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〈銀河戦記エヴァージェンス1〉『太陽の闘士』/解説
この文章は〈銀河戦記エヴァージェンス1〉『太陽の闘士(下)』に解説として掲載されたものです。
〈銀河戦記エヴァージェンス1〉『太陽の闘士』
ショーン・ウィリアムズ&シェイン・ディックス
ハヤカワSF文庫〈SF1419〉, 〈SF1420〉
早川書房、2002
EVERGENCE:THE PRODIGAL SUN
Sean Williams & Shane Dix
Ace, 1999
スリルと謎にあふれた新時代の冒険スペースオペラ
SFレヴュアー 東 茅子
複雑にからみあった秘密に、エキサイティングなアクション。はるか未来の宇宙を舞台に、魅惑的な謎を満載したスリル満点の冒険が、ここに始まった。
場所は辺境の刑務所惑星。ほとんど墜落に近い形で地表に降り立ったモーガン・ロシェは、ある任務のため、なんとしても惑星から脱出しなければならなかった。だが、敵対する国家の宇宙戦艦に惑星を囲まれ、味方のはずの地上の警備部隊は敵の手先になっている。彼らは、彼女の腕につながれた人工知能(AI)を捕らえようとしていた。道づれとなった仲間たちの協力を得て、彼女は何度もぎりぎりのところで危機を逃れるのだが、その仲間たちもみなどこか謎めいていて、それぞれの思惑で行動しているようだ。なかでも、記憶喪失だという驚異的な戦闘能力の持ち主ケインは、いったい何者なのだろうか……。
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本書はオーストラリアの若手作家ショーン・ウィリアムズとシェイン・ディックスによる The Prodigal Sun(一九九九)の全訳だ。〈銀河戦記エヴァージェンス〉シリーズ三部作の第一巻となる。二巻の The Dying Light でディトマー賞、三巻の A Dark Imbalance でオーリアリス賞と、地元オーストラリアの二大SF賞を受賞している。
オーストラリアのSF作家といえば、グレッグ・イーガンが有名だろう。しかし、それ以外の最近の作家となると、なかなか日本では知られていない。だが、日本ではまだまだ紹介されていないかもしれないが、オーストラリア国内で活動するSF作家はけっこういて、SF専門の出版社やSF雑誌など、オーストラリアSFはかなりの活況を示しているそうだ。また、オーストラリアで成功をおさめた作家の長篇が、アメリカの出版社から刊行される例が最近は増えている。本シリーズもそのいい例だと言えるだろう。本書は著者らの初めてアメリカで出版された長篇であり、アメリカでも高い評価を受けた。
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著者の一人、ショーン・ウィリアムズは、一九六七年生まれでオーストラリアのアデレード在住。デビューは九一年で、以来五十篇以上の短篇をいろいろな媒体に発表してきた。単独長篇も Metal Fatiguer(一九九六)と The Resurrected Manr(一九九八)を出版していて、さらにファンタジイの The Books of The Changer シリーズの刊行が始まっている。これらの短篇と長篇(本シリーズ分を含む)でディトマー賞とオーリアリス賞をあわせて七回受賞していて、まちがいなくオーストラリアSFを代表する作家の一人だ。日本でも、新しい世代のオーストラリアSF作家の代表格として、『90年代SF傑作選(上)』(ハヤカワ文庫SF)に「バーナス鉱山全景図」(一九九五)が収録されている。
一方、シェイン・ディックスは一九六〇年ごろの生まれ、ウィリアムズと同じくアデレード在住。十二歳のときにハインラインの「時の門」を読んでSFに夢中になり、二十一歳のときにサミュエル・R・ディレイニーの Dhalgren を読んでこんな作品を書く作家になりたいと思うようになったという。デビューは、これもウィリアムズと同時期の九一年で、オーストラリアのSF誌オーリアリスに短篇"Next of Kin"が掲載された。最近はSF作品以外にも手を広げ、さまざまな分野の長篇にも意欲を燃やしているという。
二人の共著による作品は、九五年の The Unknown Soldier が最初となる。これはゲームを元にした冒険スペースオペラで、〈コーガル〉シリーズの一巻目だそうだ(といっても、二巻以降は刊行されていないのだが)。ディトマー、オーリアリス両賞の候補にあがっていたほか、アメリカでもSF情報誌ローカスなどで高く評価されていた。実はこの作品、舞台となる宇宙も登場人物も異なるのだが、基本的には本書のオリジナルとでもいうべき作品らしい。本書は、それがスケールアップされたもの、というわけだ。
