今もっとも重要な地球的課題に挑む「臨床経済学」

ジェフリー・サックス 『貧困の終焉』 早川書房

現代の世界で最も重要な問題は何だろうか? 地球温暖化を挙げる人がいるかもしれないが、温暖化で死んだ人はいない。テロを挙げる人もいるだろう。たしかに9・11では、3000人余りの人命が失われた。しかし、毎年800万人以上の人々が感染症で死亡していることを、どれほどの人が知っているだろうか。

人命を基準にする限り、最大の問題は途上国の感染症だ。中でもエイズとマラリアだけで、それぞれ毎年300万人が死亡している。これらの病気には治療法があるのに、医療施設がないために多くの人命が失われているのだ。したがって、その根底には絶対的貧困の問題がある。

本書は、国連のアナン事務総長の特別顧問として、こうした問題に取り組んでいる著者が、これまで歩んだ道をたどったものだ。それは、彼が専門とする開発経済学を応用する「臨床経済学」の実践でもある。国連が2000年に発表した「ミレニアム開発目標」は、15年までに飢餓人口の比率を半減させるなどの目標を掲げた包括的なプロジェクトだが、その実現は不可能ではない。先進国がGNPの0.7%を途上国援助にまわせばよいのだ、と著者は主張する。

しかし専門家や政治家には「途上国への援助は、腐敗した政治家の隠し財産になるだけだ」といったシニカルな見方が多い。それに対して著者は、援助の水準があまりにも低いことが、効果の出ない最大の原因だと反論する。たとえば米国の途上国援助予算は、軍事予算の30分の1だ。

著者の情熱とヒューマニズムには、だれしも脱帽するだろうが、途上国援助への批判がすべて人種的偏見であるかのような主張には、いささか鼻白む。また「反グローバリズム」のデモに理解を示す姿勢には疑問がある。

最近は、本書に序文を寄せたボノ(ロック・シンガー)やビル・ゲイツ(マイクロソフト会長)などの著名人が感染症対策に多くの寄付をすることで、問題の所在が認識され始めた。これが一時の流行に終わらないためにも、各国政府の努力が必要である。

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