2002/5/22

無線インターネットへの戦略的対応を

池田信夫(経済産業研究所)

要旨

  1. 5GHz帯が国際的に無線インターネットに開放されるなかで、日本が5.35〜5.65GHzで無線標定業務を「1次業務に格上げ」するようITUに求めるのはなぜか。

  2. この「無線標定業務」のための電波は、有効に利用されているのか。どういう機関がどれぐらい利用しているのか、情報を公開すべきである。

  3. 無線LANは、他の業務と同じ周波数を共用できる。既存業者による独占を許さず、なるべく広い周波数帯を無線インターネットに開放すべきである。

無線LAN(IEEE802.11b)の爆発的な拡大は、かつてインターネットが電話網の秩序をくつがえしたのと同様の「第2のインターネット革命」を電波の世界にもたらそうとしている。2年前にはほとんど存在もしていなかったユーザーが、昨年1年で全世界で1000万人(日本で200万人)を超え、2006年には2億人を超えると予想される。さらに5GHz帯を使うIEEE802.11aは最大54Mbps、2チャンネル使う「ターボ・モード」なら最大108Mbpsと光ファイバー並みであり、ブロードバンドのインフラとしては最有力候補となろう。

ところが今回の世界無線通信会議(WRC-2003)への提案によれば、総務省は5.35〜5.65GHzで「無線標定業務を1次業務に格上げ」するようITUに求める方針だという(議題1.5)。5.47〜5.65GHzについては、欧州が無線LAN(HiperLAN)に開放するよう求め、あわせて580MHzを開放する予定である。米国も5GHz帯をU-NIIとして戦略的に位置づけ、すでに300MHzを無線インターネットに開放した。FCCは今後、他の周波数帯についても既存業務と無線LANの共用を認め、5.1〜5.9GHzをすべて無線インターネットに開放する方針だという()。

しかし日本では、5.25〜5.35GHzが気象レーダーへの干渉を理由に使用が禁止され、5.15〜5.25GHzも屋外使用は禁止された。5.77〜5.85GHzもDSRCに割り当てられたが、これを使ったETCは利用者がほとんどなく、かえって渋滞の原因になっている。その埋め合わせのためか、4.9〜5.0GHzが強い制限つき(免許制)で無線LANに利用が認められ、航空無線用の5.03〜5.09GHzを暫定的に空けることになったが、制限なしで使えるのはこの60MHzだけである。「1チャンネルで20MHzまで」という無意味な規制のためにターボ・モードも使えない。

無線インターネットの効率は、帯域が広ければ広いほど上がり、300MHz以上あれば、基地局さえ増やせばほとんど無制限に利用できるといわれる。ところが、屋外で使える帯域がわずか60MHzという状態では、公衆無線には使えない。そのうえ5.35〜5.65GHzでレーダーを1次業務に格上げしたら、この帯域は無線インターネットに使えなくなり、日本は世界から孤立し、ブロードバンドで決定的に立ち後れるだろう。

この5.35〜5.725GHzは、総務省の公開資料でも利用実態がほとんどわからず、だれが利用しているのかも公開されていない。375MHzもの帯域が有効に利用されているのか。他の帯域で代替できないのか。そういう検討を第三者が行うための情報を公開すべきである。

また無線LANは、特定の周波数を排他的に利用する必要はなく、他の用途と共存できる。船舶無線の帯域は陸上では使えるし、既存業務と競合するチャンネルを使わないという機能を使えば、同じ周波数帯を共用することも可能である。既得権は無条件に認めて新規参入は既存業者の許す範囲で認めるという現在の電波行政を改め、技術的に可能な限り広い帯域をコモンズ(共有地)として多くのユーザーに開放する抜本的な方針転換が求められているのである。

第1のインターネット革命では電話料金が問題になったが、第2の革命の焦点は電波行政である。今こそ日本は、無線インターネットに対応する省庁を超えた戦略を立て、「日本版U-NII」を創設すべきである。日本の無線機器技術は、世界の第1級である。4.9〜5.9GHzをすべて無線インターネットに開放すれば、日本がブロードバンドで世界の最先端に立つことも不可能ではない。

図:各国の無線インターネットへの周波数割り当て計画

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