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マイルズ・ヴォルコシガン−−その生い立ちと世界



《マイルズ・ヴォルコシガン》−−その生い立ちと世界
SFマガジン 1999年 9月号臨時増刊号『星ぼしのフロンティアへ』 掲載


 ヴォルコシガン・シリーズのメインの主人公は、惑星バラヤー随一の貴族の息子マイルズ・ネイスミス・ヴォルコシガンである。折れやすいもろい骨と低い身長というハンデを持っているにもかかわらず、ある時はデンダリィ傭兵隊を指揮するネイスミス提督として、またある時はバラヤー帝国機密保安庁のヴォルコシガン中尉として活躍する。ヴォルコシガン卿としての面も数えると、なんと一人で三役をこなすマイルズである。そんなバイタリティあふれる彼を知るために、ここでは彼の生まれ故郷バラヤーの歴史から触れていきたい。


バラヤーの歴史

 ビジョルドの作り上げた未来史では、ワームホールをジャンプすることによって恒星間航行が可能になっている。この宇宙進出の初期の様子は、シリーズの外伝『自由軌道』に描かれている。

 複数のワームホールをもち、交通・通商の要所となっている星系もあるが、惑星バラヤーのワームホールは一つだけだった。ところが、開拓初期にその唯一のワームホールを失い、バラヤーは孤立してしまう。〈孤立時代〉の間、取り残された開拓者たちは科学技術の大半を失って、中世的な生活を強いられた。そこで、名字の最初に「ヴォル」をつけた軍人貴族が支配するバラヤー帝国がつくられた。ヴォル貴族は日本の武士を思い起こさせるような存在だ。

 数世紀にわたる〈孤立時代〉は、コマール星系へつながる別のワームホールが発見されて終わりを告げる。だが、その直後、科学技術的に遅れをとっていたバラヤーは、近隣の軍事大国セタガンダ帝国に侵略される。バラヤー人は激しく抵抗し、二十年もかかったがセタガンダを惑星から追い出すことに成功する。

 セタガンダ戦争を教訓に、バラヤーは急速に科学技術を取り入れ、軍事力を備えていく。そして、セタガンダ軍の通行を許したコマールを攻略し、併合してワームホールの出入口を確保する。若き日のマイルズの父、アラール・ヴォルコシガン提督が指揮をとったコマール攻略は、まさに「教科書どおりにうまくいったケース」だった。しかし、政治士官の暴走から「ソルスティスの虐殺」と呼ばれる事件がおこり、その後のバラヤー本国とコマールとの関係に陰をおとしている。


マイルズの両親

 マイルズの時代、バラヤー帝国は平和で、発展しつつある、熱気の感じられる世界である。しかし、それはマイルズの両親らによる努力の賜物である。つい最近まで、バラヤーでは戦いや内乱や暗殺が日常茶飯事だった。アラールが子供の頃にも、狂気に陥った当時の皇帝が血縁者を皆殺しにしようとしたことから、大きな内戦がおきていた。皇帝による虐殺の犠牲者の中にはアラールの母も含まれていて、アラール自身も標的の一人だったという。マイルズの誕生前後にも、惑星全体をゆるがす大きなできごとが続発している。

 ベータ植民惑星出身のマイルズの母コーデリアがアラールと出会ったのは、バラヤー軍による惑星エスコバール攻略戦争が始まる直前だった。二人は敵同士だったにもかかわらず、いつしか惹かれあうようになる。そのエスコバール攻略戦が失敗に終わった後で、コーデリアは戦争の陰に隠された陰謀があったことを知る。結果として、その秘密が二人を結び付けることになる(『名誉のかけら』)。

 戦争終結後、コーデリアはアラールと結婚し、バラヤーに移り住む。のどかに暮らそうとしていた二人だったが、アラールが幼いグレゴール帝の摂政となったため、政治の渦の真ん中に巻き込まれていく。そして、コーデリアがマイルズを妊娠中に、アラールを狙った毒ガステロの巻き添えを受けてしまう。ちょうどその頃バラヤーに導入された人工子宮を用いることでマイルズの命は助かったものの、マイルズは骨の発育を阻害されるという障害を背負うことになる。

