Fuimei's Report アラブ人と結婚するための九つのステップ
あなたの目の前を慎ましくヴェールをまとった美しい女性が歩いていきます。

あなたは思います。「ああ、この娘と結婚したい。しかし、いったいどうすればいいのだろう。」

*  *  *

あるいは、あなたは川岸で日に焼けた好青年を見かけてこう思います。

「ああ、この青年と結婚したい。しかし、いったいどうすればいいの?」

…というときにお役立ち?のレポートです。

ラブといっても地域や時代によって結婚のプロセスもさまざまです。今回は1920年代のパレスチナ、ベイトゥ・ダジャンという村のケースを見ていきたいと思います。ベイトゥ・ダジャンはパレスチナの中ほど、ジャッファ近郊にあるスンナ派ムスリムの村です。

恣意的な(というか、他に資料がなかったゆえの)年代・村の選択ではありますが、他の地域や時代との共通項も見つかるはずです。では、さっそくステップを大公開。

アラブ人と結婚するための九つのステップ

ステップ @ ―婚資と贈り物の交渉―
ステップ A ―婚約の儀式―
ステップ B ―花嫁の持参品―
ステップ C ―キスワパーティ―
ステップ D ―花嫁のエステ―
ステップ E ―ヘンナパーティ―
ステップ F ―とうとう結婚の日―
ステップ G ―お床入りから新婚祝いへ―
ステップ H ―新妻の井戸端デビュ―




ステップ @ ―婚資と贈り物の交渉(tulbeh)―


まず、花婿となる男性(またはその父親)は、婚資(fayd)をいくらにするか、花嫁や親戚への贈り物(kisweh)をどのくらい用意するかなどを、花嫁となる女性の父親や保護者と相談しなければなりません。この話し合いに、花嫁が参加することはありません。


贈り物の内容について、花婿はたいてい、花嫁の父にこう提案します。

 「他の人の慣例に従いましょうか。それとも一点一点話し合いましょうか?」

普通の父親であれば、慣例に従うことに賛成します。そこで、花婿は村で最近結婚した人に、贈り物として何をそろえたかを尋ねます。それはだいたい、こんな感じになるはずです。

 贈り物(kisweh)の内容例

 1.花嫁への贈り物
  ・ベツレヘム・スタイルのドレス 三着 
  ・黒いクレープ地に赤い刺繍がはいったヴェール 一枚
  ・シリア絹の腰帯 二本
  ・赤いクレープ地のヴェール 一枚
  ・白い肌着 一着
   (以上、素材となる布地を花嫁に贈ります)

  ・刺繍入りの白いドレス 一着
   (花婿の親戚の女性たちが刺繍をしたもの)

 
2.花嫁の母親への贈り物
 
 ・ベツレヘム・スタイルのドレス 一着

 3.花嫁の母方のおじへの贈り物
  ・絹地の長袖コート 一着

ベツレヘム・スタイル
母方のおじさんというのは母親の兄弟の中でも、一番大きい兄のこと。

このおじさんは、結婚式の次の朝に真っ先に二人にプレゼントをあげるんだ。将来、姪夫婦に対して何かと責任を持つんだって。




ステップ A ―婚約の儀式(mlak)―


婚約式の朝、花婿の家族は、米と肉を持って花嫁の家へ行きます。そこでご馳走が用意され、両家の親族や他の村人を招いての盛大なパーティーが行われます(これにも花嫁自身は出席しません)。


パーティの前に、親族の代表者が婚資や贈り物の内容リストを持って花嫁のところに行き、彼女の合意を得ておきます。


婚約式当日、花嫁の父親、花婿、両家の親戚の男性数名、村のシャイフ(宗教権威者)が一同に会し、結婚契約書('aqd) を作成します。契約が完了すると、花婿は結婚に向けて大切に扱われます。

花婿の前で靴底を見せたり、手を叩いたりすると、花婿が初夜に不能になってしまう、と信じられています。


花婿の親類はそんなことが起こっては大変、と小さな男の子たちを家中に散らばらせ、こうした行為をわざとしている者がいないか見回らせます。


     



ステップ B ―花嫁の持参品―


花嫁は結婚の数ヶ月〜数年前から、嫁入りに持っていくする衣裳を作りはじめます。かかる費用は全部、花嫁の父親が支払います。では、花嫁の持参品リストを見てみましょう。

 持参品(jihaz)の内容例

  ・亜麻布のドレス(jilayeh) …1着

  ・刺繍のたっぷり入った白いドレス…1〜2着

  ・普段着用のドレス …たくさん

  ・普段着用の白いヴェール …たくさん

  ・ボンネット
semadeh …1つ 

  ・クッションカバー …たくさん 

  ・コホル入れ …1つ

  ・カーペットやマットレス

  ・花婿にあげるハンカチ …1つ

  ・アクセサリー …たくさん
ジラーヤは持参品として最重要なドレス。

スカートの前の部分に切り込みが入っていて、そこに赤、黄、緑のパッチワークがついています。
未婚女性はボンネットから、一本の帯を、既婚女性は二本の帯を垂らします。

そのため、二本の帯つきのボンネットは重要な持参品の一つ。




コホル入れ
コホルとは目のくま取りをするための、黒い化粧品です。

コホル入れ (mukholeh)は上に三つ穴が開いていて、両端にはコホルを、真中にはコホルを塗るときに使うスティックが入っています。

ベイト・ダジャンの花嫁は、結婚式の夜にこれを持って踊ります。
花婿のハンカチ
婚礼の夜に、花婿はこのハンカチを持って踊ります。ふんだんに刺繍され、タッセルがたくさんついていて、かなりかわいい一品。



