すきま商品の集積から見えてくる大衆消費社会の終わり

クリス・アンダーソン 『ロングテール』 早川書房

マーケティングの世界では、売り上げの80%を上位20%の「売れ筋」商品が占めるという「80対20の法則」がよく知られている。しかしインターネットの電子書店、アマゾン・ドットコムでは、300万点以上ある本のうち、上位4万点で売り上げの半分を占めるという。4万点というのは、中型書店の本の総数に匹敵する。残りの半分は、普通の本屋には陳列もされない「すきま商品」の売り上げなのだ。

ランキングの高い順に左から右に商品を並べ、その売り上げを縦軸にとってグラフを描くと、本書の表紙に描かれているように、左端(ヘッド)に大きなピークがあり、右端(テール)が長く伸びる分布になる。これを著者は「ロングテール」と名づけた。  これは統計学では「ベキ分布」と呼ばれ、多くの経済現象にみられる。前に本欄で取り上げた『経済物理学の発見』(光文社新書)で述べているように、株式市場の値動きや個人所得もベキ分布に従う。

だからロングテールは、本質的には新しい現象ではない。しかし、それが注目を浴びるようになったことは、20世紀型の大衆消費社会が終わり、インターネットによって著者のいう「ニッチ文化」が創造されようとしていることを示すのかもしれない。

これまで商品は画一的に大量生産され、それをテレビや新聞などのマスメディアで数百万人に宣伝して売る「マス・マーケティング」が主流だった。しかしグーグル(世界最大の検索エンジン)の検索広告は、キーワードに関連する商品を紹介することによってロングテールの市場を創造した。それは消費者の潜在的な欲求が、想像以上に多様であることを示唆している。この多様性は、今まではマスメディアによって抑圧されてきたが、インターネットはそれを解放したのだ。

ただ本書は専門書ではないので、実際のデータがロングテールでどこまで近似できるのかについての統計的な検証は厳密に行われておらず、ベキ分布になる理由も分析されていない。それは経済学者の仕事だろう。

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