「失われた10年」の本質は生産性の低下だったことを明らかにする

林文夫編 『経済停滞の原因と制度』 勁草書房

英語に「街灯の下で鍵を探す」という表現がある。鍵を落とした所が暗いので、明るい街灯の下で探すという笑い話だが、90年代の「失われた10年」をめぐる論争もこれに似ている。そこでは、なぜこのように長期にわたって不況が続いたのかという原因がわからないまま、インフレ目標などの対症療法が提案された。

これは本末転倒である。必要なのは、まず鍵をどこに落としたかを考えることであり、それには90年代の日本経済についてのミクロ的な実証分析が必要だ。本書は、そうした精密な実証研究を集めた3巻の論文集の第1巻である。非常に専門的なので、一般向けではないが、日本のマクロ経済学の最新の到達点を示している。

中心的なテーマは、全要素生産性(TFP)だ。これは経済成長から資本・労働投入の増加を差し引いた生産性を示す指標で、技術進歩だけではなく、資本と労働が生産性の低い部門から高い部門に移動する効果も含まれる。

本書の結論は、90年代に日本の成長率が低下した主要な原因はTFP成長率の低下にあるというものだ。資本効率が90年代に低下したのは、債務超過なのに銀行からの追い貸しで生き延びた「ゾンビ」企業に資金が滞留したためと考えられ、労働生産性が低下したのは、長期雇用による「労働保蔵」で業績の悪化した企業からの労働移動が妨げられたためと考えられる。これらの仮説は、本書で実証的に確かめられている。

不況を長期化させた要因としては、90年代後半の信用収縮によるデフレと、それに対する日銀の対応が遅れたことも見逃せない。しかし金融政策によってデフレをやわらげることはできても、不況を止めることはできなかったというのが本書の結論だ。

長期不況の本質が生産性の低下にあるとすれば、バブル崩壊は資本・労働をIT産業などの成長性の高い部門へ移動して生産性を高めるチャンスだったが、不徹底な不良債権処理によって日本はそのチャンスを逃してしまった。今後、成長率を回復するには、あらためて生産性の向上に取り組まなければならない。まさに「構造改革なくして成長なし」なのである。 

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