クレイトン・クリステンセン他『明日は誰のものか』(ランダムハウス講談社)
著者の一人、クリステンセンが8年前に書いた『イノベーションのジレンマ』(邦訳は翔泳社)は、いまや経営学の古典の一つといってもよいだろう。彼は、優良企業が、その技術が優秀であるがゆえに新しい企業の挑戦に敗れるというパラドックスを分析した。その後、彼の理論は『イノベーションへの解』(翔泳社)として発展したが、本書はその理論を多くの産業のケース・スタディによって検証したものだ。
この理論の中核にあるのは、『イノベーションのジレンマ』以来のテーマである「破壊のイノベーション」だ。企業は、ふつう既存の製品を改良する「生き残りのイノベーション」に力を入れ、それよりも安価で質の劣る破壊のイノベーションを「おもちゃ」として軽視し、結果的に競争に敗れることが多い。
もうひとつの柱は、「バリューチェーンの進化」である。製品の性能が市場の要求に満たないときは、製品全体を調整して性能を上げる必要があるので、統合的なイノベーションが行われるが、製品が成熟すると、要素技術が「モジュール化」され、製品がばらばらの部品の組み合わせで実現できるようになり、「日用品化」する。
第2部では、この理論を教育、航空、半導体などの産業に適用して、その今後の方向を予測している。そこに一貫しているのは、未来を過去の単純な延長と考えるのではなく、業界の状況を前述のような理論で分析し、そこにみられる「変化のシグナル」から、次に何が来るかを予測する姿勢である。
経営学の教科書といえば、ケースを羅列したものが多い中で、本書はそれを理論的に解明している点に特色がある。ただ、理論といっても経済学のように抽象的なモデルではないので、とっつきやすい半面、どうにでも都合よく解釈できる曖昧さがある。また全体に繰り返しが多く、冗漫だ。訳は、やや生硬でわかりにくく、「回線交換」を「回路交換」とするなど、専門用語の誤訳が散見される。