著者の外見は、東大法学部の先生というイメージとはまったく違い、初対面ではみんなびっくりする。派手なシャツにどぎつい柄のジャケット、風貌も水 商売ふうなので、ホストクラブのおじさんという感じだ。議論すると、すぐ感情的になってナショナリズムが出てくる。あっちでもこっちでもケンカするので、 学界では相手にされなくなった。今では『貿易と関税』の100回以上に及ぶ超長期連載が唯一の発表の場だが、NTT擁護論と家庭内の話がごちゃごちゃに出てくる感情丸出しの文章で、読むに耐えない*。
この本でも、くり返し述べられているのが「米国の世界制覇の陰謀」である。米国政府は、自国のルールを世界中に押しつけ、「公正競争」や「競争促 進」の名のもと に各国を支配下に置き、特に巨大コモンキャリアを先兵として、世界の安全保障の基盤となる通信インフラを押さえようとしているので、日本政府はNTT防衛 のために海外キャリアを排除すべきだと主張する。知的財産権もMSウィンドウズもインターネットも、すべて米国製の規格を世界に押し付けるために米国政府 が仕組んだ謀略だ――というチョムスキーなみの被害妄想が展開されるが、その具体的な証拠はどこにもあがっていない。
著者は、数少ないNTTの応援団として知られる。2000年の接続料問題のときには、「米国は不公正競争をしているのだから、日本だけが公正競争を する必要はない。接続料の引き下げはNTTの弱体化を図る米国の陰謀だ」という自筆のビラを毎日、自民党本部の前でまいていた。「米国も泥棒をしているの だから、日本もどんどん泥棒すべきだ」という論理は、さすがにグローバルな業務展開のじゃまになるので、最近はNTTも著者を使わなくなった。
しかも米国がNTTの弱体化をはかるのは、NTTの光ファイバー技術が「世界市場を席巻」しているので、その研究開発を妨害するためだという。イン
ターネットの世界では、NTTの技術は世界を席巻しているどころか、名前さえ知られていない。たしかにATM交換機ではNTTの技術は世界一といわれた
が、もう交換機を新設す
るキャリアなんて世界中に一つもないのだ。ATMと光ファイバーへの過剰投資が、今日のひどい経営状態の元凶である。NTTでさえ交換機への新規投資は
やめると宣言する時代
に、通信=電話=光ファイバーと思いこみ、NTTは世界に冠たる「光の帝国」だなどという誇大妄想は、ほとんど病気である。
*驚いたことに、この連載を本にする出版社があらわれた。岩波
書店である(やっぱりね)。『電子社会の法と経済』という新著では、光栄なことに山田肇氏と私の論文も10回以上にわたって引用されているが、「アドレスの74%は米国
に配布されている」という点だけを強調して、それが余っていることにはふれず、「日本はIPv6で米国を超えた」と誇る支離滅裂ぶりである。自分に都合のよい部分しか目に入らない特殊
な頭脳の持ち主なのだろうか。