その他の作曲家シリーズ@

追悼ジェームズ・バーナード(1925〜2001)の
ドラキュラ」音


 

2001年7月12日、ロンドンにて作曲家ジェームズ・バーナードが75歳で死去した。英国では「ジョーズ」のジョン・ウィリアムス、「サイコ」のバーナード・ハーマンと並んで「ドラキュラ」のジェームズ・バーナードとして並び称される存在であった。特に彼は、ホラーやSFで知られるハマープロでの仕事が名高い。中でも怪優クリストファー・リー演ずるドラキュラ・シリーズの音楽は、シリーズ全体のイメージを決定づけたといってもいい。日本で「ゴジラ」といえば伊福部昭の名が連想されるのと同様、英国で「ドラキュラ」といえば、このバーナードの名が連想されるほど。日本でも、30年程前にはよくTVでハマーのドラキュラ・シリーズが放映されていたので、あの独特の音楽を記憶されている方もいるのではないだろうか。全9作あるドラキュラ・シリーズで彼が音楽を担当したのは6作。そのうち彼本人が最も気に入っているのが、「ドラキュラ/血の味」と「ドラキュラ復活/血のエクソチズム」の2作品であるとインタビューで答えている。第1作「吸血鬼ドラキュラ」で確立されたドラキュラのモチーフが、ここでも効果的に使用されている。ホラー・ムード満点の作風の中でも「愛のテーマ」が重要なポイントを占めているというのが、この両作品を特別に気に入っている理由だという。それだけに全曲のサントラがリリースされているのもこの2作品のみ。
 バーナードの純音楽作品として優れているのは、1964年の「吸血鬼の接吻」の音楽であろう。ここではピアノが効果的に使用されており、まるでピアノ協奏曲を思わせる。また劇中での仮面舞踏会の場面で使用されるウィーン風のワルツとポルカは特に印象に残る音楽である。そのため、この一連の音楽は、1987年には「吸血鬼狂詩曲」という一つのコンサート用組曲として編曲されている(ハマープロの音楽監督兼指揮者のジョン・ホリングワース曰く「キバ協奏曲」)。ちなみにハマーでの作曲家は他にはハンフリー・サールやマルコム・アーノルドらがいる。
 ハマープロは、音楽のバーナードのほか、美術のバーナード・ロビンソン、脚本のジミー・サングスター、撮影のジミー・アッシャーといった優れたスタッフに恵まれていたため、古城や田園風景など非常に映像効果の印象的な作品が多く、それら独特の映像の美しさはハマー・カラーと呼ばれている。それがハマー・ホラーが、単なるエログロなホラー映画に成り下がるのを食い止めている。
 バーナードは1925年9月29日に生れる。ウェリントン・カレッジを卒業後、あるコンクールに参加したところ、そのコンクールの審査員の一人であったブリテンと出会う。ブリテンはバーナードの作品に感銘を受け激励を与えている。第二次大戦では、英国空軍に入隊、作曲活動は一時中断するが、従軍中に後にハマーで共に仕事をすることになるジョン・ホリングワースに出会う。終戦後、ブリテンのアドバイスにより国立音楽学校に入校、ハーバート・ハウェルズの教えを受ける。卒業後はブリテンの助手を務める。そして、BBCからの依頼により芝居や映画のための作曲を行うようになる。そして、1955年ハマー・プロでの初仕事「原子人間」で成功を収め、その後「フランケンシュタイン」シリーズや「ドラキュラ」シリーズなど多くの作品を手掛ける。
 バーナード最後の映画音楽作品は1997年の「ノスフェラトゥ/恐怖の交響曲」となってしまった。これは1998年にフィリップ・グラスが映画「魔人ドラキュラ」に音楽をつけたのと同趣向で、1922年の古典的名作「ノスフェラトゥ」の伴奏音楽(つまりバーナードの方が先なのにグラスの方が有名)。彼が没した2001年はノスフェラトゥに関する映画が公開され、ウォルフガング・ミッテラーが同名のオルガン曲をウィーンにて世界初演を行った。そんな中吸血鬼音楽の第一人者である彼の名がもう少し周知されるチャンスだっただけに彼の死は何とも残念。音楽雑誌で彼の追悼特集も組まれることもなかったので、せめても追悼特集をここで組んでみた。



バーナード作品リスト

[1955]
The Quatermass Xperiment(原子人間)
[1956]
X The Unknown(怪獣ウラン)
Pacific Destiny
[1957]
Quatermass 2(宇宙からの侵略生物)
The Curse of Frankenstein(フランケンシュタインの逆襲)
Across the Bridge
Windom's Way

[1958]
Dracula(吸血鬼ドラキュラ)
Nor the Moon by Night
[1959]
The Hound of the Baskervilles(バスカヴィル家の犬)
The Stranglers of Bombay(ボンベイの虐殺者/陰母神カーリ)

[1961]
The Terror of the Tongs(トンの恐怖)
[1963]
The Damned(呪われた者)
[1964]
The Kiss of the Vampire(吸血鬼の接吻)
The Gorgon(妖女ゴーゴン)