ブレスレッドはペア
になってるんだね。
たいていの場合、花婿から婚資をもらった後に、花嫁とその両親が連れ立って、近くの町までアクセサリーを買いに行きます。

こんなアクセサリーをそろえます。

 ・ チョーカー
 ・ 幅広のブレスレッド(二本一組)
 ・ 細いブレスレッド(四本一組)
 ・ 琥珀のブレスレッド(二本一組)
 ・ 青いビーズのブレスレッド(二本一組)
 ・ 指輪(たくさん)
 ・ 頭飾りやボンネットにつけるコイン




ステップ C ―キスワパーティ (zaffet al-kisweh)―


婚資を支払い終え、贈り物をそろえない限り、結婚することはできません。しかし、若者にとって、これはそれほどたやすいことではありません。婚約式のあと数ヶ月、ときには一年以上かかってしまうこともあります。


贈り物の服のための布地は、ジャッファにあるキスワ(贈り物)専門店で購入します。花婿、花婿の親類と母親、花嫁の母親、マシータとよばれる花嫁の着付け人が、贈り物選びに参加します。とくに結婚を急いでいない限り、必要な分量の布地を購入します。合計が、花婿が支払える金額を越えてしまった場合には、花婿の親類が肩代わりしてあげます。


一行が贈り物を買っている間、花嫁や花婿の親類の女性たちと村の女性たちは、「キスワパーティー」をします。(ただし、花嫁自身はこのパーティには参加しません。)女性たちは歌ったり、踊ったりおおはしゃぎしながら、細長い柄のついた農具に布をぐるぐる巻きつけて、「偽花嫁」をつくります。

女性たちは、この「偽花嫁」に下着と上着を着せ、腰にはベルトを巻きます。婚礼用のネックレスやブレスレッドをつけ、頭にヴェールを被せ、顔もヴェールで覆います。こうして、この「偽花嫁」は婚礼の日の花嫁そっくりの姿になります。


やがて、贈り物を買った一行が地平線の向こうに見えてくると、一番腕っぷしの強い女性が「偽花嫁」を抱えて、女性たちはそろって一行に追いつきます。一行が花婿の家に到着すると、贈り物の中身を全部、カゴの上に広げてのキスワ披露が行われます。そこで一同は花婿の父親の寛大さを称える歌を大合唱したり、楽しいひとときを過ごします。


次の日になると、贈り物は花嫁の家に届けられます。

花嫁、「姑」、花嫁の母親は、贈り物の布を持って仕立て屋に出かけます。
 
この「偽花嫁」は邪視よけなんだって。



ステップ D ―花嫁のエステ―


ドレスが出来上がると、とうとう婚礼の日が近づいてきます。婚礼の3,4日前から、花嫁は美しくなるためにいろいろな美容や化粧を行います。これを取り仕切るのは、マシタ(花嫁の着付け人)です。

マシタはとくに資格が必要なわけではありません。ある程度器用な村の女性ならば、誰でもマシタになることができます。マシタにかかる費用はすべて花婿側が持ちます。花嫁も心づけを少し渡します。


まず、マシeタは婚礼用の特別なネックレスをつくります。これはチョウジの枝を細かくし、つないだものです。これをたらいの水につけておくと、ネックレスも水もとてもいい香りになります。花嫁は婚礼の日に、この水で身体を清めて、ネックレスを首にかけます。

マシータは花嫁の友人や親類の女性のためにも、短いチョウジのネックレスをつくります。ネックレスには真珠のイミテーションや、サンゴ、コイン、ビーズなども使われます。


マシタは次に、レモンと砂糖を煮立てた除毛液をつかって、花嫁の全身のムダ毛の処理をします。腕や脚のうぶ毛も、わきや下の毛も全部です。

花嫁の肌は、痛々しく真赤になってしまいますから、婚礼の二日前には済ませておかなければなりません。



ステップ E ―ヘンナパーティ (laylat al-henna)―


婚礼の前夜に、花嫁の親戚の女性たちが集まって「ヘンナパーティー」を開きます。

ここでマシタは、花嫁と他の女の子たちにヘンナを施します。




ヘンナのやり方はこんな感じです。

まず、粉上のヘンナにレモン水を混ぜて泥のような状態にします。それを手のひらや腕、脚、足に置いて、模様を描いていきます。模様が書けたら、そのまま数時間放置しておきます。


ナツメヤシや糸杉のデザインは、花嫁のための特別なものです。


ヘンナパーティは夜の間、ずっと続きます。女の子たちは歌ったり、おしゃべりしたり、楽しく過ごします。

花嫁の父親は、ヘンナパーティに集まった女性全員に、チョウジのネックレスとスカーフ(mandil)を配ります。女の子たちは結婚初夜の翌朝に、花嫁にほんの少しのお金をプレゼントする慣わしになっています。こうして、結婚して家を出てしまっても、お互いの関係が続くことを願います。





