生徒が卒業式の「日の丸・君が代」で良心の自由を求めると「過激発言」!?

               「過激発言」と県教委に報告した学校長と
       「日の丸・君が代」実施調査報告の提出を求めた神奈川県教委に対して

                   横浜弁護士会が人権侵害と勧告
                                                2004.9.10


 私が、高校生当時、日の丸君が代の問題について質問したことを「過激な発言をする生徒がいる」として、県教育委員会に校長が一方的に報告し、それが発覚して以降、削除を請求し、最終的には個人情報と認められて文章から削除はされたものの、謝罪等は認められなかった事件がありました。

 その件について、横浜弁護士会の人権擁護委員会に人権救済の申し立てを行ったところ、申し立てから1年余経った9月10日付で、神奈川県教育委員会、及び当時の校長に対して、その人権侵害を認めるとともに、勧告が出ました。(根拠は憲法19条「思想及び良心の自由」、子どもの権利条約12条「子どもの意見表明権」)
 神奈川県内に於いて、日の丸・君が代についてこのような判断を下したのは初の例
のようです(2004年9月11日朝日新聞神奈川県版による)。

 勧告の内容は、当時の校長に対しては「(過激と記載した)回答書への記載の問題点について検討し、その結果を申立人にせつめいする」こと。
 県教育委員会に対しては、今後も日の丸君が代の調査を行うことで、「同種の人権侵害を発生させるおそれが高い」と認めた上で

「(1)卒業式、入学式等の学校行事の実施に関し、国旗掲揚・国歌斉唱の実施状況について、特定の方法を提示したり、生徒や保護者の態度の報告を求めるなど、その具体的内容に立ち入る調査を行わないこと」

「(2)日の丸、君が代に敬意を表することが自分の思想及び良心に反すると考える生徒や保護者の思想及び良心の自由、意見表明権を侵害しないよう、卒業式、入学式等の学校行事の実施については、事前に生徒や保護者との協議を尽くし、その意見を尊重し、式典においても、これらの思想及び良心の自由を尊重した挙行の方法をとるよう、県内の学校へ通知指導すること」


を勧告しています。

 今後どのような対処をそれぞれがとるかは未定ですが、現在の教育現場の管理への流れの中で、みなさんを勇気づけるものであると考えています。

                                                     申立人

          詳細についてのご質問やご意見、ご感想はこちらまでお寄せ下さい。

県立高校学校長への勧告書 神奈川県教委への勧告書
人権擁護委員会の調査報告書 (別紙2)県教委の国旗掲揚・国歌斉唱状況調査


【県立高校学校長への勧告書】
                                            横弁発第868号
                                            平成16年9月10日

元神奈川県立○○高等学校校長
  ○○○○  殿
                                             横浜弁護士会
                                             会長 高橋理一郎

                           勧告書

 当会は、元神奈川県立○○高等学校生徒であった申立人○○○○に係る人権侵犯救済申立事件について調査したところ、貴殿において、下帯の神奈川県教育委員会に対する国旗.国歌に関する調査の回答書への記載につき、申立人に対する人権侵害の事実があり、救済措置を講じる必要があると判断いたしましたので、当会常議員会の議を経た上、貴殿に対し、下記のとおり勧告いたします。

                        勧 告 の 趣 旨

 当会の調査によると、貴殿が神奈川県立○○高等学校校長として、神奈川県教育委員会の平成12年3月8日付け「国旗・国歌に関する調査について(依額)」に対する回答書に、「2年生男子生徒に過激な発言をする生徒がおり、説得に時間を要した。(校長室に呼んで生徒の意見を十分に問いて3年生のための卒業式への協力を求め納得させた。)」と記載したことは、日の丸の掲揚、君が代の斉唱についての申立人の意見表明や態度、即ち申立人の思想及び良心の内容について、「過激な発言」等と否定的に評価して、同教育委員会に報告しているものであって、憲法19条の定める思想及び良心の自由を不当に侵害する行為であるとともに、子どもの権利条約12条の定める子どもの意見表明の権利をも不
当に侵害する行為として、人権侵害行為に該当すると判断されます。
 よって、貴殿に対し、当会の上記判断を踏まえて、改めて貴殿の上記回答書への記載の問題点について検討し、その結果を申立人に説明するよう、勧告します。

