こんにちわ――。
「ベンジャミンおじさんの家」にようこそ。わたしの名は、ティンカー・ベル。ジェームズ・バリの小説、「ピーター・パンとウェンディ」に出てくるピンク色の妖精です。きょうは特別にあなたの御案内役を務めることになりました。お会いできて大変うれしく思います。
あなたは、わたしのことをご存じでしょうか。イギリスの子供たちなら誰でも知っているのですけれど。そうですか――それはどうも、ありがとうございます。日本の方たちにもわたしの出てくる本を読んでいただけてるなんて、とてもうれしいことですわ。わたしはこの「ベンジャミンおじさんの家」の中にある、「ピーター・パンの部屋」からやってきました。どうぞ、よろしく。
あなたの肩に乗ってもよろしいでしょうか。だいじょうぶ、わたしは小さいからそんなに重くはありません――。はい、これでけっこうです。ずっとお話がしやすくなりました。それでは、さっそく説明を始めましょう。
あなたは、ベンジャミンおじさんをご存じでしょうね。
おじさんのことは、ニュートンやエジソンのように世界中の人が知っています。おじさんは地震の研究をしたり、雷の正体を確かめたりした人です。そして、世界中の子供たちのために、この「ベンジャミンおじさんの家」を建ててくれました。えっ? いったい、誰のことかって。あらあら、これは困った。世の中には、おじさんのことをぜんぜん知らない人もいるんですね。あんなに有名な方なのに。
でも、まあいいでしょう。もしもうまくおじさんを捜し出せたら、あなたもきっとあの人が好きになるでしょうから。えっ、なんのことかって?
あなたはこれから、この家の中でおじさんとかくれんぼゲームをするのです。あなたが鬼で、おじさんが隠れる人。そもそもこれが、あなたにここまで来てもらった理由です。わたしはそのためのあなたの案内役なのです。わたしと一緒に家の中を歩き回って、もしもうまくおじさんを見つけられればあなたの勝ち、見つけられなければあなたの負けというわけ。簡単でしょう?
それでは、あなたが今いる、この家についての説明をしてあげましょう。
目の前に何が見えますか。そう、長い廊下が三方向に延びてますね。それが「ベンジャミンおじさんの家」の奥に通じる道です。
「ベンジャミンおじさんの家」は本と物語の世界でできています。あなたもきっとどこかで読んだことのあるたくさんの物語たち。それらの世界を集めて、一つひとつの部屋に大切におさめてあるのです。
部屋の中には、昔から人々に読みつがれてきたたくさんのお話の主人公たちが住んでいます。イギリス、アメリカ、フランス、カナダ、そしてあなたの国、日本の物も含めて――。
あなたはここで、さまざまな小説の登場人物たちに出会うことができるでしょう。あなたが扉を開ければ、みんなは心から歓迎してくれます。あなたはそこで、彼らの一人ひとりと直接言葉をかわすことができるのです。どんな人がいるのかは、入ってからのお楽しみ。みんないい人たちばかりですよ。あなたはきっとこの家が気にいるはずです。そして、みんなが主人公として出てくる本を、ぜひ自分でも読んでみたくなることでしょう。
ベンジャミンおじさんは家の中のどこかに隠れています。あなたはみんなの部屋を歩き回りながら、どこかにいるはずのおじさんを見つければよいのです。でも、これでは時間さえかければ絶対にあなたが勝ってしまいますね。そこで、あなたの行動に制限をつけておきましょう。
サイコロを一つ振って下さい。出た目に12を足します。いくつになりましたか。はい、それでは手を出して――。その数だけ、美しい銅貨をさしあげますから。(サイコロはそのまま持っていって下さい。家の中で使うこともありますから)
きれいでしょう。これは妖精の使うお金です(メモに数を書いておいて下さい)。この家の中では、一つひとつの部屋をおとずれるときの入場料になる物です。つまり、「扉を開けて部屋に入る」とパラグラフに書いてあったら、そのたびに銅貨の数をメモから1枚減らして下さい。そうすれば、その部屋に1回だけ入ることができます。あとは中で、そこの指示にしたがえばよいのです。
部屋の中には物語の世界が広がっており、あなたはそこに自分で参加することになります。ほとんどは登場人物になにかをお願いされることでしょうが、あなたはできるかぎりその頼みを聞いてあげねばなりません。代わりに、みんなはきっと何かのお返しをしてくれるはずです。そのあとで部屋を出るときにはお金はいりませんが、もう一度同じ部屋に入るなら、やはり入場料を払って下さい。
場合によっては、登場人物の好意で銅貨が増えることもあります。もちろん、あなたが何かをしてあげたときだけです。でも、そんなことはめったに起きません。むしろ、あなたが物語の世界でなにかの失敗をするたびに、お金は確実に少なくなっていくでしょう。上手に使わないと、家の中を歩き回るうちに銅貨はどんどん減ってしまいますよ。
こうして、もしもおじさんを捜す途中でお金が全部なくなってしまったら、それでゲームはおしまい。あなたの負けになります。なぜって、扉を開けられなくなるのだから。わかりましたか。
それから、部屋によっては、あなたは買い物をすることもできます。もちろん、これにも銅貨を使って。そのときにもお金は減っていきますから、注意して下さい。むやみに不必要な物まで買わないこと。でも、ときには本当にいる物だってあるでしょうから、ケチなことばかりするのがいいわけではありませんけど。
そうそう。できることなら、歩きながら地図を作るといいですよ。同じ部屋に何回も入ってしまうなどということを防げますから。もしあなたに迷わない自信があるのなら、わたしはどっちでもかまいませんけどね。いずれにせよ、わたしはずっとあなたの肩に乗っていきます。いいでしょう?
