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 ここでは、外国為替に関する解説書や外国為替に携わっている人たちが著述した古今の
書籍を、筆者の書評を添えて紹介します。
 ただし、筆者の評価や書評は、あくまで一読者の個人的な意見であって、むやみにその
購入を勧誘するものでも、その内容を誹謗・中傷するものでもありませんので、
あらかじめご了承ください。           (評価について)

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NO.9

タイトル

為替がわかれば世界がわかる

総合評価

★★★

著者

榊原 英資

価格

★★★★

適量度

★★★★

出版社

文芸春秋

役立つ度

★★

読み物度

★★★★

価格

1,200円(税抜き)

オリジナリティ

★★★

読みやすさ

★★★★★

読んだ版

2002年12月発行初版

今どき度

★★★

長寿度

★★


総評

 この本は、1995〜1997年まで大蔵省(現財務省)国際金融局長を務め、外国為替市場への効果的な介入で、1$=80円台という史上最安値圏にあったドル・円相場を1%$=120円台まで回復させ、その後大蔵省財務官も務め、国際金融市場でも「ミスター円」の異名もとった著者が、その経験を基に、介入はもちろん当時の外国為替市場の実話と共に、そこから得た今後の日本のあり方まで言及したものである。

 筆者も、当時その介入で大きく相場が動くのを見たこともあり、どのような内容かを期待して読ませていただいた。

 さすがに、外国為替市場で実際に介入を指揮した人物の著書だけあって、その裏にあった様々な駆け引き・作戦といったものが紹介されており、なぜあれほどまでに市場にインパクトを与えられたかが、非常によくわかる。また、それまでの介入は多額の資金を使ってたいした効果が得られなかったのだが、著者の介入は、比較的少額で大きな効果を上げており、いかに効率的であったかも実証されている。

 また、ルービン元米国財務長官、あのジョージ・ソロスの人物像についても、実際の会談を元に描写していることから、他の同様の書籍よりも真に迫っている感もある。

 さらに、著者は、この本の中で外国為替を中心に国際金融市場に参加していくことに関して、様々なアドバイスや提言を行っており、このような経験や著名人との交流から得たものであるということもあって、かなりの説得力がある。しかも、目先の利益を追うためのノウハウ本ではなく、国際金融市場の体制やその参加者の姿を示しつつ、その中で戦い、生き残っていくには何が必要かという大局的な観点での提言を行っていることが、他の同様の書籍と一線を画している。

 ただ、残念なことに、著者のそのような経験を例として上げながら説明しているせいもあって、単に90年代後半に外国為替市場で起きた事件の内幕を明らかにし、外国為替市場の参加者たちの行動スタイルを紹介したり、著者の活躍ぶりを示しているに過ぎないとの印象も拭いきれない。

 しかしながら、著者はこうした経験や著名人との交流を通じて、国際金融市場における情報収集とその選別、情報管理の重要性を述べており、このことは金融の世界のみならず、ネットワークの拡大で情報化の進んだ今日の社会のあらゆる分野、企業・個人といった様々なレベルでも相通じる所があることを感じるのである。

 この本を読んで印象に残るのは、著者が、IMFが新古典派経済学の枠組みの中に囚われており、各地域の実状にそぐわない画一的で硬直的な経済政策を押しつけ、決して失敗を認めない「究極の官僚組織」として非難していること、および日本人が平和ボケで情報の価値とその管理の重要性に疎くなっており、いわゆる記者クラブという組織が一種の情報カルテルと化し、情報収集のための競争が希薄なだけでなく、取材対象となる組織のインサイダーとなって、機密保持が困難になっていると批判していることである。後者の方は、筆者が最近の日本のマスメディアがともすれば、いたずらにセンセーショナルな報道のやり方で事件等を煽り、時には自らの報道が金融市場や世間の行動を促したかのように振る舞っているようにも見られる反面、真実の追求といったジャーナリズムとしての視点が欠けているのではと感じてきていることもあって、特に印象深かった。

 この本は、外国為替市場を中心とした国際金融市場での取引は、いわゆる情報戦争であって、その収集・管理の重要性について、自らの経験と人的交流を通じて説いたものであるが、金融業界のみならず、情報という観点から、現在の政治・経済に対して今後不可欠ともいうべき提言を述べた書と言えるだろう。