「地球環境バブル」の負の遺産、京都議定書をどう軌道修正するか

澤昭裕・関総一郎『地球温暖化問題の再検証』東洋経済新報社

政策を考えるとき注意が必要なのは、その価値は他の政策との「相対評価」で決まるということだ。地球温暖化を防ぐことに反対する人はいないだろう が、そのための「京都議定書」を実施するコストは、全世界で最大一兆ドルにのぼり、この経費をエイズなどの感染症対策に使えば年間数百万人の命が助かる。 専門家は、自分の扱う問題を絶対視しがちだ。気象学者が温暖化を人類の最大の脅威だと思いこむのは自然だが、日本では経済学者まで温暖化で人類が滅亡する かのように騒ぎ、「二十世紀型工業文明の転換」なるものを唱えている。

こういう一時流行したバブル的な議論は、温暖化対策の経済的影響を無視している。本書は、経済産業省を中心とする環境問題の専門家が、京 都議定書の採択の過程を検証し、議定書を実施した場合の日本経済への影響を予測したものだ。京都議定書の温暖化ガス排出量は、科学ではなく政治によって決 められたものだ。一九九〇年が基準とされたのは、旧東独の加入でEU(欧州連合)の排出量が大幅にふくらみ、これを基準にすれば削減が容易だったからだ。

ところが日本は、九〇年までに省エネが進んでいたため、それより六%低くするには、あと六年で温暖化ガスを二四%も削減しなければなら ず、それによってGDP(国内総生産)は五%低下する(第5章)。最終エネルギー消費を五%減らすには、エネルギー価格を三〇%以上引き上げる必要があ り、国民生活に大きな影響が出ることは避けられない(第6章)。世界の排出量の1/4を占める米国と半分近くを占める途上国の入っていない京都議定書に は、温暖化を防止する効果はほとんど期待できない。おまけに数値が達成されなかった場合の制裁措置は、具体的には決まっていない。この条約は、疑問だらけ なのである。

ただ本書は、京都議定書を批准した政府の立場に配慮してか、歯切れが悪いのは残念だ。京都議定書をめぐる政治的交渉について三章もさきな がら、その科学的な「再検証」は行われていない。第1章では、議定書の根拠とするIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の予測について多くの疑問を呈 しながら、曖昧な表現で政府の方針を追認している。しかし最近の研究では、IPCCの経済モデルには欠陥があることが指摘されている。途上国の成長率が過 大に想定され、今世紀末には途上国の一人あたり所得が先進国と同じになると仮定されているのだ。

考え直すのは、まだ遅くない。ロシアのプーチン大統領は、京都議定書の批准に否定的な意向を表明している。ロシアが批准しないと、先進国 の排出量の五五%という条件は満たされず、議定書は発効しない。地球温暖化は人類の存亡とは関係なく、ゴミ問題のような経済問題にすぎない。数値目標を設 定するような緊急性はないので、課税などの通常の政策で国際協調をはかればよい。日本も、あらためて京都議定書の費用対効果を冷静に議論し、それを軌道修 正する道をさぐってはどうだろうか。

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