瞭然です。第1に教職員と保護者が協同して学校を支えるPTAを廃止し、それとは性格を異にする学校支援地域本部を導入したことです。地域本部には、学校教職員は関わっていません。和田中では、「地域本部主催」ということで現場教員とは無関係に、子どもたちに関わる様々な政策が学校に持ち込まれています。「地域」の名の下に私的営利企業・塾などが地域本部に入り込み、教育現場を営利活動の場としていきました。これは、学校と教育内容への私的営利企業の介入と支配の始まりです。今後、地域本部が強化されれば、「学校経営」や教職員の人事に影響力を持つものではないかという危惧がでています。 第2に、その地域本部が主催して導入した「都立の進学重点校や私立の中上位校を狙う夜の特別コース」(和田中での保護者向け案内)、いわゆる「夜スペ」についてです。進学塾「サピックス」が、教材開発から講師派遣まですべてを請負っています。塾業界が「夜スペ」に反発したことからもわかるように、「夜スペ」はサピックスの営業活動の一環として行われているのです。「夜スペ」は、子どもや保護者の要望から生まれたものではありません。藤原氏がサピックスと組んで、トップダウンで決めたものです。「夜スペ」の最初の募集は希望者ゼロでした。 第3に、「成績上位層」に限定した「夜スペ」や「英語アドベンチャーコース」の導入は、子どもたち・保護者・地域に差別、選別、分断を持ち込んでいます。「夜スペ」の授業を受けるためには、「入室テスト」を受け合格しなければなりません。いったん合格すれば格安で進学塾の授業が受けられ、夕食まで保障されています。子どもたちの間に「成績上位層」でなければ、特別配慮を受けられないという差別意識を植え付けることは明らかです。誰でも参加できる「土曜寺子屋」(学生ボランティアなどの補助を受けることができる自習)を実施していたとしても、それは格差教育を見せつけるものでしかありません。また、和田中校区の町会長も「義務教育の場でに民間塾の授業を持ち込み、生徒間較差をあおるほか、夜間通学の防犯体制を周辺地域に要請するなども異常としか思えない。」と民間塾を活用した生徒集めを批判しています(「世界」2008年4月号参照)。 B藤原氏の和田中「改革」の基盤となった教育観は極めて危険なものです。藤原氏は、2003年4月、リクルート社営業統括部長から東京義務制初の民間人校長として和田中に赴任しました。学区制を廃止した杉並区の中で和田中の「営業成績」=進学実績をあげるために、学校改革を行っていきました。校内の会議を「経営会議」とし、学校全体を効率的に目標を達成するための経営体にしていきました。そのためには塾との連携に何の躊躇もいらなかったのです。 藤原氏は、「夜スペは教育の機会均等を促す」「上の子を引っ張り上げることで、全体の力が向上する」と豪語しています。いわゆる「吹きこぼれ」対策を重視しています。「吹きこぼれ」対策とは、もっと深く学習したいという子どもたちの多様な関心・意欲から生まれたものではなく、「成績上位層」への進学指導そのものです。すなわち受験準備教育とテストの結果重視の教育です。「吹きこぼれ」対策は、それを受ける子どもたちだけでなく学校教育の中身全体を変質させ塾化してくものです。 大阪では、人権教育を土台にして「ひとりはみんなのために みんなはひとりのために」という「集団主義教育」が行われてきました。それは、子どもたちの生活場面だけでなく学習場面においても重視されてきました。学習内容がすぐに定着する子も時間のかかる子もお互いに協力し合って、集団として高まっていくことをめざしてきました。わたしたちは、このような教育の中でこそ、子どもたちの成長がはかられるのではないかと考えています。 (3)教育委員会の権限強化を通した教育支配 橋下知事は、教育委員会を牛耳ることで、トップダウンで教育を変えていこうとしています。 まずは、これまでの教育委員を「お飾り」「ビジョンがない」と攻撃し、任期を終える2名の委員を再任をしませんでした。その上で自分の意に沿う2名(「百ます計算」の蔭山英男と「小河式プリント」の小河勝)を教育委員に起用しました。退任させられた教育委員からは、橋下知事に対して「独裁的で危うい」「一方的な発言で、教育現場を混乱させている」と厳しい批判が浴びせられました。 