[1965]
The Secret of Blood Island
She(炎の女)

[1966]
Dracula Prince of Darkness(凶人ドラキュラ)
The Plague of the Zombies(吸血ゾンビ)

[1967]
Frankenstein Created Woman(フランケンシュタイン死美人の復讐)
Torture Garden
(with Don Banks)

[1968]
The Devil Rides Out(悪魔の出現)
Dracula Has Risen From the Grave(帰って来たドラキュラ)

[1969]
Frankenstein Must Be Destroyed(フランケンシュタイン恐怖の生体実験)
[1970]
Taste the Blood of Dracula(ドラキュラ/血の味)
Scars of Dracula(ドラキュラ復活/血のエクソチズム)

[1974]
Frankenstein and the Monster From Hell(フランケンシュタインと地獄の怪物)
The Legend of the 7 Golden Vampires(ドラゴン対7人の吸血鬼)

Hammer House of Horror
[1980]
Witching Time
The House That Bled To Death

[1985]
Murder Elite
[1997]
Nosferatu A Symphony of Horror(ノスフェラトゥ/恐怖の交響曲)

[2001]
Vampire Hunter




ディスク紹介

バーナードのハマープロ・ドラキュラ・シリーズ
Hammer present
Dracula
Chrsitopher Lee
クリストファー・リーとビル・ミッチェルのナレーションによるドラマ形式。「ドラキュラ/血の味」「ドラキュラ復活/血のエクソチズム」の音楽をベースに編曲し、フィリップ・マーテルの指揮による演奏。併録は「Fear In the Night」「She」「Vampire Lovers」「Doctor Jekyll and Sister Hyde」。
Music from the Hammer Films
Dracula Suiteとして「吸血鬼ドラキュラ」と「凶人ドラキュラ」から編曲。さらに「帰って来たドラキュラ」と「ドラキュラ/血の味」からの組曲も収録。併録は「Hands of Ripper」「Vampire Circus」。オリジナルサントラでなくスタジオにての新録音。リチャードソン指揮のフィルハーモニア管の演奏。簡単なユニゾンのパッセージなのにアンサンブルが乱れており、聴きなれたフィルハーモニアの演奏とは随分違う印象。リチャードソンの指揮が悪いのか、オケの練習不足なのか、単に映画音楽なので軽く見ているのかは不明。実は、このCDは1度ジャケット・デザインが変更になっている。これは2度目のもの。1度目は「凶人ドラキュラ」のポスターなどでよく見られるデザインが使われていた。更にこの組曲はジャケットばかりでなく、併録曲を変えて度々収録されている。Horror of Draculaと題したアルバムは、上記のHammer Draculaと組み合わせられたハイブリッド盤だが、変にカットされてしまった。
Hammer the Studio that Dripped Blood
上記のドラキュラ組曲をはじめスタジオで新たに録音された曲を組み合わせたベストレセレクション的性格の2枚組。ドラキュラ組曲はティンパニなどが編集によって加えられている。「ドラキュラ復活/血のエクソチズム」から愛のテーマ、「悪魔の出現」、「炎の女」など新録音も多い。さらにはハンフリー・サールの「恐怖の雪男」、ベンジャミン・フランケルの「吸血狼男」組曲までも収録。バーナード生涯最後の作品「バンパイア・ハンター」やバーナードの葬儀の際に流されたという「悪魔の出現」からAwaiking and Absolutionまでもが収めれている、正にジェームズ・バーナードへのオマージュといった内容となっている。
Taste the Blood of Dracula
(ドラキュラ/血の味)
「ドラキュラ/血の味」の全曲サントラ盤。本編未収録曲を含む。メインタイトルにも使われた「愛のテーマ」が全体を調和させている。このテーマが規模を変えて繰り返し現れる。最初に長調で美しく響いていたテーマが、転調することにより段々と暗い曲調になったかと思うと突然ドラキュラのモチーフが現れる部分など、雰囲気が良く出ている。バーナードお気に入りの曲だという。ドラキュラ復活のシーンのモチーフは後に「ドラゴン対7人の吸血鬼」でも流用されている。
Scars of Dracula
(ドラキュラ復活/血のエクソチズム)
「ドラキュラ復活/血のエクソチズム」の全曲サントラ盤。バーナードによるドラキュラ・シリーズ最も美しい音楽の一つであろう。「血の味」同様、愛のテーマが印象的で美しい。またゴシック風のイメージがよく表れている。
Hammer Vampire Music
(ドラゴン対7人の吸血鬼、吸血鬼の接吻、吸血鬼サーカス団、恐怖の吸血美女)
バーナードによるハマードラキュラシリーズ最後の作品となった「ドラゴン対7人の吸血鬼」。ドラキュラ役がリーから、J・F・ロバートソンに代っているが、第1作目に確立されたドラキュラのモチーフも健在である。「血の味」からの引用に頼っている面もあるが、東洋風の音階を駆使したりと意欲的な一面もあり。併録の「吸血鬼の接吻」はピアノ協奏曲風で純音楽的に精度が高い。また、ウィーン風のワルツとポルカも楽しい。後に演奏会用組曲として編曲されている。バーナードに次いで純音楽的に注目されるべきハリー・ロビンソンの「恐怖の吸血美女」も注目。最後に出てくるラテン語による「Kyrie Eleison」と歌われるミサ曲風の音楽は迫力満点。
Hammer Film Music Collection 1
1. Devil Rides Out
2. Twins of Evil - Harry Robinson
3. Mummy
4. Captain Kronos Vampire Hunter
5. Dracula
6. Moon Zero Two
7. Frankenstein Must Be Destroyed
8. When Dinosaurs Ruled the Earth - Mario Nascimbene
9. Kiss of the Vampire
10. Gorgon
11. Scars of Dracula
12. Hands of the Ripper
13. Curse of the Mummy's Tomb - Carlo Martelli
14. Vampire Lovers - Harry Robinson
15. Creatures the World Forgot - Mario Nascimbene
16. Curse of Frankenstein
17. Dr. Jekyll and Sister Hyde
18. Lust for a Vampire - Harry Robinson
19. Quartermass and the Pit - Tristram Cary
20. Countless Dracula - Harry Robinson
21. She
22. Brides of Dracula
23. Blood from the Mummy's Tomb - Tristram Cary
24. Legend of the 7 Golden Vampires
25. Taste the Blood of Dracula
Hammer Film Music Collection 2
1. The Satanic Rites of Dracula
2. Demons of the Mind
3. The Mummy's Shroud
4. Frankenstein and the Monster From Hell
5. Dracula Has Risen From The Grave
6. The Witches
7. The Vengeance of She
8. The Evil of Frankenstein
9. The Plague of the Zombies
10. Fear in the Night
11. Frankenstein Created Woman
12. The Pirates of Blood River
13. To the Devil a Daughter
14. Quatermass 2
15. The Curse of the Werewolf
16. The Abominable Snowman
17. Dracula A.D. 1972
18. The Hound of the Baskervilles
19. Vampire Circus
20. The Lost Continent
21. Slave Girls
22. The Phantom of the Opera
23. Crescendo
24. Rasputin the Mad Monk
25. One Million Years B.C.
Themes from Horror Movies
(ユニヴァーサル怪奇映画大集合)
バーナードの作品が日本国内盤で発売されたのは、これが唯一と思われる。邦題は「ユニヴァーサル怪奇映画大集合」となっているが、ハマープロの「吸血鬼ドラキュラ」からも2曲収録されている。ディック・ジェイコブスの軽音楽風の演奏には、いささか拍子抜け。なお国内盤ジャケットは多少デザインが異なっている。
バーナードのドラキュラ以外のハマープロ作品
Quatermass(原子人間)
バーナードの出世作となった「原子人間」シリーズの音楽。
Frankenstein
ドラキュラ・シリーズと並んでハマーのドル箱シリーズとなったフランキュシュタインの音楽を集めた1枚。
The Devil Rides Out
(悪魔の出現)
クリストファー・リー主演の「悪魔の出現」または「悪魔の花嫁」。
She/The Vengeance of She
(炎の女/燃える洞窟)
ハガードの小説の映画化作品。バーナードの作り出したメロディの中でも最も美しい音楽の一つであろう。バーナード自身も思い出深い仕事の一つとして、この作品を上げており、このように述べている。「この作品をてがけることができて幸せだ。この作品には恋愛、冒険、魔法、恐怖、それにアフリカやアラビアの音楽が盛り込まれている」
ハマープロ以外のバーナード作品
Nosferatu Symphony of Horror
(ノスフェラトゥ)

