イスラムを単なる「宗教」としてではなく「社会原理」として理解する

小杉泰 『イスラーム帝国のジハード』 講談社

米国の対イラク戦略は、完全に挫折した。反政府テロは「内戦」に拡大し、米軍撤退の展望も見えず、ラムズフェルド国防長官は更迭された。この最大の原因は、イスラムを非合理的な宗教として軽視し、経済援助をすれば簡単に欧米的な合理主義を移植できると考えたブッシュ政権の自民族中心主義にある。

その根底には、宗教は経済的な「下部構造」に支えられるイデオロギーであり、下部構造を変えれば社会全体が変わる、というネオコン(新保守主義)の発想がある。これは、彼らが(その出身母体である)マルクス主義から継承した思想だ。

しかし本書も指摘するように、イスラムは単なる宗教ではなく、「社会原理」としてのウンマ(共同体)を統合する、政治から日常生活に至るルールの総称である。イスラムがかつて民族を超えた大帝国を築くことができたのは、このような法的=精神的な結束の強さが、軍事的にきわめて強力だったからだ。

だが、こうした宗教的統合に依存した帝国は、大きくなりすぎると求心力が弱まる。末期のオスマン帝国は、宗教も言語もバラバラだった。イスラムが衰退したのは、それよりも強力な軍事共同体である西欧の主権国家に敗北したからである。主権国家は、キリスト教から科学技術を分離して強力な武器を開発し、宗教に依存しない民族主義(ナショナリズム)によって兵士の士気を維持した。

今日、アラブでイスラムが再び勢いを増しているのは、民族主義が崩壊したからだ。イスラエルとの紛争に敗れてアラブ民族主義が分裂したとき、民族を超えて欧米世界への反抗を訴えるイスラムが、貧困に苦しむ人々を束ねる唯一の社会原理として力を増してきたのだ。

だからアル=カイーダを単なるテロ集団と考えるのは正しくない。その背景には、欧米諸国によって分断され、貧富の格差が拡大する中東の現状への人々の怒りがある。これを是正することは、もちろん容易ではないが、著者のいうように、まず大事なのは彼らを理解し、対話することだろう。

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