就任に際して蔭山氏は「受験テクニックは現代社会を生きる力だ。」「学力は1年で必ず伸びる。」、小河氏も「公立学校の最大の課題は学力を守ってあげること」と発言しました。橋下知事も、「お二人の力で、大阪の教育界にある『学力がすべてではない』という誤ったスローガンを改めてほしい。教育委員主導で号令をかけてほしい」と呼応しました。生野教育委員長も、橋下知事の意向通り「従来は教委事務局の施策のチェックが中心だったが、今後は立案段階からかかわりたい」と述べ、教育委員の活動強化案を打ち出しました。 橋下知事のやり方は、教育3法の改悪で教育委員会の権限が強化されたことを利用して、教育委員に実質的な決定権を持たせ、自らの教育政策を推進しようとしているのです。東京都の石原知事が、教育委員に自らのブレーンを任命し、トップダウンで次々に「教育改革」を行ったのと全く同じです。 2.大阪の教育を根本から転換させる「大阪の教育力」向上プラン (1)大阪府教委は、9月12日、橋下知事の「重点政策」を全面的に取り入れた「大阪の教育力」向上プラン(素案)を発表しました。 「大阪の教育力」向上プラン(以下「プラン」)は、今後10年間の長期教育プランとして、府教委が改悪教育基本法、改悪教育3法を具体化するために2007年7月大阪府学校教育審議会に諮問していたものでした。7月に出された答申には、改悪教育基本法の教育目標である、愛国心と道徳教育、「伝統文化教育」と規範意識が「大阪の子どもたちにはぐくみたい力」として盛り込まれています。橋下知事は、全国学テの低迷をテコにして、自らの「重点政策」=新自由主義的政策を「プラン」の中に色濃く反映させました。「プラン」は、大阪府教委と橋下がタッグを組んで作り上げたもので、改悪教育基本法の具体化と橋下知事の新自由主義的教育政策が一体化したものです。 (2)「プラン」には、第1章で「これからの大阪の教育がめざすもの」を規定した上で、第2章で「今後5年間の具体的取り組み」として数値化された「事業目標」とその実現スケジュールが書き込まれています。これが今後の大阪府の教育戦略となり、ここで規定されたものがスケジュールに沿って随時予算化され実行に移されていくことになっています。この「プラン」は、今後の大阪の教育を根本から転換するものに他なりません。 @競争と差別化による学力向上策。そのための最大の手段として「大阪府学力テスト」を小学校4年から中学3年までの子どもたちに毎年実施し、結果の集約と検証を行おうとしています。「学力向上のためのPDCAサイクルの確立」によって、学校教育を学力テストの結果向上に血道を上げさせようともくろんでいます。また、小学校3年生以上で習熟度別学習を導入し、小学校(国語・算数)、中学校(国語、数学、英語)の全授業時間の20%で実施することを目標に掲げました。これまでの学級集団としての持ち味を破壊し、子どもたちの分断、差別化を助長していくものに他なりません。 さらには、全国学力テストや学習状況調査で全国平均を上回ることを目標に掲げています。とにかくあらゆる分野で全国平均を上回ることが最大の数値目標となっています。 A放課後学習指導(「おおさか・学び舎事業」)を全市町村で実施することを目標に掲げ、塾講師の導入も奨励しています。大阪版「夜スペ」です。 B公立エリート高校作り。普通科高校を中心に、大学進学率の数値目標化などを推進している「次世代をリードする人材育成研究開発重点校(エルハイスクール)」「経営革新プロジェクト事業」をすべての高校に広げることを課題にあげ、「進路指導に特色のある高校」を10校作ることを方針としてエリート育成に重点を置いています。 C若い教員を対象にしたOJT研修や管理職育成のための「キャリアステージに応じた研修制度」などの官製研修と評価育成システムの強化による教職員支配の徹底。「がんばっている」教員を応援することを名目に評価育成システムを昇任や給与への反映幅の拡大をもくろんでいます。また、「指導が不適切な教員を現場からはずす」ために「指導力不足教員に対する分限免職の厳格な適用」を計るとしました。 D学校間競争を加速させる「学校評価」の強化と府民への公開の促進。校長のリーダーシップの強化のもとで校長−教頭−首席・指導教諭−「ミドルリーダー」−教員の上意下達の学校運営組織の徹底。教育委員会内に校長「支援チーム」の設置。 