コンピュータ業界を勝ち抜いた「偉大なエゴイスト」の半生

ジェフリー・ヤング&ウィリアム・サイモン『スティーブ・ジョブズ:偶像復活』東洋経済新報社

本書の原著は昨年、アップル・コンピュータ社が出版を差し止めようとしたが、出版社(ワイリー)が拒否したため、アップル・ストアからワイリーの本がすべて撤去される騒ぎとなり、これがかえって話題を呼んで全米でベストセラーになった。しかし、その内容は特にスキャンダラスなものではなく、アップルの共同創立者スティーブ・ジョブズの劇的な半生を、バランスをとって描いている。

とはいえ、主人公がとてもバランスのとれた人物とはいえない。たとえば、ジョブズは億万長者になってからも、最初の恋人に生ませた子供を認知せず、彼女は生活保護を受けなければならなかった。また彼は、自分の使っているホワイトボードに他人が書き込もうとしただけで激怒して罵倒し、その相手は退社した。

他方、ビジネスは結果がすべてだとすれば、ジョブズは勝者である。ガレージから出発して世界有数のコンピュータ・メーカーを作り、そこから追放された後、アニメーション会社「ピクサー」で世界初のフル3次元コンピュータ・グラフィックス映画を作って成功した。そして再びアップルに経営者として迎えられ、iPodなどのヒット商品を生み出した。コンピュータと映画と音楽という3つの分野で成功を収めた経営者は、他にはいない。

ジョブズの成功と失敗に共通する原因は、彼のエゴの強さである。これが数々の独創的な商品を生み、エゴイズムの渦巻くハリウッドで大物と対等にわたりあう交渉力の源泉となった。他方、それが多くの優秀な(ジョブズに従わない)技術者を失い、「ネクスト」のような美しいが売れないコンピュータを作り出す結果ともなった。日本のベンチャー企業に欠けているのは、良くも悪くもこのエゴの強さだろう。

本書は、企業戦略や技術にはあまり言及していないので、ビジネス書としては物足りない。また、アップルについての本はこれまでにもたくさんあり、本書にはその孫引きと思われる部分もある。しかし個性的な起業家の一代記としては、おもしろく読める。

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