「光ファイバー・バブル」を生み出した現代の預言者の功罪
ジョージ・ギルダー『テレコズム』ソフトバンク 2002
一九九八年九月、「帯域の爆発」と題してネバダ州の避暑地タホー湖で開かれた「ギルダー・テレコズム会議」は異様な熱気に包まれていた。大きな身振りで「無限の帯域が実現し、資本主義の黄金時代が始まる」という著者の神がかり的な預言に、観衆は割れるような拍手をもって応えた。この会議に集まったユニフェーズ、クウェスト、グローバル・クロッシングなど、当時まだ無名だったベンチャー企業の株価は、その預言どおり何十倍にも値上がりし、著者の出すニューズレター『ギルダー・テクノロジー・レポート』は黄金を生み出す「ミダスの手」ともいわれた。本書の原著はテレコズム会議の参加者だけに草稿が配布され、二〇〇〇年春、インターネット・バブルの絶頂で出版されたものである。
それから二年たった今、この訳書を読むと、二日酔いで迎え酒を飲むような気分を覚える。著者が絶賛したJDSユニフェーズやノーテルは数百億ドルの赤字を計上し、グローバル・クロッシングもテリジェントもグローバルスターも倒産した。著者は「光ファイバー・バブル」の過剰投資をあおった「主犯」の一人とされているが、それだけで本書を葬ってしまうのはもったいない。彼の預言は時期尚早だったが、そのビジョンは長期的には必ずしも間違っていないからだ。
本書は、冒頭で「コンピュータの時代は終わった」と宣告する。マイクロコズム(コンピュータの世界)の主役だったムーアの法則(半導体の集積度が十八ヶ月で二倍になる)に代わって、テレコズム(通信の世界)の主役になるのは、光ファイバーの帯域が六ヶ月で二倍になるというギルダーの法則である。この法則によれば、帯域は五年で千倍になる。事実、米国の幹線網の総通信量は、九〇年代なかばには数百メガ(メガは百万)ビット/秒だったが、今日ではテラ(兆)ビット級になり、従来は通信のボトルネックだった帯域が過剰になってきた。
経済の基本原則は、稀少な資源を節約し、過剰な資源を浪費することである。帯域が稀少だった時代には、情報をパケットに詰め込んで帯域を節約するIP(インターネット・プロトコル)が効率的だったが、帯域の過剰な時代には光をパケットに変換して電気的に処理する速度がボトルネックとなる。米国では、IPルータを省いて光スイッチで直結し、帯域を浪費して電気的処理を節約する全光ネットワークが幹線網の主流となりつつある。今ごろIPをv6に改良する技術に補助金を投入するのは、「一周遅れ」の愚かな政策である。
皮肉なことに、テレコズム企業の破綻の原因となったのも、帯域の供給過剰だった。米国で大量に敷設された光ファイバーのうち、実際に光が通っているのは一割以下だといわれる。帯域が五千倍になっても、それを供給する企業の価値が五千倍になるわけではない。電話よりもはるかに競争的で効率的なインターネットでは、売り上げはむしろ電話より小さくなるのだ。
しかしテレコズム企業が破綻しても、そのファイバーが買い叩かれて通信コストが下がれば、ブロードバンドは前進するだろう。ベンチャー企業を生み出す米国資本主義のエネルギーは健在だ。グローバル・クロッシングの創立者ゲイリー・ウィニックは、かつてジャンク債で巨万の富を築いたあと破綻したマイケル・ミルケンの元部下だった。十年以上たってもバブルの清算を終えられない日本とは違い、米国経済が早くも回復の兆しを見せているのも、資本の論理によって敗者がすみやかに淘汰され、新たな挑戦や「敗者復活」ができるためだ。
ただ本書の前半は細かい技術的な記述が多く、読みにくい。資本主義の欲望をあからさまに肯定するアクの強さに辟易する読者も多いだろう。まず巻末のすぐれた解説(公文俊平氏)から読むことをおすすめしたい。
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