E大阪の人権教育の最後的な破壊。在日外国人教育、同和教育、男女平等教育、障がい児教育などの具体的教育課題に一切ふれず、「道徳」と関連づけた規範教育の中に取り込み変質させようとしています。すでに人権教育に関わる予算を大幅にカットし、大同教などの組織そのものを弱体化させようとしています。その一方で、新たに「志や夢をはぐくむ教育推進事業」を立ち上げ、道徳の副教材やDVDなどを制作し、全学校へ浸透させようとしています。さらに道徳教育の研究実践の拡大・波及、道徳教育推進教師の研修強化、道徳の年間カリキュラムの作成など、道徳教育の強化が図られようとしています。 (3)「プラン」は、橋下知事と府教委が教育への本格的な不当介入・支配政策の柱となるものです。全国学力テストとその公開は、教育現場を「プラン」で走らせる絶大な推進力になります。橋下知事は、「プラン」を年内にまとめ、来年度の予算編成に反映させるつもりです。この秋から府教委は、「プラン」を先取りして習熟度別学習や大阪府学力テスト、放課後学習指導などを見切り発車しようとしています。すでに現場は、混乱と矛盾の中にたたき込まれつつあります。 橋下知事と府教委の「教育改革」を許すのか否か。これまでの大阪で培われてきた教職員運動、人権教育運動にとって試金石になることは間違いありません。 3.橋下知事を先導役に改悪教育基本法の具体化を進める文部科学省 (1)教育基本法が改悪されて2年。文部科学省は、教育3法の改悪をはじめとしてその具体化を着々と進めてきました。2007年から全国学力テストの実施。2008年3月には、新学習指導要領を告示し、改悪教育基本法の「教育の目標」に沿った大幅な改訂が行われました。道徳教育の目標の中に「伝統文化の尊重」「愛国心」「公共の精神の尊重」を盛り込み、「学校の教育活動全体の要」と位置づけることで全教科で道徳教育を推進することを明記しました。政府は、2008年7月「教育振興基本計画」を閣議決定し、今後5年間の教育施策をまとめました。教育予算拡大と教職員増の具体的目標は削る一方で、「世界トップの学力水準をめざす」「学習指導要領の実施と学力テストによる検証」「道徳教育や伝統・文化に関する教育の推進」「教員免許更新制の実施」「メリハリある教員給与体系の推進」「不適格教員の厳格な人事管理」「新しい職の設置と学校運営の改善」等を掲げました。今後、政府の「教育振興基本計画」に沿って各地方自治体の「教育基本計画」が策定されていきます(改悪教育基本法17条により)。「大阪の教育力」向上プランは、まさに大阪版「教育振興基本計画」に相当するものです。 改悪教育基本法の理念が、教育政策と教育内容に反映され、現場での具体化の段階に入ってきたのです。 (2)文科省は、橋下知事を先導役に、なし崩し的に新自由主義的政策を加速させています。全国学テの市町村別公表に慎重だった文科省が、橋下知事の公開要請を機に容認する姿勢を示しました。そのとたん、秋田県や宮城県、浜松市などでも公表の動きが広がりました。鳥取県南部町教委は、全国で初めて学校別結果まで開示してしまいました。文科省は、各自治体の「自主的公表」によって競争原理をはたらかせ、全国学力テストを国家教育戦略にそって学校をコントロールする装置として機能させようとしているのです。また、文科省は、和田中をモデルに始めた「学校支援地域本部」を大阪に導入することで、その全国化も推し進めようとしています。橋下知事の教育政策との対決は、ますます全国的な意義を持つものとなりました。 (3)教育基本法改悪の実質化が進むにつれて、今後教育現場での矛盾とそれへの抵抗は一層顕在化していくことは明らかです。東京では、都教委の10.23通達以降、「日の丸・君が代」強制と「君が代」吹き立位処分に対する頑強な抵抗が継続されています。大阪でも、全国で先頭を切って始まった教職員人事評価制度=評価育成システムによる教職員のランク付けと評価結果の給与反映に反対して集団訴訟が起こっています。全国学力テストに対しても、愛知県犬山市の不参加を始め、各地で批判と抵抗が続いています。 橋下知事との対決は、全国で進む教育基本法改悪の実体化を阻止する取り組みの一環です。各地の運動と結びつきながら、大阪の地で橋下「教育日本一」戦略に反対する声を強めていきたいと思います。 2008年10月7日 |