CD&DVD
1922年製作ムルナウ監督の「ノスフェラトゥ」にバーナードが新たに音楽を付けたもので、これがバーナード最後の作品となった。グラス&魔人ドラキュラより完成度が高いと思う。
YouTubeにアップされている動画
番外編
Il Conte Dracula
(ドラキュラ/吸血のデアボリカ)
イタリアで製作されたクリストファー・リー主演のドラキュラ映画の音楽。ブルーノ・ニコライ作曲。実際の映画のオープニングに使用された曲はなぜか収録されていない。オペラハウスのシーンで使われた曲が美しい。
Dracula by Philip Glass
(魔人ドラキュラ)
フィリップ・グラスがユニバーサル映画「魔人ドラキュラ」に音楽をつけたもの。クロノス・カルテットによる演奏。趣向としては、バーナード&ノスフェラトゥの2番煎じなのに、グラスとバーナードの知名度の差で、こちらばかりが話題になっていた。


                     ノスフェラトゥ映像(YouTubeより)

            


              Opening Scene from the new Dracula/Punisher Project
          


バーナードのインタビュー
 http://www.hammerfilms.com/features/interviews/james_bernard.html


 ハマーフィルムの映像の国内盤DVDに関するサイト


 「素晴らしき映画音楽作曲家たち」のハマーフィルムの映画音楽


 夢人塔・・・・ハマー作品やファンタジー映画の情報満載


 阿鼻叫喚パニックシティ・・・・クリストファー・リーやモンティパイソンの話題あり




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