日本の製造業復活のカギを握る「モジュール化」

藤本隆宏・武石徹・青島矢一編著『ビジネス・アーキテクチャ』有斐閣 2001

小泉内閣のスローガンとして「構造改革」が掲げられたが、改革するのはどんな「構造」なのか、よくわからない。不良債権処理や財政再建などは財務的な問題であり、日本経済の中核である製造業にはあまり関係がない。かといって「金融システムさえ健全化すれば、製造業はまだ強い」という楽観論にも説得力がない。一九八〇年代に世界最強と恐れられた日本の製造業が、九〇年代にあっけなく崩壊したのはなぜなのか。そして何を改めれば製造業は復活できるのか――そのカギは技術や組織のアーキテクチャ(基本構造)にあるというのが本書のテーマである。

とりわけ重視されているのが、「モジュール化」あるいは「モジュラー化」(両者を区別する本書の定義はわかりにくい)と呼ばれるアーキテクチャだ。これは部品をギアボックスなどの「モジュール」にまとめて標準化し、組み立て工程を単純化する工法で、最近、日産やトヨタが採用して自動車産業で話題になっている。これは情報産業では、四〇年前からおなじみの方式だ。コンピュータは、処理をCPU(中央演算装置)で行い、データは記憶装置に蓄積するといった形で機能をモジュールで分担し、独立に開発することによって、柔軟なシステム構成と急速な技術革新を実現した。もう一つのアーキテクチャ革新である「オープン化」も、情報産業がお手本だ。IBMの大型コンピュータが企業内で垂直統合された「クローズド型」であるのに対し、IBM−PC以後のパソコンは外部メーカーでも互換機が作れる「オープン・アーキテクチャ」となった。

本書は、こうしたアーキテクチャの変化が情報通信産業を超えて広がっていることを多くの事例で実証している。たとえば海運業では、コンテナで貨物輸送がモジュール化され、カー・オーディオのような家電製品でも、モジュール化によって生産の国際化が進んでいる。ただ、モジュール化は全産業で単調に進んでいるわけではない。自動車でも、トラックではモジュール化が進んでいるのに対し、乗用車にはトヨタ式の精密な工程管理が必要で、モジュール化は必ずしも適していない。一九九〇年代に米国の自動車メーカーが復活した一因は、「トラック型」のRVなどの比重が高まったことにある。

技術的なアーキテクチャの変化は、組織にも大きな影響を与える。モジュール化によって日本企業の強みとされていた長期雇用や企業系列による精密な「すり合わせ」の優位性は低下し、コアとなる技術に特化して国際展開する部品メーカーと、その最適な「組み合わせ」で競争するデルやシスコのようなタイプの企業が強みを発揮する。現在の日本経済の不振の背景には、こうしたアーキテクチャの変化があるが、多くの経営者はそれに気づかず、「構造改革」を単なる人べらしと取り違え、「日本的経営」か「グローバル・スタンダード」かといった不毛な論争が行われている。本書は、そうした観念論を超え、産業構造の転換を具体的に実証した点で大きな意義がある。

しかし製造業について詳細な実証分析が行われている一方、アーキテクチャ転換の元祖である情報通信産業の分析が弱い。またモジュール化やオープン化の要因についての分析は、単なる分類学に終わっている。こうした欠点は、本書の視野が経営学に限られ、経済学の先行研究をほとんど参照していないことと無関係ではない。青木昌彦氏や評者は、一九九〇年代からモジュール化について理論的な分析を行ってきた。その成果は、ちょうど本書と前後して、青木『比較制度分析に向けて』(NTT出版)と奥野・池田編『情報化と経済システムの転換』(東洋経済)として刊行される。本書の実証分析を補完する「理論編」として参照されたい。

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