                            勧 告 の 理 由

別紙調査報告書のとおり。


【神奈川県教委への勧告書】
                                            横弁発第869号
                                            平成16年9月10日

神奈川県教育委員会
委員長  平 出  彦 仁 殿
                                            横浜弁護士会
                                            会長 高橋理一郎

                             勧告書

 当会は、元神奈川県立○○高等学校生徒であった申立人○○○○に係る人権侵犯救済申立事件について調査したところ、貴委員会の県立学校に財する国旗・国歌に関する調査につき、申立人に対する人権侵害の原因となっており、また今後同種の人権侵害を発生させるおそれが高く、救済措置を講じる必要があると判断いたしましたので、当会常議員会の議を経た上、貴委員会に対し、下記のとおり勧告いたします。

                          勧 告 の 趣 旨

 当会の調査によると、貴委員会の県立高等学校長への平成12年3月8日付け「国旗・国歌に関する調査について(依頼)」に対する回答書に、当時の○○高等学校校長が、同校の卒業式での日の丸の掲場、君が代の斉唱についての申立人の意見表明について、「2年生男子生徒に過激な発言をする生徒がおり、説得に時間を要した。(校長室に呼んで生徒の意見を十分に問いて3年生のための卒業式への協力を求め納得させた。)」と記載したことは、申立人の憲法19条の定める思想及び良心の自由を不当に侵害する行為であるとともに、子どもの権利条約12条の定める子どもの意見表明の権利をも不当に侵害する行為として、人権侵害行為に該当すると判断されるところです。そして、貴委員会による上記国旗・国歌に関する調査の実施は、人権侵害行為としての上記回答書の記載一報告の原因となっており、それは、貴委員会による上記調査の内容が、日の丸、君が代に敬意を表することが自分の思想及び良心に反すると考える生徒や保護者に対する配慮を全く欠き、卒業式、入学式等の学校行事について、その参加者の態度までも含む具体的な状況報告を学校長に求めることによって、生徒や保護者に対し、画一的に、日の丸、君が代に敬意を表することを事実上強制するような内容となってしまっていることから生じたものであると判断されます。
 そしてそのような貴委員会の国旗・国歌に関する調査内容は、現在の様式のものも含め、学校長に対し、日の丸の掲揚、君が代の斉唱を事実上強制するような、画一的な形式による卒業式等の挙行を求めるものであって、生徒や保護者の日の丸、君が代に対する思想及び良心の自由、意見表明権を間接的に侵害するおそれを生じさせ、今後同種の人権侵害を発生させるおそれが高いと判断されます。
 よって、貴委員会に対し、今後本件のような生徒、保護者等の意見表明権、思想及び良心の自由の侵害を発生させることのないよう、
(1)卒業式、入学式等の学校行事の実施に関し、国旗掲揚・国歌斉唱の実施状況について、特定の方法を提示したり、生徒や保護者の態度の報告を求めるなど、その具体的内容に立ち入る方法による調査を行わないこと
(2)日の丸、君が代に敬意を表することが自分の思想及び良心に反すると考える生徒や保護者の思想及び良心の自由、意見表明権を侵害しないよう、卒業式、入学式等の学校行事の実施については、事前に生徒や保護者との協議を尽くし、その意見を尊重し、式典においても、これらの思想及び良心の自由を尊重した挙行の方法をとるよう、県内の学校へ通知指導することの各措置をとられるよう、勧告いたします。

                         勧 告 の 理 由

別紙調査報告書のとおり。


【人権擁護委員会の調査報告書】
                                              平成16年8月16日

横浜弁護士会
会 長  高 橋 理一郎 殿
                                       横浜弁護士会人権擁護委員会
                                        委員長  福  田   護


                         調 査 報 告 書

 申立人○○○○から当会に申立てのあった、相手方を元県立○○高等学校校長及び神奈川県教育委員会とする人権侵犯救済申立事件(平成15年第8号)について、当委員会が調査した結果を報告いたします。

第1 処理意見(勧告)
 相手方元県立○○高等学校校長に対して下記勧告書(1)のとおり、相手方神奈川県教育委員会に対して下記勧告書(2)のとおり、それぞれ勧告するのが相当と思料する。

第2 申立の概要

(1.2省略)

