ジョージ・アカロフ&ロバート・シラー 『アニマルスピリット』 東洋経済新報社
世界不況で「新自由主義は終わり、ケインズが復活した」などという向きもあるが、政府が財政出動すれば不況から脱却できるという「素朴ケインズ主義」を信じている経済学者はほとんどいない。本書も、教科書に出ているIS-LMと呼ばれる均衡理論的なマクロ経済学は、ケインズの理論を矮小化したものだと批判する。
ケインズ自身も均衡理論的な理解を否定し、彼の理論の核心は不確実性の元での経済行動を明らかにしたことだと述べている。投資水準を決めるのは、合理的な計算ではなく投資家の「アニマルスピリット」(血気)であり、大恐慌のような状況では、将来への不安が大きいために人々が萎縮し、アニマルスピリットが不足することが不況の続く原因だという。
著者はこのアニマルスピリットの概念を拡大解釈して、さまざまな経済現象を分析する。その分析用具は、人間の非合理的な行動を実証的な証拠にもとづいて明らかにする「行動経済学」だ。著者が使うのは、<安心>や<物語>など5つの概念である。今回の金融危機で、投資家は合理手金行動し市場はすべての情報を織り込んでいるという「効率的市場仮説」は否定された。投資銀行が「最新の金融技術を使えばリスクなしで高いリターンが得られる」という<物語>を作り出し、投資家はAAAという格付けだけを見てその物語を信じたのだ。
そしてバブルの崩壊によって<安心>が失われると、人々はすべての証券化商品を買わなくなり、極端な信用収縮が起きる。だから中央銀行の本質的な役割は金利などの調節ではなく、危機に際して安心を担保することだ。かつてアカロフの書いた「レモンの市場」という奇妙な論文は、情報の経済学という新しい分野を生み出し、経済学に革命を(アカロフにはノーベル賞を)もたらしたが、本書も21世紀の新しい経済学を生み出すかもしれない。
ただし訳者が著者の理論を理解しないで、あとがきで「日本の不況の原因は日銀が金融緩和しなかったせいだ」とか「IS-LMは今でも正しい」などと書いているのは、ぶち壊しだ。