ここでは、外国為替に関する解説書や外国為替に携わっている人たちが著述した古今の 書籍を、筆者の書評を添えて紹介します。 ただし、筆者の評価や書評は、あくまで一読者の個人的な意見であって、むやみにその 購入を勧誘するものでも、その内容を誹謗・中傷するものでもありませんので、 あらかじめご了承ください。 (評価について)
NO.15
タイトル
チャーリー中山の投資哲学と
堀内昭利の相場戦陣訓
総合評価
★★★★★
著者
チャーリー中山&堀内昭利
(責任編集:長尾数馬)
価格
★★★★★
適量度
★★★★★
出版社
(株)実業之日本社
役立つ度
★★★★★
読み物度
★★★★★
価格
1,900円(税抜き)
オリジナリティ
★★★★★
読みやすさ
★★★★★
読んだ版
2010年6月発行初版
今どき度
★★★★★
長寿度
★★★★★
総評この本は、"伝説のディーラー"(昨今、巷にあふれる似非カリスマディーラーではない。正真正銘の伝説的ディーラーである)として語り継がれるチャーリー中山氏(中山茂氏)とかつてここで紹介した書籍「市場の神々」の著者である堀内昭利氏が、外国為替市場や相場に立ち向かう上での姿勢や心構えについて、各々の意見を述べ、これを長尾数馬氏が編集したものである。 したがって、この本は、タイトルどおり、チャーリー中山氏の著した部分と堀内昭利氏の著した分との2部構成になっており、前半がチャーリー中山氏、後半が堀内昭利氏となっている。このため、この書評もこの前半部分と後半部分に分けて述べることにする。
「チャーリー中山の投資哲学」について
読んでいてまず思ったのは、"痛快"というイメージである。長年の経験と実績による自信がそうさせるのか、「だろう」とか「〜と思う」といった表現は一切なく、すべて「〜だ」と断言している。そこに自己のコメントについての弱気や不信といったものは微塵もないことが、文面からもひしひしと伝わってくる。
特に、痛快なのは、昨今のFX取引(外国為替証拠金取引)でコメントや講演などを行っている元銀行トレーダーが全部偽物と切って捨てた記述と米国銀行の実状を記した部分である。FX取引に関わる元銀行トレーダーについて、NだのOだのWといったイニシャル付きで、いずれもその無能ぶりや実績のなさが書かれているが、私などはそのイニシャルから、ほとんどの実名がわかるため、改たな「発見」や「やっぱりそうか」と納得させられることもあり、大変おもしろく読ませていただいた。
米国銀行の実状の部分も、いわゆるリーマン・ショックを引き起こした米国投資銀行がいかにロクでもないことをやっていたかが大変よくわかる。複雑なデリバティブについても、とても簡単な(ちょっと下品?)表現で解説されており、金融に詳しくない人が読んでも、そのあくどさがよくわかる。
これに代表されるように、全般にわたって専門的な数式などはなく、専門用語の過剰な使用もないため、極めて読みやすい。多少の専門用語も編者の長尾氏の解説が各ページの下部に掲載されているので、特に問題なく読み進めることができる。さらに、重要と思われる文章は太字表記されており、著者の考え方がよくわかる記載となっている。
チャーリー中山氏の投資哲学は、多少なりとも外国為替取引の経験があれば、ほとんどは「まったくその通り」と頷くことばかりである。
ただ、テクニカル分析をメインとする当サイトにとって、「チャートは重要視しない。テクニカルでは多くを儲けられない」と言われるのは少々残念だが、著者が自身で記録している相場表を見ているとの記載を見て安心した。自身で相場を記録してこれを見ることは、テクニカル分析の第1歩だからである。(他人が作ったチャートを見るのではなく、自分で記録することに意義があるのだ。)