3.申立の要旨

(1)○○高校校長(以下「元校長」又は「当時の校長」という。)に対する人権侵犯救済申立てについて申立人は自らの思想及び良心に基づいて、○○高校の当時の校長に平成12年3月1日の卒業式における国旗掲揚・国歌斉唱につき生徒の思想及び良心の自由を尊重するよう申入れをしたが、これに対して同校長は、「君の歴史観は間違っている」「偏った本しか読んでいないからだ。そっちだけではダメだ」などと一方的な断定をして、申立人の思想及び良心の自由、生徒の意見表明権等を侵害した。
 また、神奈川県教育委員会(以下「県教委」という。)は各高等学校長宛に高校教育課長名による平成12年3月8日付け「国旗・国歌に関する調査について(依頼)」による調査(以下「本件調査」という。)を行ったが、元校長により、これに対する回答書(以下「本件回答書」という。)に、上記申入れ等の申立人の行動について、「2年生男子生徒に過激な発言をする生徒がおり、説得に時間を要した。(校長室に呼んで生徒の意見を十分に聞いて3年生のための卒業式への協力を求め納得させた。)」などという記載がなされ、申立人の不利益な情報が県教委に報告されることになり、自らの思想及び良心の自由、生徒の意見表明権、プライバシーが侵害された。そしてその後も、何回も申入れをしたが、元校長から上記の訂正、謝罪等の誠意ある対応は見られなかった。
 これらについての元校長の申立人への人権侵害を認め、同人に対して警告をすることを求める。

(2)県教委に対する人権侵犯救済申立について
 県教委による本件調査の回答用紙には、例えば国歌斉唱に際し「(3)ア(ウ)c 一部起立しなかった(しなかった参列者:a生徒 b教職員)」という欄がある。また「式典当日、式場などでトラブル等、何かありましたか。」「その他何かあったらお書きください。」との質問事項があり、生徒の国歌斉唱の状況や、その他の式典での生徒の態度が記載されうる欄があるが、これらは、生徒の思想信条の調査になりかねないものであり、申立人は上記の調査の対象となったものであって、調査自体生徒の人権侵害にあたる。
 申立人は自らの思想信条に基づいて、○○高校の当時の校長に平成12年3月の卒業式における国旗掲揚・国歌斉唱につき生徒の思想信条の自由を尊重するよう申入れをしたが、卒業式の実施において、上記申入れは何ら配慮されず、さらに上記申入れに関して、同校長の県教委に対する本件回答書に「2年生男子生徒に過激な発言をする生徒がおり、説得に時間を要した」などという上記記載がなされ、申立人の不利益な情報が教育委員会に報告されることになり、自らの思想信条の自由、生徒の意見表明権、プライバシーが侵害された。これらの人権侵害は、県教委の実施した本件調査に起因するものである。
 更に、卒業式等についてのこのような調査が継続されることは、今後県立高校の生徒に日の丸の掲揚、君が代の斉唱を強制し、県立高校生徒の思想信条の自由を侵害することにつながりかねない。
 よって、これらの人権侵害が行われないよう、卒業式等についての国旗・国歌に関する調査を中止し、生徒に選択の余地のない国旗掲揚及び国歌斉唱について強制的な実施指導を中止するよう、県教委に勧告することを求める。

第3 調査の経過及び関係資料(省略)
第4 当委員会が認定した事実(省略)

第5 当委員会の判断
1 子どもの意見表明権の意義
 子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)第12条1項は、「締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。」と定めている。
 この意見表明権が認められるということは、その反映として、子どもの意見表明の対象となる国及び自治体、その他の子どもに関わる関係者が次のような義務を負うものと解される。(子どもの権利条約・日弁連レポート)
 第1に、子どもが意見表明や参加を要求する場合には、その機会を十分に保障しなければならない義務を負う(機会保障義務)。
 第2に、子どもが意見表明を行った場合には、これに対し、誠実に応答する義務を負う。特に、その意見が、大人の側の意見と異なる場合には、その意見及び理由を十分に説明し、子どもが納得するように説明する義務を負う(誠実応答及び説明義務)。
 第3に、表明された意見については.その年齢や成熟度を考慮し、相応に尊重する義務を負う(意見尊重義務)。
 教育基本法第1条は、教育の目的として、「自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行わなければならない」とし、第2条は、教育の方針として、教育の「目的を達成するためには、・・・自発的精神を養い,自他の敬愛と協力によって、文化の創造と発展に貢献するように努めなければならない」としている。子どもに対してこのような自主的精神を育成し、自発的精神を養うには、単に子どもを教育の客体、指導の対象と位置づけるのみでは不十分であり、子どもを教育の主体と位置づけ、その決定過程に参加させることが重要である。
 このように教育における子どもの意見表明、参加は、中学校や高等学校という高学年になれば、より一層広範囲となり、その程度も強められることは当然である。また、とりわけ学校行事の中では、子どもの意見表明、参加が重要であり、容易でもある。

