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Kabuki Syndrome Network in Japan Newsletter 歌舞伎ジャーナル  第103号

<<平成23年5月5日>>

  歌舞伎症候群の責任遺伝子について

 「歌舞伎症候群の責任遺伝子特定」についてもう少し詳しく記載します。

New Genetic Discovery!

  前書き

  歌舞伎症候群は発見以来あまたの論文が発表されてきました。その内容は、論文をほとんど読む機会のない保護者にとっても直接的、間接的にとても有用なものでした。その中で欠けていたのは、原因に関するものでした。それも2010年8月に責任遺伝子が同定され、これも解決しました。しかしこれは単なる一里塚に過ぎず、今後より有効な治療方法や対処方法が期待されます。そういう思いでこの記事を書きました。

  なお、今回の「歌舞伎症候群の責任遺伝子特定」で世の研究者から注目されている点があります。それはこの発見が次世代解析法の「エクゾーム・シークェンス」による最初の発見であること。そして今後、希少で且つ原因不明の多くの疾患に応用が期待されることにあります。

 ※エクゾーム・シークェンス(Exome sequencing)…ヒトゲノムの全塩基配列からタンパク質をつくるのに必要なエクソン部分だけを集めこれを解析する。メリットは全ゲノムの中にエクソン部分は1%程度しか存在しないため、経費が安価で済むことにあります。

1.人の体〜染色体

 人を構成している全細胞数は約60兆個あるという説があります。そのうち身体を作る細胞全部の核に通常22対の常染色体と2個の性染色体の合計46本の染色体があります。(図1参照)

  染色体の番号は、性染色体を除いて、大きいほうから1番、2番・・・22番と付番されています。

図1

 染色体は、遺伝子からなっています。遺伝子は遺伝情報を出し、環境の影響を受けながら身体を作っていきます。

2.染色体〜遺伝子〜塩基

(1)遺伝子

 染色体は、約35,000の遺伝子より成り立ち、また、遺伝子はDNAにより構成されています。(図3参照)

(2)遺伝子の「構成的異常」と「数的異常」

  ―前者は、一つの染色体(あるいはより多くの)が壊れたことを意味します。ケースとしては、図2(猫泣き病の模式図)のように染色体の一部が欠損しているとか、欠損した部分が他のところに付着しているとか、上下逆になってるというようなケースもあります。そのことにより、ある種の障害を引き起こすことがあります。

 後者の場合は、染色体の数が46本でない場合です。すなわち、染色体のペアの片方が"もう一つある"かあるいは"無い"(情報量の過大又は過少)状態です。そのことにより、正常な身体機能と成長に問題を引き起こします。ダウン症候群は21番染色体が3本あるケースが多いようです。

 歌舞伎症候群には「構成的異常」と「数的異常」の染色体異常という人は見つかっていませんでした。歌舞伎症候群は、1つ以上の遺伝子の削除あるいは遺伝子セクションの欠損によると信じられていました。

(3)塩基

  一本の染色体の中には平均して1億の塩基が並んでいます。これを真直ぐに伸ばすと直径が2nm、長さが約3.4cmの糸となります。ヒトの場合、通常、一つの細胞の中には46本の染色体が存在します(染色体を全部つなぎ合わせても0.2mmに満たない)が、DNAを全部つなぎ合わせると約2mにもなります。これが直径5ミクロンの細胞核の中に折り畳まれています。(図3参照)

  遺伝子は、DNA(デオキシリボ核酸)から構成されます。DNAは4種類の塩基、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)からなります。  A、T、G、Cは、3文字でひとつのアミノ酸を表す暗号文字になっています。後述するように塩基の並び方で生成されるアミノ酸は異なり、アミノ酸の種類は約20種類となります。そして、アミノ酸からタンパク質が作られます。タンパク質は、筋肉やホルモンなどをつくる機能をもっており、わたしたちが生きていく上で欠かせない物質です。

図2  図3

3.歌舞伎症候群の責任遺伝子

(1)責任遺伝子

  2010年8月に発表された「歌舞伎症候群の責任遺伝子の同定」について、米国の文献の翻訳を中心にもう少し詳しく記したいと思います。

  まず、歌舞伎症候群患者の約70%にMLL2遺伝子の変異が認められたとされています。MLL2遺伝子の役目としては多くの臓器や体の組織をつくる遺伝子と紹介されています。

  @MLL2遺伝子はどの染色体のどの部位に存するか。※1

  細胞遺伝学的場所: 12番染色体のq12-14

        分子場所:塩基49412757〜49449106 図4参照

 

