大手ISP(プロバイダー)であるIIJ(インターネットイニシアティブ)の鈴木幸一社長によると、東京・大阪のIX(インターネットの 相互接続点)のピーク時の通信量は、ブロードバンドの普及が始まった2001年ごろから毎年2倍以上のスピードで増え続けている。 このペースで増え ると、早ければ5年後にも「インフラがパンクする」というのが鈴木社長の警告である。これが本当なら、大変なことだ。総務省は今年2月、「次世代IPイン フラ研究会」を発足させ、インフラ危機が来るかどうかを調査した。そ の検討報告(素案)がこのほどまとまったが、その結論は「総量としての光ファイバーにはまだ余裕がある」というものだった。NTT関係者に聞いてみても、 「インフラは余っている」という意見が多い。
このように危機感に違いがある第一の原因は、通信量の急増がWinnyなどのP2P(ピア・トゥ・ピア)ソフトによるものだからである。 あるISPでは、下りよりも上りの通信量のほうが多い(P2Pの)ユーザーが全体の1割を占め、しかもこうしたユーザーの通信量が全体の8割にのぼるとい う。図でも、昨年11月にWinnyの利用者が著作権法違反で逮捕されたあと、通信量が下がっている。一部のISPでは、こうした極端なヘビーユーザーの アクセスを制限するなどの対策が始まっているが、これはインフラの問題ではなく、ISPの運用の問題だ。
第二に、光ファイバーは不足していない。総務省の調査によれば、中継系の光ファイバーの総延長の63.2%が未利用であり、利用度の高い 都市部でも、波長分割多重(WDM)技術を使えば、1本のファイバーで多数のチャンネルをとることができる。ボトルネックになっているのは、信号を切り替 えるルータ・スイッチなどの性能だが、これはひとつのスイッチの能力が足りなければ、通信量に応じて増設すればよいだけのことだ。
だから問題は、絶対量の不足による「パンク」ではなく、通信量の増加に見合った設備投資が行われていないことである。その最大の原因は、ここ数年の ブロードバンド料金の急速な低下によって、どの業者も赤字営業を強いられていることだ。これを脱却するには、大量のデータを送るユーザーから追加料金をと るなどの従量制の導入は避けられないだろう。
インターネット=定額制というのは、初期の単純なデータ通信の時代に作られた料金体系であり、これからは映像のような大きなデータを送る人と電子 メールしか使わない人が同じ料金というのは、かえって不公平になる。また大手のISPと中小のISPが相互接続(ピアリング)する場合も、接続料金はとら ないのが普通だ。これもインターネットが初期にボランティアの「助 け合い」で運営されていたころにできた慣習だが、草の根ISPが大手のバックボーンに「寄生」する原因になっている。米国のように上りと下りの通信量の差 を決済して料金をとれば、自前の設備投資が進むだろう。
インターネットは、ボランティアに支えられた「幼年期」の終わりを迎え、大人になろうとしている。従量制には「インターネットの自由を制 約する」という反対論があるが、インターネットの基本思想であるE2E(エンド・トゥ・エンド)の提唱者であるデヴィッド・クラークは、インターネットが 成熟するには従量制の導入は不可避だと主張している。
過剰な規制も、投資をさまたげている。NTTのダークファイバー(光の通っていない芯線)は「指定電 気通信設備」として、世界一安い料金で開放を義 務づけられている。このため、DSL業者は自前のインフラ投資はほとんど行わず、他方NTTはいくら投資しても競争相手に「ただ乗り」されるだけなので、 投資しない。その結果、中継系の光ファイバー投資はほとんど止まってしまった。
しかし中継系の光ファイバーは、競争を阻害するボトルネックとはいえない。電力系などが、総延長ではNTTを上回る光ファイバーをもって おり、経路も多様なので迂回できる。必要なのは、政府がインフラ投資に補助金を出すことではなく、規制を撤廃して自由なインフラ投資を促進することだろ う。加入者系の光ファイバーについても、公取委は昨年12月、NTT東日本に排除勧告を行ったが、今や光ファイバーはDSLと激しく競争しているので、料 金 を規制する必要はない。
将来すべてのユーザーがブロードバンドで映像を見るようになったら、インフラの大幅な増強は避けられない。そのための設備投資コストは、究極的には ユーザーが負担するしかないのだから、解決策は価格メカニズムを機能させることだ。市場原理によってユーザーがインフラを節約し、企業が投資するインセン ティブを作り出せば、通信インフラが絶対的に不足することはありえないのである。