「親指族」や「ユビキタス」は、新しい社会革命をもたらすか

ハワード・ラインゴールド『スマートモブズ』NTT出版

最近、電車の中で化粧をする若い女性が増えた。これは何かに似ているな、と思ったら、携帯電話でメールを書く姿とそっくりだ。また本書も指摘するように、約束の時間にルーズなのも最近の若者の特徴だ。遅刻は当たり前で、直前に携帯電話で「今××にいるから、あと何分」という連絡が入る。よくいえば時間・空間に拘束されないで「自律分散」的に行動できるようになったのだろう。

ネットワークは、このように若者の行動様式を変え、社会に影響を与えている。ユーザーを直接むすぶピア・トゥ・ピアは、音楽ファイルだけではなく世界のパソコンを結んでスーパーコンピュータを実現する。バーコードの代わりに商品につける「無線タグ」など、ユビキタス(遍在的)なネットワークが、全世界のユーザーを結びつけて「次の社会革命」(原著の副題)をもたらす、というのが本書の主張である。

著者は八月に来日し、「ネットが韓国の大統領候補を当選させ、フィリピンの大統領を追放した」とその力を賞賛したが、こういう動きが本物の暴徒(モブ)になったらどうするのだろうか。それは「評判」によって解決できる、と著者はいう。たとえばネット・オークションにはメンバーを中央集権的に監視するシステムはないが、詐欺の被害にあった人は、その情報をデータベースに記録し、評判の悪い人にはだれも売らなくなる、という形で自発的な協力によって秩序が維持されている。

これはゲーム理論でよく知られているが、評判の有効性は実際にはそれほど一般的なものではない。オークションのようにメンバーを特定できる場合には有効だが、掲示板や迷惑メールなどの匿名の迷惑行為を防ぐことはできないし、メンバーが不特定多数のときには役に立たない。評判によって秩序を維持するには、日本の会社のようにメンバーを組織にしばりつける「ムラ」的なしくみが必要だが、それは著者の思っているほど快適なものではない。

中央集権的な管理なしで「創発」的に秩序が形成されるという類の話は、かつて「複雑系」と称して流行したが、現実にはインターネットの秩序はプロバイダーによって維持されており、個人によって「自己組織」されているわけではない。著者のいうように、いま通信の世界で最も重要な課題は、電波を無線インターネットに免許なしで開放することだが、干渉を防ぐには政府が無線機器の認証や違法電波の摘発をしなければならない。意識的に管理されない社会秩序というのは幻想であり、実際には「反グローバリズム」のデモのような暴徒になるだけだ。

本書は、モバイル・ネットワークについての最近の話題を当事者に取材した読み物としてはおもしろいが、文明論としては陳腐である。現実には「モバイルな多数者が世界を変える」どころか、最近の「知的財産権」や「個人情報保護」強化の動きをみると、インターネットをめぐる状況はむしろ悪化している。いま重要なのは、こうした国家の介入からインターネットの自由を守ることだろう。

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