スザンヌ・スコッチマー『知財創出』日本評論社
最近、日本政府は「知的財産立国」を国家戦略に掲げている。政府は「知的財産権を強化すればするほど経済力が上がる」と思っているらしいが、本書は、そうした理解が一面的であることを経済学の立場から明らかにしている。
もともと特許も著作権も、特定の業者に王が「特許状」を与えて既得権を守る制度だった。こうした私的な特権は近代化とともになくなったが、特許と著作権だけは「インセンティブ」を理由にして残った。しかし特許によって、創造性が高まったのだろうか。実証研究の結果では、全体としての効果はプラスマイナスゼロに近い。技術を守る方法としては企業秘密のほうが有効で、特許は「他の企業に取られたら困るから取る」という面が強い。
最近の特許は、町の発明家が思いつくものではなく、多くの先行技術を踏まえて企業が出願するものだ。したがって特許が技術の累積的な進歩を阻害する効果も大きい。特にソフトウェアに特許を認めると、アイコンのようなありふれたものまで使えなくなる。世界の流れも変わった。欧州議会は2005年にソフトウェア特許を創設するEU指令を否決した。米国でも、使うあてのない特許を取得して巨額の賠償金を取る「パテント・トロール」と呼ばれる悪質な業者が増え、米政府は特許条件の厳格化に方向転換した。
目的は創造性を高めることであって「知財」を増やすことではない(だから邦訳の題名はおかしい)。歴史的には、すぐれた発明には賞金を出し、成果は一般公開する制度のほうが古い。現在でも、政府の科学技術助成などは賞金制度の一種だ。邦訳の巻末には、監訳者による日本のイノベーションについての章が加えられているが、近代以前にも「座」などの形で情報を共有していた。
本書は少しテクニカルだが、一般読者にもわかるよう工夫して書かれている。少なくとも一方的に「知財強化」を求める圧力団体の主張に学問的根拠がないことだけは、普通のビジネスマンにも知っておいてほしい。