国費を投入しなくてもデジタル放送はできる
池田信夫

1961年、FCC(米連邦通信委員会)のミノウ委員長は「テレビは広大な荒れ地だ」という有名な演説を行った。これは広大な周波数帯を占拠して低俗な番組を流すテレビ局への批判だったが、日本の現状はさらにひどい。UHF帯の半分近くは、使われてさえいないからだ。図は、現在のテレビ中継局への電波の割り当てを示したものである。一見、高密度で使われているように見えるが、UHF局の大部分は山間部の0.1キロワット以下の局で、実質的には、UHF帯の300メガヘルツのうち、全国平均で120メガヘルツ(20チャンネル分)以上あいていると推定される。特に首都圏と近畿圏では、ほとんどの家庭が東京タワーや生駒山の広域電波を受信しているので、UHF局は東京メトロポリタンテレビなど数チャンネルしかなく、中継局を入れても数十メガヘルツしか使われていない。

この図で目立つのは、VHF帯が大幅に空いていることだ。これは「テレビ局をすべてUHF帯に移行させる」という旧郵政省の方針によって、1968年以降、新規の免許はUHF帯でしか認めなかったためである。しかしVHF局はUHFへの移行を拒んで計画は失敗した。このUHFへの移行を再び「デジタル化」という名目で行おうというのが地上波デジタルである。しかし、これは総務省のいう「電波の有効利用」にはならない。現在のデジタルテレビ(チューナーを含む)の出荷台数は、放送開始から3年間で約200万台で、当初の目標だった「1000日で1000万台」どころか、BSデジタル局は債務超過の危機に瀕している。電波法では「2011年にアナログ放送は停止する」とされているが、これは不可能である。

今のペースで買い替えが進んだとしても、2011年には国内に1億台あるテレビのうち700〜800万台がデジタル対応になる程度である。そんな状態でアナログの電波を止めたら、テレビ局はすべて倒産するだろう。海外でも、米国のデジタル放送は、放送開始から5年たっても普及率は3パーセントそこそこで、「2006年にアナログ放送を停止する」という当初の目標の達成は不可能である。したがって日本でも、2010年ごろになって電波法が「2020年には止める」などと改正されて先送りされ、結局はVHF・UHFの両方をふさぐ結果に終わるだろう。デジタル化は、有効利用どころか、非効率に使われている電波の「広大な荒れ地」を増やすのである。

こうした絶望的な状況の中で、アナログUHF局の周波数を変更する「アナアナ変換」が始まった。その資金負担に耐えられない地方民放を救済するため、1800億円の「公的資金」が投入されようとしているが、実はアナアナ変換は必要ないのである。VHF帯には、たとえば東京では2チャンネルや5チャンネルのように、電波を出さない「ガードバンド」がある。これは昔の選択度の低いテレビのために設けられたもので、現在のテレビでは必要ないので、ガードバンドでデジタル放送を行うことができる。

問題は、既存のVHF局(たとえば静岡のNHKは2チャンネルで放送している)と電波が重なる地域で、デジタルからアナログへの干渉が起こることだが、これはデジタル放送の出力を落とせばよい。「モバイル放送」の方式であるQPSKという伝送方式を使えば、出力を現在の方式(64QAM)の1/4に落とすことができるので、アンテナの指向性とあわせれば、電波の重なる地域でも干渉は防げる。伝送量は1/3の8メガビット/秒に落ちるが、モバイル放送で採用される予定のH.264という画像圧縮技術を使えば、3メガビットあればHDTV放送ができる。

これならアナアナ変換をしなくても、すぐデジタル化が始められる。たとえば日本テレビは5チャンネル、TBSは7チャンネルというように隣のチャンネルを使え、家庭のアンテナも中継局も今のままでよいので、コストも大幅に削減できる。これによってテレビ局をすべてVHFに集約すれば、空いたUHF帯をすべて携帯電話などに開放できるので、1800億円ぐらいの公的資金は正当化されよう。300メガヘルツを周波数オークションにかければ、1兆円以上の国庫収入が上がるからだ。VHF帯でデジタル放送を行う計画は、地上波デジタル協議会でも検討されたが、ガードバンドを使っているケーブルテレビへの「飛び込み」が起こるなどの理由で見送られたという。しかし、これはケーブルテレビのコネクタをシールドすればよく、アナアナ変換にかかる膨大なコストとは比較にならない。障害になっているのは、関係者の面子だけである。

アナアナ変換は、問題の始まりにすぎない。デジタル化にはさらに1兆円以上の投資が必要だが、デジタル化しても広告収入は増えないので、銀行の融資は受けられない。地方民放の集約も進まないので、今のまま計画を強行しても、資金ぐりがネックになって、デジタル化が行き詰まることは必至である。12月から「本放送」を始めて後に引けなくなる前に、デジタル化計画を再検討してはどうだろうか。

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