世界経済危機について山のように本が出てきたが、日本人の書いた本には一次情報がなく、メディアですでに報じられた話をホッチキスで綴じたようなものが多い。これに対して本書は、元IMF(国際通貨基金)理事で世界最大の債券ファンドのCEO(最高経営責任者)が、グローバルな視野から投資戦略や政策を論じたものだ。執筆されたのは07年末だが、その後の危機をほぼ予測している。
今回の危機の根本原因は、古い金融インフラが激増する富の移動を支えられなくなったことにある、と著者はいう。グローバルに拡大する「明日の市場」が、古い金融システムや規制体系などの「昨日の市場」と衝突し、旧秩序を破壊しているのだ。昨日と明日の違いは、第一に経済成長のエンジンが欧米から新興国に移ったこと、第二に金融商品が多様化し、投資銀行やヘッジファンドなどの役割が大きくなったことだ。
新興国のGDPは今や世界の40%以上を占め、その資金が各国の規制を逃れてオフショアの「影の銀行システム」に流れこんだ。それは中身のわからない金融商品に仕立てられ、世界経済の「大量破壊兵器」となった。今回の危機が、ある意味で大恐慌より深刻なのは、このように各国政府のコントロールを超えた資金が問題を引き起こしたことだ。日本の「失われた10年」は国内で閉じた問題で、規模も予想可能だったが、今回はいまだに問題の全容もわからない。
いま起こっている危機は単なる不況ではなく、国際金融秩序が再編される過程だ。昨日の市場の主役だった欧米諸国には新秩序を牽引する力はないが、明日の市場の主役となる新興国にはその準備ができていない。国際金融システムや規制機関に大きな「権力の空白」ができているのだ。
著者がいうように、景気後退のような「重要で緊急の問題」には誰でも気づく。パフォーマンスの差を生み出すのは、長期的な構造変化のような「重要だが緊急ではない問題」にいかに対応するかだ。これは投資家だけではなく、政策担当者にもぜひ心してほしい。
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