さて、それでは出発しましょうか。いまわたしたちは、「ベンジャミンおじさんの家」の一番南側にいます。1に進んで下さい。
「ごくろうさん。どうやら、私の負けのようだね。よく見つけられたものだ。ティンカー・ベルの案内があったにしても、この家の中を歩くのはさぞ大変だったろう。でも、楽しかったかな。私の作った家には、いろいろな面白い連中が住んでいる。君は、その中の何人に出会えたかね。
いま私が何をしているのかを教えてあげよう。それにはまず、外を見てもらわねばならない。雷が鳴っているね。私は、あの雷という物は、実は電気の作用ではないかということに気づいたんだ。君たちの時代には常識かも知らんが、それは、私が証明してみせたんだよ。
これを見たまえ。なんだかわかるかね。そう、凧だ。私は雷が鳴っている最中に凧を上げて、その糸に電気をつたわらせようとしたんだ。この実験は大変にうまくいった。糸を伝わって下りてきた電気は、見事に下のライデンびんにためることができたというわけだ。なに? ライデンびんなど知らぬ? 君たちの時代にある『コンデンサー』の旧式なやつさ。『POPCOM』の読者なら、なんのことだかわかるだろう。
しかしまあ、この実験は絶対にまねをしてはいかんぞ。あとで考えると、私は運が良かっただけらしい。普通にやったら、まずまちがいなく感電して死んでしまうからな。夏に凧など上げないことだ。
さあ、私が誰だかわかったかね。私は、この『ベンジャミンおじさんの家』の創始者だ。この家は世界中の本を集めて作ってある。みんなにもっと本を読んでもらおうと思ってな。いまでは街角のどこかに、必ずこの『本の家』が見られるはずだ。人々はこれを、『図書館』と呼んでいるがね。
そう、凧を上げて雷の正体を確かめ、世界で初めての図書館を建てた私の名は――。
ベンジャミン・フランクリンというのだ。興味があったらどこかで、私の書いた本も読んでみてくれるといい。『フランクリン自叙伝』といって、たいていの図書館にはおいてあるはずだから。
では、またどこかで会うとしよう。私の名前をよく覚えておいてくれたまえよ。きっと、歴史の授業で君におめにかかるだろうから。でも、今はとりあえず――。
さようなら……」
◆ ◆ ◆ このゲームを制作するにあたり、以下の人々の著作を参考にさせていただきました。(アイウエオ順・敬称略)
芥川龍之介、ハンス・クリスチャン・アンデルセン、ジュール・ヴェルヌ、ルイス・キャロル、グリム兄弟、ヨハンナ・スピリ、アーサー・コナン・ドイル、マーク・トウェイン、夏目漱石、ジェームズ・バリ、アンリ・ファーブル、ベンジャミン・フランクリン、ルーシー・モウド・モンゴメリ、モーリス・ルブラン、ローラ・インガルス・ワイルダー、そして、「桃太郎」と「アラビアン・ナイト」の名もない作者たち。
非礼をおわびするとともに、ここに深く感謝いたします。願わくば、このゲームの読者の方々にも、これらの人たちの小説が広く読まれることを祈って――。
初出:月刊「POPCOM」1986年9月号、小学館