もっと驚いたのは、「ストップロス・オーダーを出すようでは勝てない」というものである。外国為替取引を含め、およそ相場取引を行う上で、ストップロス(損切り)が重要というのは、半ば常識のように語られており、これを真っ向から否定しているのだ。しかし、よく読んでみると、投資哲学として記載されている「相場を張る上で、一番大切なことは、自分の弱さとの闘い」という考え方が、ほぼ全編にわたって貫かれており、ストップロスが「保身」という自己の弱さにつながることというのがわかってくる。
著者の言う「投資哲学」というのは、この本に度々記載されているように、「自分との闘い」で、他人や道具に頼らず、ただ己の「闘志」だけが頼りということだろう。
「堀内昭利の相場戦陣訓」について
チャーリー中山氏の「相場哲学」が、どちらかというと取引する上での心構えというか、「為替ディーラーたる者、かくあるべし」というような印象を受けるのに対し、こちらはもっと実務的で、外国為替相場取引で利益を上げようとするならば、投資額やレバレッジはこれくらいにすべき、といったような枠組みや体制などを記しており、外国為替取引を行う上での指南書のような内容である。
チャーリー中山氏が否定しているロスカットについても記載があり、書籍の構成としては、前半・後半で矛盾している印象を受けるが、これも編者の長尾氏がページ下部で解説を加えている。
巷間に溢れているFX(外国為替証拠金取引)関連の書籍が、いかにも儲かるような記載でいたずらに取引を煽り、中には一部業者の宣伝に過ぎないようなものまである中で、この堀内氏の「戦陣訓」は、かなり現実的である。とりわけ第2章に書かれている堀内氏のメモから抜粋した5つのポイント、第3章に記載されている堀内氏の13個の取引手法アドバイスは、例えばレバレッジなど各種設定について、推奨レベルなどを記載しているのだが、なぜそれが適正レベルなのかの説明も記載されており、説得力がある。
また、テクニカル分析についても、利用するのは2種類程度で十分であり、コロコロ分析手法を変えないというのも、まったく同感である。当サイトでも移動平均線とRSIの2種類のみで分析しているが、何種類もの分析を使用すると、異なる分析結果がいくつも出てきて、結局迷うだけだし、多くの分析手法を駆使すると、分析自体に時間がかかりすぎ、変化の激しい市場の動きについていけないからである。著者もこの点も見事に指摘している。
両著者の著述に共通するのは、各々が著述した第1章のタイトルに掲げている「相場に王道なし」ということである。両者が相場哲学として掲げていることは、実は昔から相場の世界で言われていることに共通しているようにも思える。やはり、「相場に必勝法などなく、経験と弛まぬ研究を通じて、自ら取引手法を編み出すしかない。頼りになるのは己一人だ」ということであろう。
また、両者共に、FXの拡大で外国為替取引の裾野が広がったことを評価しており、外国為替取引が、他の金融取引に比べてフェアであり、情報通信技術の発達で、個人と金融機関との間の情報格差が縮まったこともあって、かつては金融機関で働くディーラー達の特殊な世界だった外国為替取引が、一般の個人も参加できるようになったことに意義を見出している。さらに、取引人口が増えれば、それだけ優秀なディーラーが現れる可能性も高まることを指摘しており、現状のFX取引のあり方に批判的ではあるものの、決して悲観的ではなく、読者にも希望を抱かせる内容となっている。
相場取引を釣りに例えた格言に「初心者は魚を欲しがり、経験者は釣り方を知りたがる。だが、熟練者は名人の心を求める。」というのがあり、「初心者はすぐに儲かる銘柄や投資対象を知りたがり、経験者は取引手法やノウハウを知りたがるが、熟練者は平常心など取引する上で必要な心構えを欲する」という意味である。
巷には、あたかも手っ取り早く儲けられるかのように初心者を煽り、経験者を惑わせるだけのハウツー本が溢れる中にあって、この本は、外国為替市場における真の「名人」である著者2人が、外国為替市場に立ち向かう人々に向けて、「名人の心と姿勢」を記した正に必読の書であろう。