最近、DVDレコーダー、薄型テレビ、デジタルカメラなどの「デジタル家電」が日本経済の牽引車として注目されているが、この活況がそう長く続くと は思えない。デジタル家電の内部構造は、パソコンのように「モジュール化」されており、模倣も追随も容易だからである。ところが、日本の家電メーカーは垂 直統合型の「総合電機メーカー」であるため、「囲い込み」は得意だが、部品がモジュール化し、国際分業によって価格競争が激化すると弱い。モジュール化に 対応する戦略がないからだ。
本書の主要な分析対象は、IBMの大型コンピュータ「システム360」である。これは部品やソフトウェアを独立のモジュールとし、その組
み合わせによって高級機から普及機までのラインナップをそろえる画期的な設計思想による製品だった。これによって部品を並行して開発でき、個々の部品を改
良しても、その影響が他に及ばず、設計変更が柔軟にできた。著者は、モジュール化の意味を金融の「オプション」の概念で説明する。
オプションとは、たとえば価格が原価を上回ったら高く売れるが、下回ったら権利を放棄できる証券だ。モジュールも、多くの「実験」を行って失敗した らその部分だけ放棄すればよい。こうした「リアル・オプション」と呼ばれる考え方は、最近は日本でも注目されている。日本の企業では、全員がべったりと組 織に埋め込まれ、失敗が許されないため、実験を行うことがむずかしい。こうした欠陥を克服するには、製品をモジュール化するだけではなく、組織も小さな単 位に切り離し、多様なオプションを実現する必要があろう。
本書の原著は、すでにモジュール化に関する分析の古典ともいうべき地位を占めている。オプション理論の部分やコンピュータの内部構造を記述した部分 は、ややとっつきにくいが、そういう技術的な記述をとばしても、十分理解できる。情報産業だけでなく、これからの日本経済を考える上でも、ヒントが見つか るだろう。