ビョルン・ロンボルグ『地球と一緒に頭も冷やせ!』
洞爺湖サミットでピークに達した地球温暖化をめぐる騒動は、子供のころ読んだ漫画を思い出させる。ある日、火星人が地球を侵略し、各国が団結して闘う。地球防衛に異を唱える人はいない。現実の政治でそんなコンセンサスが成立することはまずないが、温暖化は火星人襲来のような人類存亡の危機と多くの人々に受け止められているようだ。
本書は、そういう通念に冷水を浴びせる。内容は著者の大著『環境危機をあおってはいけない』(文藝春秋)の温暖化についてのダイジェスト版だが、前著で疑問があると指摘していたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の結論を、本書ではあえて前提にして、その対策としての京都議定書の経済効果を批判する。
地球環境は、自然科学の問題ではない。IPCCの結論が正しいとしても、1兆ドル以上かかる京都議定書の経済効率は最悪だ。たとえば270億ドルあれば、2400万人がエイズで死亡するのを防げる。全世界で毎年400万人が餓死しているが、120億ドルあれば餓死は半減させることができる。しかも京都議定書の効果は、IPCCの楽観的なシミュレーションでも、2100年に気温が3度上がる(かもしれない)のを5年ほど先送りできるだけだ。
農産物の輸出補助金を廃止するだけで、途上国に2.4兆ドル援助するのと同じ効果がある。洞爺湖サミットで論じるべきだったのは地球温暖化ではなく、先進国の豊かな農民に補助金を出して農産物を低価格で輸出し、途上国の農業を壊滅させている農業保護政策を廃止することだったのだ。
たとえ温暖化ガスを削減することに意味があるとしても、これを「排出権取引」によって行なうことには、世界の圧倒的多数の経済学者が反対している。日本が洞爺湖サミットで、欧州の圧力に負けないで、この問題を先送りしたのは正解だった。地球温暖化対策をやるとしても、環境税のような形で徐々に導入するのが賢明だ。
訳書の欠点は品のない邦題と訳文だが、それを我慢して読めば、メディアの過熱報道に対して頭を冷やす効果はあろう。