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ここで、主な登場人物と舞台背景について、簡単におさらいしておこう。
主人公モーガン・ロシェは、数ある星間国家のひとつ帝国連邦(通称COE)の情報部員である。彼女の腕にはAIのボックスがおさまったブリーフケースがつながれている。ロシェの現在の任務は、それを司令本部まで秘密裏に運ぶことだった。彼女はその途中、囚人護送艦に同乗して、辺境の刑務所惑星シャッカへとたどり着く。
舞台となるのは五十万年ほど未来で、大宇宙に拡がった人類は発祥の場所がどこかもわからなくなっている。この超未来の世界でも、AIの知性は人間にはまだまだおよばないとされている。だが、長い年月の間に "超越" した高等人類によって生み出されたAIについては、別の話だ。ボックスにも驚異的な能力が秘められていて、情報ネットワークに侵入してそこに接続されたコンピュータを乗っ取ることについてはまさに天才的だった。そのため、ボックスをなんとしてでも手に入れようとした敵対する国家ダート・ブロックと、その賄賂にたぶらかされた本来は味方のはずの警備部隊に追い回されることとなる。
そして、そんなロシェに同行することとなった一人が、襲撃の数日前に生命維持カプセルで宇宙空間を漂っているところを発見された謎の若者アドニ・ケイン。名前以外はまったくの記憶喪失で身元はわからないのだが、驚異的な運動能力と知能とを備えていて、すさまじいほどの戦闘能力を持っている。ケインの正体は、物語のもっとも大きな謎の一つだ。ロシェと彼が出会ったことから、なにかの陰謀を感じさせる。
そして、視覚や聴覚などのすべての感覚を犠牲にされ、代わりに強大なテレパス能力を手に入れたリーヴと呼ばれる超能力者の少女マイーと、彼女の目や耳となりながら行動をともにする商業アルテリという組織の元代理人ヴェーデン。彼らは、ロシェとは異なり、それぞれ今の人類とは異なる姿に進化した種族、スリン人とエッカンダー人である。マイーの超能力は、数人程度なら思うように人を操ることができる。だからいつでも逃げ出せたのだが、なんらかの秘密の目的があったため、流刑囚を装って囚人護送艦に乗艦していたらしい。
惑星シャッカになんとか降り立ったロシェらは、惑星の秘密組織のメンバーに遭遇する。実はこの組織、地下を本拠地としていて、文字通り「地下組織」だ。そのリーダーのハイドは、もともとは全身の機能をインプラントで強化したプロの暗殺者だったという。小衛星帯にぐるりと囲まれた惑星シャッカ自体、なにか謎めいた歴史があるらしく、不思議な遺跡が残されている。また、ロシェらを追いかけるダート・ブロック艦の艦長カジクは、艦の奥深くに脳髄が移植され、戦艦が肉体の代わりになっている。彼には新型艦のプロトタイプとして任務を成功させるようプレッシャーがかけられ、そのうえ艦内では彼に隠された何かが進行しているようだ。
このようにそれぞれに強烈な印象の多彩なキャラクターが多数登場するので、このなかでは、主人公のロシェはどちらかというとごく普通の人に見えてしまう。だが、かえってそれが幸いし、ロシェを中心にしてすっきりまとまって、物語はどんどん突き進んでいく。だとしたら、これだけ謎と秘密が山盛りになった冒険が、おもしろくならないわけがない。ジェットコースターに乗っているようなスリルとアクションを、十分堪能していただけるのではないだろうか。
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さて、本書でロシェらは惑星をなんとか脱出することに成功し、また、それだけでなく、意外な形での「帰還」を果たす。だが、いくつかの謎は残されたままで、彼らの冒険はまだまだ続く。意外な人物が思いがけない別の面を持っているのが明らかにされたりして、今後もスリル満点だ。
シリーズ二巻目の The Dying Light では、別の場所に現れたアドニ・ケインの同類らしい存在を調査するため、ロシェと仲間たちはある星系へと向かう。その星系で、彼らが遭遇したのは……。恒星系全体に舞台を拡大して、さらなる秘密と謎でいっぱいの冒険が待ち受けている。お楽しみに。
(2002年11月3日)
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