ジョン・ロバーツ『現代企業の組織デザイン』(NTT出版)
日本経済は「失われた15年」を抜け出す出口がようやく見えてきたようだ。しかし、これを景気循環だと考えると、その長さと深さは理解しがたい。これを克服したのは「小泉構造改革」だ、というのも短絡的だろう。その原因は、著者も日本語版序文で指摘するように、「一時は環境に適応していた日本の企業モデルが、環境の大きな変化に適応できなかった」ことによると考えられる。
こうした問題を経済学で分析することはむずかしい。新古典派理論では、企業は内部構造をもたない個人商店のような存在と考えられているからだ。しかし、ここ10年ほどの間に、企業についての経済理論は急速に発達した。本書はそうした新しい企業理論の成果をコンパクトにまとめたものだ。
本書のエッセンスは、第2章「組織デザインの主要概念」にまとめられている。そこでは「補完性」や「非凸性」などの概念で組織を分析している。たとえば日本企業が高い競争力を発揮した自動車・家電などの分野では、生産要素の補完性が強く、複雑な共同作業の整合性(コヒーレンス)が重要で、一つの要素の水準だけを引き上げても全体の水準は上がらない。
しかし社内の調整では対応できない環境変化もある。高い山と低い山があるとき、低い山の頂上でいくらがんばっても高い山の頂上にはたどりつけない。このように「局所的最適」な点が複数ある(凸凹した)環境を「非凸」の集合とよぶ。この凸凹の中で、どこが「大域的最適」であるかを見きわめるのが企業戦略だ。
日本の企業の意思決定は内向きで、社内のコヒーレンスは大事にするが、環境変化に社内の調整で対応しようとする傾向がある。しかし大局的な環境変化を見極め、一時的にコヒーレンスを断ち切ってでも改革を行うことが経営者の仕事なのである。 本書は、こうした理論を展望するとともに、それを多くの具体的な企業のケースで検証しており、企業戦略を系統的に考えようとするビジネスマンには参考になろう。