2 生徒の思想及び良心の自由・意見表明権と国旗掲揚・国歌斉唱
 憲法第19条の思想及び良心の自由とは、個人が内心においていかなるものの見方、考え方をしようとも、その告白を強要したり、それに対して不利益を課したりしてはならないということであり、民主主義の土台をなす最も基本的かつ優越的な人権である。そしてこの思想及び良心の自由は、人格形成過程にある高校生にとっても、保障されねばならないことはいうまでもない。
 日の丸、君が代については、学習指導要領第4章第3の3では、「入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする」と定められている。
 また、平成11年8月には、国旗及び国歌に関する法律(以下「国旗国歌法」という。)が成立し、その第1条で「国旗は、日章旗とする。」、第2条で「国歌は、君が代とする。」と定められた。
 しかしながら、日の丸、君が代をめぐっては、それが第2次世界大戦下において天皇制の日本が戦争を遂行するシンボルとしての役割を果たし、自他の国民に多大かつ悲惨な被害をもたらした大きな動因となったものであり、あるいはそのような状況下で日の丸の掲揚、君が代の斉唱を強制された歴史が繰り返されてはならない等との認識や考え方が国民の中にも相当広く存在し、現在においても、日の丸を掲揚し、君が代を斉唱するなど、これに敬意を表することについて、国民の間でさまざまな意見があることは公知の事実である。その意味で、日の丸を掲揚し、君が代の斉唱を行うか否かは個人の思想及び良心の自由、あるいは表現の自由にもかかわることであり、日の丸、君が代に対して敬意を表したくないという個人のものの見方、考え方がある以上、それを強制することは思想及び良心の自由を侵害することにならざるを得ない。
 したがって、国旗国歌法の国会審議においても、総理大臣が、「学校教育における国旗・国歌の指導と児童・生徒の内心の自由との関係」について、「我が国の国民として、学校教育におきまして、国旗・国歌の意義を理解させ、それらを尊重する態度を育てることは極めて重要であることから、学習指導要領に基づいて、校長、教員は、児童生徒に対し国旗・国歌の指導をするものであります。このことは、児童生徒の内心にまで立ち至って強制しようとする趣旨のものでなく、あくまでも教育指導上の課題として指導を進めていくことを意味するものでございます。この考え方は、平成6年に政府の統一見解として示しておるところでございまして、国旗・国歌が法制化された後も、この考え方は変わるところはないと考えます。」(平成11年年7月21日衆議院内閣委員会、内閣総理大臣・小渕恵三)と明らかにしているところである。
 そして以上の点については当会も、平成11年7月26日付け会長声明及び平成12年3月17日付け会長声明において、「日の丸・君が代については、国民の中で多様な意見が存在し、そうした個人の意見を無視して『強制』することは、憲法で保障する思想・良心の自由の侵害となることは明白である。」等と指摘してきたところである。