 その事件の直後、皇位継承権をめぐって内戦が再びおこる。アラールらはグレゴールを守って、皇帝を僭称する貴族と戦う。人工子宮に入ったまま人質にとられたマイルズを取り戻すため、コーデリア自身もボザリ軍曹らとともに大活躍する(Barrayar)。


マイルズの子供時代

 アラールとコーデリアは、マイルズにとってこれ以上は望めないような両親だった。グレゴール帝の成人後、アラールはバラヤーの首相を務めることになり、多忙な毎日を送っていたのだが、彼は毎日マイルズの相手をするために時間を捻出する父親だった。

 だが、〈孤立時代〉の間に高度な医療技術を失っていたため、バラヤーには突然変異を排除しようとする風習ができていた。そのため、マイルズの子供時代は、両親に支えられていても、大貴族の跡取り息子であっても、楽なものではなかった。祖父のピョートル将軍は何度か幼いマイルズを殺そうとしたことがある。そのため、ボザリ軍曹はマイルズの専属ボディガードになる。数年たって、マイルズが身体にハンデを負っていても(あるいは、ハンデがあるために)、非常に才気煥発な負けず嫌いであるということがわかって、ようやくピョートル老人の態度が軟化した。

 マイルズは父親にふさわしいような、祖父に認めてもらえるような、ヴォル貴族……つまり、立派な軍人になるのが最大の夢だった。ベータ植民惑星出身のコーデリアはともかく、アラールやピョートル将軍が彼に大きな期待をかけていることも十分知っていた。だが、その第一歩となるはずの士官学校の入試の実技試験で失敗してしまう。

 夢を叶えられなくなったマイルズは、ボザリ軍曹やエレーナと共に、しばらくバラヤーを離れて旅に出ることにする。ところが、ひょんなことから、デンダリィ自由傭兵艦隊のネイスミス提督と名乗るはめになってしまう。それだけでなく、持ち前の口のうまさと機転と年齢不詳の容貌を生かして、実際に傭兵隊を作り上げて戦果をあげてしまう(『戦士志願』)。この事件がきっかけで、マイルズは念願の士官学校に入ることになる。


デンダリィ傭兵艦隊

 士官学校を卒業したマイルズは、バラヤー軍の花形、誰もが憧れる艦隊勤務につくことを希望していた。ところが、様々なできごとの結果、最終的には機密保安庁の長官イリヤンの直属の部下として働くことになる。バラヤー軍の一介の中尉でありながら、ネイスミス提督としてデンダリィ傭兵艦隊の指揮をとるというマイルズの二重生活がこうした始まった(『ヴォル・ゲーム』)。

 今やすっかり一人前の傭兵隊員となったエレーナや、艦隊参謀のタング准将たちとともに、マイルズとデンダリィ隊は大宇宙のあちこちで活躍を始める。例えば、ワームホール交通の要所に対してのセタガンダ帝国の侵略をくいとめたり(『ヴォル・ゲーム』)、ジャクソン統一惑星で遺伝子学者と彼の作品の女性兵士タウラを回収するついでに、惑星を支配する悪徳商人たちに内紛の種をまいたりする(『迷宮』)。また、セタガンダに占領された惑星を支援するために、セタガンダの捕虜収容惑星で一万人の捕虜の集団脱走を成功させる(『無限の境界』)。マイルズは直接には登場しないが、のちに彼の右腕兼恋人となるエリ・クインがデンダリィ隊の諜報部員として活躍する話もある(Ethan of Athos)。

 マイルズはネイスミス提督としてふるまう時は、話し方から変わってしまう。長いことネイスミス提督の役をこなすうちに、どちらが真の自分の姿なのか、マイルズ自身にもわからなくなるほどらしい。


ヴォルコシガン卿としてのマイルズ

 マイルズはヴォルコシガン中尉あるいはネイスミス提督であるほかに、ヴォルコシガン卿でもある。マイルズはヴォルコシガン卿としても活躍している。もっぱら探偵役として。

 例えば、士官学校卒業直後の休暇中に、マイルズは故郷で山奥の村の嬰児殺しの件を調査することになる。マイルズの両親らによる啓蒙活動にもかかわらず、へき地では奇形を持って生まれた嬰児の「間引き」の風習がいまだに残っていたのだ。被害者の幼い少女は、それ以降マイルズの中で彼がなんとしても守るべきバラヤーの象徴になる(『喪の山』)。

