宇野重規『トクヴィル 平等と不平等の思想家』 講談社
トクヴィルの『アメリカのデモクラシー』(岩波文庫・講談社学術文庫)は、フランスの貴族が約200年前に書いた米国の旅行記だ。古典としてはだれでも名前を知っているが、文庫で全4巻、合計2000ページ近くに及ぶ大著を読破した人は少ないだろう。
本書は、これを現代の米国を理解する手がかりとして読み解く。ブッシュ政権の異様な軍事・外交路線をネオコンなどの影響で語る人が多いが、その源泉は、実はトクヴィルの見た建国当時の米国にすでに芽生えているのだ。
トクヴィルは米国の「条件の平等」に強い印象を受ける。これは所得を同じにするといった「結果の平等」ではなく、すべての人々に同じチャンスがあるという個人の対等性だ。デモクラシーも単なる「民主政治」ではなく、対等な個人からなる階層なき社会だ。トクヴィルの母国には革命後も貴族や教権の特権が残っていたが、そういう欧州から来た彼の目には、米国はまったく新しい原理にもとづく社会と映った。
トクヴィルは、この傾向はフランス革命のような「人権」の追求の結果ではなく、富が蓄積されて多くの人々に生産手段が行き渡るにつれて必然的に生じる「文明化」の帰結と考えた。このように既得権から自由な人々の形成する地域共同体は、合理的で透明であり、統治機構としては理想的だ。
しかし、このように社会的紐帯から切り離された抽象的個人は、その孤独に耐えることができるだろうか。この点についてトクヴィルが注目したのは、米国がきわめて宗教的な国であり、教会が人々の精神的共同体になっていることだ。しかし合理的個人がこのような非合理的共同体にアイデンティティを求めざるをえないところに、彼は米国のはらむ不安定性を感じ取っている。
こうみると、トクヴィルの見た米国の光と影は、今日の米国の状況をほとんど予言しているようでもある。そして著者が付け加えるのは、こうした米国という特殊な国の自由と不安をそのまま世界規模に拡大したのがインターネットだということである。