ステップ F ―とうとう結婚の日―

結婚式の朝、花嫁はチョウジのネックレスを浸しておいた水で身を清めます。それから、母親が用意したコホルで目の周りを隈どります。

午後になると、花嫁は花婿の家へ行くための衣装に着替えます。それは次のようなものから成ります。

 1−白い薄地のドレス(袖と胸部分に赤い絹のアップリケが施されたもの)
 2−絹地の長袖コート(赤と黄色の縞柄アトラス)
 3−コインのついたボンネット(semadeh)
 4−チョーカー(bughmeh)
 5−チョウジのネックレス
 6−金属製のネックレス(zaybaqa)
 7−幅広のブレスレッド、細いブレスレッド、琥珀のブレスレッド、青いビーズのブレスレッドなど。




コホルと口紅の入れ物





花嫁衣裳とお化粧を試着
一方、花婿の方は、親戚や村人、花嫁側の男たちを招いて、飲めや踊れやの大宴会を開きます。

花婿が花嫁からもらった「ハンカチ」を持って踊ることもあります。花婿の友達は彼を叩いたり、小突いたりしてからかいます。このとき、皆は花婿に少しのお金をプレゼントする慣わしになっています。


*  *  *


やがて夕方になると、花婿側の男たちは、きれいに飾り付けられた馬を引いて、皆で花嫁を家まで迎えに行きます。この行列に花婿は加わりません。

一行が到着すると、花嫁は顔に赤いヴェールをかけ、白い絹の男性用コートを頭からまとって外に出ます。


馬に乗った花嫁には、新しい靴と刀剣が渡されます。
こうして、行列は花婿の家に向けて出発します。



村の女性が顔を覆うのは、一生のうちでこのときだけなんだって。



ステップ G ―お床入りから新婚のお祝いへ―


花婿の家に到着すると、馬から下りた花嫁から、マシータが短剣を受け取り、コートと顔にかけたヴェールを取り去ります。そうして、こんな歌に迎えられながら、花嫁は新しい家に足を踏み入れるのです。


  
 ヴェールをお取り、おじょうさん、ヴェールをお取りよ
                あなたのお顔の祝福で、家が満たされますように




花婿の家に入ると、花嫁は静かにクッションに腰掛けます。すると、マシータがやってきて、メークの最後の仕上げです。

赤と白の粉を乗せて、金の葉を顔中にはたきます。こうして、皆の見ている前で、美しい花嫁が完成です。



夜になって、お床入りの時間が来ると、花嫁はもう一度赤いヴェールで顔を隠します。お床入りの衣装は、実家を出る時に着た「白い薄地のドレス」です。


花婿はヴェールを上げて、妻の神々しい顔を眺め、それから小さな贈り物(お金)を手渡します。このとき、花嫁は花婿のために、コホル入れを持って踊ることもあります。

側にいた女性たちが立ち去ると、花嫁と花婿は、花婿の母親が用意しておいた鳩料理を二人で食べます。これで、二人は「一緒になった」ことになります。


*  *  *


次の朝、村中に結婚の成功が宣言されます。花嫁の白いドレスが赤く染まっていることを皆が心待ちにしています。


その後、クッションに腰掛けた花嫁のところに次々と親戚がやってきます。新婚のお祝いです。花嫁の膝の上に広げられた特別のハンカチの中に、贈り物(お金)がどんどん投げ入れられていきます。これは花嫁が好きなように使える財産になります。






ステップ H ―新妻の井戸端デビュー―


結婚後、花嫁はお祝いにやってくる親戚や友人の相手に大忙しです。

お床入りから一週間後、花嫁ははじめて外出します。これは村中の女性たちが新しい花嫁の到来を喜ぶ、大きな行事です。

村の女性たちは一番の晴れ着を着て、ありったけのジュエリーを身につけます。女性たちが集まる時間になると、町中に「ジャラ、ジャラ」という音が響き渡ります。


花嫁は持参品として持ってきた亜麻布のドレス(ジラーヤ)をこのとき初めて身にまといます。ジラーヤは前身ごろの腰から下がスリットのように開いているので、この下に例の「白い薄地のドレス」を着ます。贈り物(キスワ)の中で一番高価なベルトを腰に巻いて、頭にはボンエットを被り、その上に黒いヴェールを纏います。さらに、このときのために特別に用意された水がめを頭の上にのせて、花嫁は揚々と井戸に到着します。


井戸端では、女性たちが歌ったり、踊ったりと大騒ぎをしてお祝いします。こうして、花嫁は村の大人の女性として迎えられるのです。







ご参考になりましたか?成功した方、ご一報くださいませ。



主要参考文献

Shlagh Weir and Widad Kawar, "Costumes and Wedding Customs in Bayt Dajan"
in Palestine Exploration Quarterly (Jan -June, 1975)

Shelagh Weir, Palestinian Costume, British Museum Press, 1994


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