3 県教委による本件調査の内容と現実的機能
 県教委が、平成12年3月に行った別紙1の様式による本件調査は、文部科学省の「公立小・中・高等学校における入学式及び卒業式での国旗掲揚及び国歌斉唱に関する取扱いについて」という照会書を受けて、国旗掲揚・国歌斉唱の実施状況を調査するために作成し、文部科学省に対する実施率等の報告に用いたものであった。
 それに先立って、県教委は、平成11年11月に「入学式及び卒業式における国旗の掲揚及び国歌の斉唱の指導の徹底について(通知)」という、国旗の掲揚及び国歌の斉唱の指導の徹底を求める通知を、各県立学校長に出している。
 また県教委は、当委員会の事情聴取に対し、本件調査に対する回答内容について、県教委が望ましいと考えている卒業式等の方式はあり、それに沿った指導助言を各県立学校長にすることはありうると回答している。
 そして、本件調査の回答項目の選択肢は、別紙1のようにかなり具体的であり、国旗掲揚について言えば、「ア 掲揚した イ 掲揚しなかった(理由:    )」とされ、さらにその掲揚の仕方も、こと細かに、前の方の選択肢が望ましいというように受け取られるような記載の仕方をしている。国歌斉唱についても同様である。しかも、後の方の選択肢の場合には、「その理由」、「具体的に」、等の内容の報告を求められるような形式となっている。
 これらを総合すると、本件調査は、形式的には学校長の判断によって記載、回答するものとなっているが、現実的には、県教委が望ましいと考えている方式の国旗掲揚・国歌斉唱のやり方を、学校長に強く求める機能を果たし、また、そのやり方に反する行動をとった参加者について県教委に報告を求める機能を果していると評価せざるをえない。
 その結果、各学校長は、日の丸、君が代に敬意を表することが自分の思想及び良心に反すると考える生徒や保護者に対しても、それに対する配慮を全く欠いて、日の丸、君が代への敬意を事実上強制するような、画一的な形式による卒業式を挙行せざるをえない立場におかれることとなるおそれが大きくなったものと評価せざるをえないのである。それは、元校長が申立人への回答文書で記載しているように、「この改訂指導要領については、文部省から各地の都道府県の教育委員会に対して指導の徹底を図るように指導されています。こうしたことから、県立○○高校は設置者の神奈川県や県の教育委員会の指導に従う必要があります。……校長も先生方も教育公務員である以上、県の指示に従う義務があります。」との理解に示されているとおりである。
 なお以上の点についても、当会の平成12年3月17日付会長声明は、「ところが、現在神奈川県下において極めて憂慮すべき事態が進行している。(中略)神奈川県におけるこうした一連の事態は、『調査』『要望』の名のもとに、平成11年度卒業式、平成12年度入学式において、国旗掲揚・国歌斉唱を実質的に強制するものに他ならない。上記のような神奈川県下で進行している動きは、生徒・児童、父母、並びに教職員の思想・良心の自由を侵害する危険が極めて強いものであることを指摘せざるを得ない。」と、その人権侵害のおそれについて、指摘してきたところであった。

4 元校長の人権侵害行為について
(1)先述のように日の丸、君が代が思想及び良心の自由に関わる性格をもつものである以上、これに敬意を表する行為が生徒や保護者等の参加者に強制されてはならない。また上記のとおり、国旗国歌法の制定過程における政府答弁などからも、この法律制定により生徒や保護者に、日の丸の掲湯、君が代の斉唱が強制されるものでないことが明確にされている。
 従って、学校長には、卒業式や入学式等の学校行事において、日の丸の掲場、君が代の斉唱が強制にならないよう、事前の協議を十分に行ったり、当日の持ち方、実施方法の配慮をすることが求められる。
(2)生徒は、学校行事の持ち方としての日の丸の掲揚、君が代の斉唱について、子どもの権利条約12条の意見表明権を持ち、学校長としては、生徒の意見の表明に対しては、それを尊重するとともに、それを不利益に扱ってはならない。
(3)日の丸の掲揚、君が代の斉唱についての生徒や保護者等の意見や態度は、それぞれにとっての思想及び良心の内容をなすものであり、その内容を県教委に報告することはもとより、調査をすること自体が、憲法19条の保障する人の内面的精神的活動としての思想及び良心の自由の侵害行為に該当する。
(4)元校長の本件回答書への「2年生男子生徒に過激な発言をする生徒がおり、説得に時間を要した。(校長室に呼んで生徒の意見を十分に聞いて3年生のための卒業式への協力を求め納得させた。)」との記載は、上記日の丸の掲揚、君が代の斉唱についての申立人の意見表明や態度、即ち申立人の思想及び良心の内容について、過激と評価し、否定的な事例として県教委に報告しているものであって、憲法19条の定める思想及び良心の自由を不当に侵害する行為であるとともに、子どもの権利条約12条の「子どもの意見表明の権利」をも不当に侵害する行為として、人権侵害行為に該当するものである。
(5)なお、本件回答書中の上記記載については、その後個人情報保護審査会の答申をもとに削除されたが、そのことによって、一旦県教委に報告され、侵

