糊とハサミで作った「陰謀史観」

藤井耕一郎『通信崩壊』草思社

本書が出たとき、「藤井某というのはおまえの筆名だろう」といわれたことがある。通信業界で、著者の名前はだれも聞いたことがなかったからだ。読ん でみると、たしかに私の『ブロードバンド戦略・勝敗の分かれ目』にそっくりな部分がたくさんある。著者は、何でも屋のルポライターで、特に通信にくわしい わけではない。あとがきにも、正直に「直接取材はほとんどしていないが、糊とハサミで作ったというわけではない」といいわけが書いてあるが、こんな二次情 報の寄せ集めを1冊の本にするというのは、なかなか大した度胸である。

ざっと眺めた感じでは、本書のほぼ1/4が私の本の記述とよく似ている。しかも著作権の問題を逃れるため、巧妙に表現が変えてある。たぶん訴訟を起 こせば、著作権侵害を問えるだろうが、内容があまりにもくだらないので、放置しておいた。ところが最近、私のところに来る記者が「池田さんの話は藤井さん に似ている」などということがあるので、はっきりさせておくが、私の本の出たのは2001年12月、本書の出たのは2002年12月であり、私が本書のま ねをすることは不可能である。

本書が私の本と違うのは、通信の規制改革が米国と結託した孫正義氏の陰謀であり、通信料金の低下は日本を滅ぼす、という安直な「陰謀史観」にもとづ いてストーリーが書かれていることだ。著者は、私の本を半分しか読んでいないらしい。私の本の副題に「情報通信社会主義の崩壊」とあるように、崩壊してい るのは在来のコモンキャリアであり、「ビッグ・クランチ」のあとにはブロードバンドによる新たな「ビッグ・バン」が来るのだ。規制改革は通信業界のためではなく、消費者のためにやるのである。

インターネットのような「汎用技術」(general-purpose technology)によって一時的に市場が収縮するのは、歴史的にも蒸気機関、鉄道、電力など多くの技術革新でみられた現象である。それを避けること はできないし、避けるべきではない。大きな変化のマイナスの側面しか見ないで、そのマイナスを先送りしようと汲々としているうちに、プラスの変化に立ち遅 れてしまう――という日本的な「戦略の欠如」を恥ずかしげもなく1冊の本にしたという点では、記録としての価値はあるかもしれない。

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