「ポスト産業資本主義」に日本経済が復活するためには企業買収が必要だ

岩井克人・佐藤孝弘『M&A国富論』プレジデント社

昨今の金融危機で「投資銀行は終わった」とか「アングロサクソン資本主義はだめだ」という類の議論が盛んだ。しかし平均株価の下げ幅が主要国で最大だったのは、米国ではなく日本だ。それは外国人投資家が資金繰りのために投資を引き上げたためだけではない。米国経済に依存している輸出産業が打撃を受け、しかもそれに代わる中核産業が育っていないからだ。米国企業の時価総額ベスト10に入っているマイクロソフト、シスコ、グーグルは、すべて30年前には存在していなかった。他方、日本のベスト10に入っている企業で最も若いのは、今年50歳のソニーとホンダだ。  

このように老化した企業が資本効率を低下させ、日本経済の生産性を下げている。新陳代謝を起すには、ベンチャーキャピタルが新企業に資金を供給するだけでなく、古い企業を再編して資本効率を上げる企業買収・合併(M&A)が必要だ。これが投資銀行の本来業務である。派生証券で利鞘を稼ぐビジネスは破綻したが、企業再編によって価値を創造するビジネスは、これからますます重要になる。ところが日本では、財界が「三角合併」の妨害を画策したり、経産省の北畑事務次官(当時)が「株主はバカで浮気で無責任」と発言するなど、株主資本主義に対する拒否反応が強い。  

本書は、こうした「資本鎖国」をたしなめる一方、村上ファンドなどの「株主至上主義」も批判する。会社は株式としての側面と、法人としての側面をもつ「二階建て」の構造になっているからだ。特に「ポスト産業資本主義」になると、人的資源が会社のコアになるので、敵対的買収は人材を流出させ、企業価値を毀損してしまうことが多い。こうした現状を踏まえて、本書は敵対的買収に関するルールを提案し、種類株式の導入を提言している。種類株式が望ましいかどうかについては経済学者に異論も多いが、日本で(敵対的買収も含めて)企業買収を促進すべきだという主張は、こういう時期だからこそ重要である。

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