害された申立人の人権侵害が完全に救済された訳でもなく、そのためにはさ
  らに元校長自身によって回復措置が講じられる必要がある。
  よって、元校長に対しては、当会の上記判断を踏まえて、思想及び良心の
 自由並びに子どもの意見表明権を尊重すべき観点から改めて本件回答書への
 記載の問題点について検討し、その結果を申立人に説明するよう、勧告する
  のが相当である。

5 県教委の人権侵害行為について
(1)上記のとおり、平成11年度卒業式についての国旗・国歌に関する本件調査は、現実的には、県教委が望ましいと考えている方式の国旗掲揚・国歌斉唱のやり方を学校長に求め、そのやり方に反する行動をとった参加者について県教委に報告を求める機能を果たし、その結果、学校長をして、日の丸、君が代に敬意を表することが自分の思想及び良心に反すると考える生徒や保護者に対しても、これに対する配慮を全く欠いて、日の丸、君が代への敬意の表明を事実上強制するような、画一的な形式による卒業式等の挙行をせざるをえなくさせる機能を果たしている。
(2)そして元校長が本件回答書に申立人の思想及び良心の自由を侵害する記載をしたのも、県教委の本件調査による上記要請に忠実に答えようとした結果であることは、否定できない。従って、県教委がこのような本件調査を実施したこと自体が、元校長による申立人の意見表明権、思想及び良心の自由の侵害の原因となっていることは、否定することができない。そしてそれは、本件調査の内容が、国旗国歌法の政府答弁を超えて、日の丸、君が代に敬意を表することが自分の思想及び良心に反すると考える生徒や保護者をも含めて、その敬意の表明を事実上強制するような、画一的な形式による卒業式等の挙行を求める内容となってしまっていることから生ずるものであると評価される。
(3)すなわちその調査内容は、
@ 卒業式等における生徒や保護者の国旗・国歌に対する態度の報告を県教委に求め、さらにその内容が文部科学省にも報告されるおそれを生ずることによって、生徒や保護者の思想及び良心の自由、意思表明権を直接的に侵害するおそれを生じさせているとともに、
A 事前の「入学式及び卒業式における国旗の掲揚及び国歌の斉唱の指導の徹底について(通知)」という教育長通知と相まって、学校長に、日の丸、君が代への敬意の表明を事実上強制するような、画一的な形式による卒業式等の挙行を求めるものであって、生徒や保護者の日の丸、君が代に対する思想及び良心の自由、意見表明権を間接的に侵害するおそれを生じさせるものとなっている。
(4) ところで、上記「国旗・国歌に関する調査」は、現在も実施されているが、平成15年3月に行われた「平成14年度卒業式における国旗掲揚・国歌斉唱状況調査」からは別紙2の様式の回答用紙が用いられ、別紙1の様式の「(3)ア(ウ)c 一部起立しなかった(しなかった参列者:a生徒 b教職員)」という欄、W・X等の「式典当日、式場などでトラブル等、何かありましたか。」、Yの「その他、何かあったらお書きください。」の欄等は削除されている。
 しかしながら、別紙2の様式は依然として、回答項目の選択肢につき、国旗掲揚「ア 掲揚した イ 掲揚しなかった(理由:  )」とされ、さらにその掲揚の仕方も、こと細かに、前の方の選択妓が望ましいというように受け取られるような記載の仕方をしている。国歌についても同様である。
 また後の方の選択肢の場合には、その理由、具体的に、等の内容の報告を求められるような形式となっており、現実的には、県教委が望ましいと考えている方式の国旗掲揚・国歌斉唱のやり方を、学校長に強く求める機能を果たしていると評価せざるをえない。
 従って学校長に、日の丸、君が代への敬意の表明を事実上強制するような、画一的な形式による卒業式等の挙行を求めるものであって、生徒や保護者の日の丸、君が代に対する思想及び良心の自由、意見表明権を間接的に侵害するおそれを生じさせるものとなっていることは変わっておらず、そのおそれは現在も継続している。そして近時、卒業式・入学式等での日の丸、君が代をめぐって、生徒の態度をも含めて学校長や教員の責任を問い、指導強化や処分による強制が現に多発している国内状況のもとで、そのおそれは一層高くなっていると評価せざるをえない。
(5)従って、県教委は、思想及び良心の自由、子どもの意見表明権の侵害の原因となる別紙1や別紙2のような調査は、これを中止すべきである。
 その上で県教委は、卒業式や入学式等の学校行事の実施に当たっては、日の丸、君が代に敬意を表することが自分の思想及び良心に反すると考える生徒や保護者がいることを前提に、その思想及び良心の自由や子どもの意見表明権を侵害しないような実施方法をとるよう、県内の各学校ないし学校長に対して通知、指導すべきである。その場合、本件でも卒業式の前日に一方的た国旗掲揚・国歌斉唱の実施を元校長が通告したことがトラブルの一因となっていることにみられるように、本件のことがらの性質上、事前に生徒や保護者の意見表明の機会を確保し、必要な協議を尽くすことが、その人権の尊重にとって、また人権を侵害しない方法による式典の挙行にとって、必要かつ有効であると考えられる。
(6)よって、県教委に対しては、今後本件のような思想及び良心の自由並びに子どもの意見表明権の侵害を発生させることのないよう、
@ 卒業式、入学式等の学校行事の実施に関し、国旗掲揚・国歌斉唱の実施状況について、特定の方法を提示したり、生徒や保護者の態度の報告を求めるなど、その具体的内容に立ち入る方法による調査を行わないこと
A 日の丸、君が代に敬意を表することが自分の思想及び良心に反すると考える生徒や保護者の思想及び良心の自由、意見表明権を侵害しないよう、卒業式、入学式等の学校行事の実施については、事前に生徒や保護者との協議を尽くし、その意見を尊重し、式典においても、これらの思想及び良心の自由を尊重した挙行の方法をとるよう、県内の学校へ通知、指導することの各措置をとるよう勧告するのが相当である。