 また、亡くなったセタガンダ皇帝の国葬にグレゴール帝の代理として出席するため、いとこのイワンと共にセタガンダ本星を訪問した時もそうだ。セタガンダと言えば、なんといってもバラヤーの最大の敵国である。それなのに、なぜかマイルズは、美しいセタガンダ貴族女性に恋をし、セタガンダ宮廷内の殺人事件と国事に必要不可欠なある「鍵」の盗難事件に巻き込まれて、その解決に手を貸すことになってしまう(Cetaganda)。


マイルズのクローン/弟のマーク

 デンダリィ傭兵隊とともに訪れた地球で、マイルズは自分自身のクローンに出会う。コマール人テロリストの一派が、マイルズの父への陰謀を企てていたのだ。彼は遺伝子的には異常のないマイルズの外見にあわせて体を整形され、マイルズの立ち居振る舞いをまねるように強要され、テロリストたちの怒りのはけ口として虐待を受けてきていた。マイルズはクローンを弟のマークと呼ぶ。マークは操り人形となることを拒否してコマール人の陰謀を失敗に終わらせるが、マイルズの前からも姿を消してしまう。自分の本当の「居場所」を見つけるために(『親愛なるクローン』)。

 それから数年。マークは、結局、自分自身の存在価値というものを見いだせないでいた。そのマークが再びマイルズになりすまして、デンダリィ傭兵隊の前にあらわれる。マークはジャクソン統一惑星で育てられている自分のような違法クローンを救出し、自分にも何かができることを証明しようとしていたのだった。だが、彼の作戦は失敗し、後を追ったマイルズに逆に救出されてしまう。その上、救出作戦中にマイルズが重傷を負い、入れられた低温治療ポッドごと行方不明になってしまう……。結局、マークは惑星バラヤーへと向かい、そこで自分の「居場所」を見つけることになる(Mirror Dance)。


その後のマイルズ

 Mirror Danceで一度は死んでしまうマイルズ。もちろん生還するのだが、彼はこれ以後、冷凍処置の後遺症でひどい発作に悩まされることになる。そのことなどがあって、マイルズは軍を除隊させられてしまうことになる(Memory)。それは、デンダリィ傭兵隊に別れを告げることをも意味していた。両親やまわりの人々の期待を裏切ってしまったという思いもあって、マイルズはひどいうつ状態に陥る。こうしてマイルズは、肉体的な死に加え、軍人としての経歴の死、精神的な死と計三種類の死を経験する。

 幸いなことに、肉体の死からもなんとか生き返ったように他の死からも回復し、マイルズは新たな仕事を手に入れることになる。それは、バラヤー皇帝の声であり目であり耳である八人の帝国監査官の一人となることだった。マイルズはイリヤンの記憶バイオチップが暴走した件や、コマールの惑星開拓事業施設でおきたテロ工作かもしれない事故について調査し、事件の真相を明らかにするのだった(Memory、Komarr)。

 マイルズの帝国監査官としての活躍をみると、今まで別個の人間だったネイスミス提督としてのマイルズとヴォルコシガン中尉、ヴォルコシガン卿としてのマイルズが、うまく融合して、新しいマイルズが産み出されたようだ。デンダリィ傭兵隊での活躍がひとまず終わることになって残念だが、彼も永遠に一人二役が続けていけるわけではないのだから、しかたないだろう。……それに、デンダリィ傭兵隊とマイルズが再び出会う可能性がないとは限らないだろう。もちろん、まだ描かれていない過去のデンダリィ隊との冒険もあるはずだ。


 ビジョルドのこのシリーズの作品は、ヒューゴー賞やネビュラ賞を何度も受賞していて、本国での評価の高さをうかがわせる。やはり、マイルズをはじめとする魅力的な登場人物と、読者をつかんで離さない巧みな物語が人気の秘訣だろうか。そういった点で、ビジョルドはしばしばロバート・A・ハインラインとも比較されている。読んで絶対損することのない、最高のエンターテイメントSFのシリーズである。まだお読みになっていない方は、『戦士志願』か『名誉のかけら』のあたりから手にとられることをお勧めしたい。


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マイルズの周囲の人々

[惑星バラヤー] [デンダリィ傭兵艦隊]

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舞台となる主な惑星 (2000年10月23日)

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