図4MLL2.jpg

(2)MLL2遺伝子にどのような変異(mutation)があるのか ※2

  原文では(突然)変異を次の2種類Nonsense Mutation or Frameshift Mutation としています。

  (a)Nonsense Mutation…DNA1塩基が他のDNAに突然変異する…本来生成されるべきアミノ酸が生成されない。

  図5は歌舞伎症候群の塩基の並びを示した例ですが、3つの塩基の並び方の違いで、作られるアミノ酸が変わってきます。しかし、3つ塩基が並べばすべてアミノ酸が作られるわけではなく、図6の「生命のルーレット」にあるように「STOP」してしまう並びかたもあります。

 再度図5を見るとT-A-Gとなり、アミノ酸のつくりがストップしてしまいます。歌舞伎症候群にはこの突然変異があります。

  図6の「生命のルーレット」の使い方は、円の中心から外側へ連続する3つの塩基をあてはめると、生成されるアミノ酸の種類が判別できます。T-A-Gの場合は「ストップ」となり、G-G-Aの場合は"Glycine"というアミノ酸が生成されます。

図5nonsense     図6生命のルーレット01.JPG

 (b)Frameshift Mutation…DNA1〜2塩基が配列の途中で欠失してしまうDNA突然変異…本来生成されるべきアミノ酸とは異なるアミノ酸の生成

  図7は上下に同じ塩基の並び方を示していますが、本来作られるべきアミノ酸がFrameshift Mutationにより、本来作られるべきアミノ酸とは別のアミノ酸が作られる突然変異(図6参照)も歌舞伎症候群にあります。

図7 frameshift

  (3)歌舞伎症候群のMLL2遺伝子変異はどう報告されているか

  2010年8月に発表された論文では、10人の歌舞伎症候群の患者のうち、7人に「MLL2遺伝子変異」があるとしています(70%という値は、ここから出ているものと想像します)。残り3人について"Sanger sequencing"を行ったところ2人にMLL2遺伝子変異があったとされています。その後43人の患者に追認テストが行われたと報告されています。その結果、53人中35人にMLL2遺伝子変異があったとされています(66%)。

  「MLL2遺伝子変異」は1つのパターンだけではなく、次の4種類で、最初の7人のうち、1番目と3番目と4番目が2人とされています(原文のまま。アンダーラインは変異の位置)。

  .0001 KABUKI SYNDROME [MLL2, ARG5179HIS ]

  In 2 unrelated patients with Kabuki syndrome (147920), Ng et al. (2010) identified a 15536G-A transition in the MLL2 gene, resulting in an arg5179-to-his (R5179H) substitution.

  .0002 KABUKI SYNDROME [MLL2, LYS4527TER ]

  In affected parent and child with Kabuki syndrome (147920), Ng et al. (2010) identified a 13580A-T transversion in the MLL2 gene, resulting in a lys4527-to-ter (K4527X) substitution.

  .0003 KABUKI SYNDROME [MLL2, ARG5454TER]

  In 2 unrelated patients with Kabuki syndrome (147920), Ng et al. (2010) identified a 16360C-T transition in the MLL2 gene, resulting in an arg5454-to-ter (R5454X) substitution.

  .0004 KABUKI SYNDROME [MLL2, THR5464MET ]

  In affected parent and child and an unrelated patient with Kabuki syndrome (147920), Ng et al. (2010) identified a 16391C-T transition in the MLL2 gene, resulting in a thr5464-to-met (T5464M) substitution.

 

 今後は、この4種類の違いが精査され、それぞれの歌舞伎症候群患者がどの変異のタイプに属するか判別することによって、より効果的な対応方法が見出されるでしょう。場合によっては新たな変異が発見されるかもしれません。

出典:

  ※1MYELOID/LYMPHOID OR MIXED LINEAGE LEUKEMIA 2; MLL2

  ※2Molecular Genetics

  その他  原文を読んでいるとしばしば"mutation"や"variation(variant)"という似た様な単語が使われます。また、日本語で「変異」は英語に変換すると@"mutation"A"variation"がありますが、@は、遺伝子の化学的構造の変化で、この変化が起きた細胞が分裂してもその変化は永続する、染色体分子の塩基対の配列の変化。突然変異。A「多様性」や「変化」をあらわすときに用いる。

最後に

  今回の歌舞伎ジャーナルは歌舞伎ジャーナル第88号歌舞伎症候群勉強会(H20.11.20)と一緒に読んで下さい。

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