第6 結 論
 よって第1のとおり勧告を行うのが相当であるとの結論に達したので、報告する。


【県教委の国旗掲揚・国歌斉唱状況調査】

(別紙2)
         平成14年度卒業式における国旗掲揚・国歌斉唱状況調査

県立 学校(全・定・通) 校長名

・式典の日時:3月  日   時  分〜  時  分 ・式典の会場:(体育館・その他〈  〉

 ※ 選択肢に○印をお願いします。
I 「国旗の掲揚」に関してお答えください。
(1)国旗を掲揚しましたか。
   ア 掲揚した  イ.掲揚しなかった(理由: )

※ 回答がアの場合は、次の(2)・(3)にも回答をお願いします。
(2)国旗を掲揚した場所はどこですか。(複数回答可)
  ア 式場
    (a ステージ正面壁面 b 三脚(ステーシや正面・フロア正面・その他 )
  イ ポール  ウ 玄関  工 校門   オ その他(

(3)誰が掲揚しましたか。(複数回答可)
  ア 教頭  イ 事務長  ウ 教員  オ その他( )

U 「国歌の斉唱」について、次の1・2、のいずれかを○で囲んでいただき、そのいずれの場合も、3にお答えください。 なお、1と回答した場合は(1)〜(3)にも回答してください。
1 斉唱した。
(1) いつ斉唱しましたか。
  ア 式次第の中。
  イ 開式直前(生徒が式場に全員集合した状態)。
(2)誰が斉唱を呼びかけましたか。
  ア 教頭  イ 事務長  ウ 教員  エ その他(          )
(3)斉唱時に起立を求めましたか。
   ア 起立を求め「斉唱」を行った。
   イ 「斉唱」前から起立していたので、求めなかった。
   ウ 座った状態から、起立を求めず「斉唱」を行った。
2 斉唱しなかった。
3 上記1・2において、国歌のメロディーを流しましたか。
 ア なにも流さなかった。       
 イ テープ・CDで「歌詞入り」を流した。
 ウ テープ・CDで「メロディーのみ」を流した。
 エ その他(「ブラスバンドの演奏」等、具体的に: )

V 卒業式(学校主体の儀式的行事)の形式について、お答えください。
   ア ステージ    イ フロア

                             *HP掲載において、多少書式を変えています。

                              もどる