池田信夫の一刀両断 第36回(PC Japan 2007年8月号)

携帯電話メーカーは「開国」できるか

不振といわれる日本のIT産業の中で,携帯電話は数年前まで高い成長を続け,若者文化にも大きな影響を与える産業になった。しかし世界の携帯端末市場の中で見ると,国内メーカーの状況は惨憺たるものだ。図のように,トップメーカーのNokia(フィンランド)のシェアが1/3以上もあるのに,日本のメーカーは(外資と合弁のSony Ericsson Mobile Communicationsを除くと)11社合わせて9%しかないのである。

●なぜ日本の携帯電話は国際競争に勝てないのか

  この最大の原因は,前にこのコラムでも取り上げたように,第2世代携帯電話の標準化の際に日本がPDCというNTT規格に統一したことだ(2006年11月号の当コラム参照)。その結果,国内の携帯電話メーカーは,日本でしか売れないPDCの端末を作り続け,GSMが世界標準(シェア約80%)となった携帯電話の世界市場から取り残されてしまったのだ。
携帯電話端末の世界市場シェア(総務省調べ 2006年)
 

第3世代携帯電話では,この状況を打開しようと日本も世界標準のCDMAを採用したが,シェアは低いままだ。これは,日本では端末の開発から販売まで携帯電話事業者(キャリア)がコントロールする「垂直統合」の構造になっていることが原因だ。端末にカメラやワンセグなどの新機能が次々に追加され,端末1機種あたりの開発費は100億円から150億円と言われる。これは海外メーカー製端末の3倍から5倍という巨額なコストだが,メーカーはキャリアの言う通り作る。どんなに高くても,製造した端末はキャリアが全量買い取ってくれるからだ。  

最近の携帯端末の適正な単価は,5万円から8万円と言われるが,販売店では1万〜2万円くらいの価格で売られている。旧機種には「0円」で売られているものもある。これはキャリアが販売店に,端末が1個売れるごとに「販売奨励金」を出しているからだ。その平均は約4万円と言われ,キャリアはこの奨励金を毎月の通信料金に上乗せしてユーザーから徴収しているわけだ。  

このような特殊な流通機構のせいで,メーカーはキャリアに言われた通り過剰品質の端末を開発することに慣れ,自主開発力が低下してしまった。しかも,いくら高コストでもキャリアが買い取ってくれ,しかもそれが販売奨励金で割安に見せかけて売られるので,コスト意識が薄れ,海外の市場で通用しない異常に高機能・高コストの端末ばかり開発されるようになってしまったのだ。  

さらに「SIMロック」によってユーザーが端末を自由に選べないようになっているため,海外メーカーの端末が参入できない。こうした非関税障壁に守られて,日本の携帯電話メーカーは「パラダイス鎖国」を楽しんできたわけだ。競争があまりないから,世界市場では携帯電話メーカーの統合・淘汰が進んで主要な業者は5社しかないというのに,日本では11社もある。

●垂直統合モデルの撤廃で進む携帯電話メーカーの再編

そうした中,総務省は昨年末から「モバイルビジネス研究会」という有識者の会合で,日本の携帯電話のビジネスモデルがこのままでよいのかという検討を始めた。もともと携帯電話のようなマイクロエレクトロニクスは日本の製造業のもっとも得意とするところであり,特に無線通信は今後も高い成長の期待できる戦略部門である。その分野で,世界市場で1割のシェアも取れないという現状では,今後の日本の産業全体にも大きな影響が出る恐れがある。  

その研究会の報告書が6月に発表されたが,その内容は販売奨励金やSIMロックをやめ,海外の端末が自由に日本市場に参入できるようにすべきだ,というものだった。これに対してのパブリックコメントが8月に発表されたが,キャリアの抵抗は意外に弱く,「いずれはそういう方向に転換することは避けられない」という共通認識が見られた。  この背景には,キャリア自身も販売奨励金が重荷になっており,やめたいのだが,販売店とのしがらみでやめられないという事情がある。ソフトバンクモバイルが始めた「スーパーボーナス」は,端末の割引分を割賦販売として明示するもので,販売奨励金をやめる一歩前の段階と見ることもできる。  

ただ販売奨励金をやめても,月額料金が安くなるぶん端末が高くなるだけで,ユーザーにとってそれほど大きな負担減になるわけではない。むしろ一般ユーザーにとっては,SIMロックをやめ,端末が自由に選べる効果のほうが大きいのではないか。ヨーロッパやアメリカでは,低機能の端末は数十ドルで売られている。通話にしか使わないユーザーにとってはこれでも十分だし,逆に海外で普及している「ブラックベリー」のようなPDA型の通信端末も日本市場に参入してくるだろう。  

それより重要なのは,垂直統合型のビジネスモデルが崩れることで,日本の携帯電話メーカーが国際競争にさらされるということだ。世界の市場に5社しかないのに,その1割の市場で11社も生きていけるわけがない。特に開発経費がここまで巨大になると,下位メーカーの存続は困難だ。端末部門を切り離して他社に売却するなり,外資と合併するなりして,規模の経済を追求する必要がある。かつて,こういう産業の再編は通産省がやってきたが,これからは資本市場を通じた買収・合併で行うべきだ。

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