Kabuki Syndrome Network Japan Newsletter 歌舞伎ジャーナル  第6号

<知的障害者殺害>「恋愛禁止」が背景に 三角関係のもつれで

 「生活に不自由せず、外の世界のようにいじめもない。施設を出たくなかった」。福岡市東区の祖母宅で8月、同じ知的障害者授産施設の女性(当時32歳)を刺殺し殺人罪で起訴された西島栄治被告(26)は、検察の調べに対し、動機をこのように語った。施設は妊娠などのトラブルを恐れ、入所者同士の恋愛を事実上禁じている。しかし被害女性は西島被告への恋慕から、彼が別の入所女性と付きあっていることを「職員に言う」と告げていた。計画的で残忍な事件の背景には知的障害者の「禁じられた性」の問題がある。 【栗田亨】

 今月7日、福岡地裁であった初公判の検察側冒頭陳述によると、西島被告は19歳で同県内の施設(定員50人)に入所した直後から、幼なじみだった入所女性と交際した。彼女と肉体関係はなかった。昨夏、別の女性と施設の物置に入ったところを職員に見つかり「今度問題を起こしたら退所してもらう」と通告された。

 その後も幼なじみとの交際は続き、施設の屋上や階段などで会った。ところが西島被告を好きだった被害女性に見られ「職員に言う。(言われたくなかったら)休みに二人で会おう」と交際を求められた。西島被告は秘密を守るため付き合い始めたが、態度は冷たかった。女性は「私と付きあって。そうせんと私たちのことを職員や交際中の彼女に言う」と告げた。

 西島被告は平均年齢40歳の入所者の中では若い方だが、リーダー的存在だったという。生活の不安もいじめもないばかりか、リーダーとしてふるまえ、好きな女性も身近にいる。施設は彼にとってこの上ない場所だった。しかし被害女性との交際が発覚すれば、施設を追放される――。西島被告は口封じのため殺害を決意。盆休みで帰省中の8月12日、被害女性を福岡市東区の祖母宅に連れて行って殺し、遺体を床下に隠した。

 西島被告は福岡市で生まれ、4歳の時両親が離婚した。その後、祖父母と母親の4人で暮らしたが、母と祖父が相次いで亡くなり児童養護施設に入所。中学卒業後の96年6月、知的障害者授産施設に入所した。近所の人の話では、帰省した際には必ず「お祖母ちゃんがお世話になっています」とあいさつし、老人ホームに入所していた祖母をたびたび見舞う優しさもあったという。

●性の問題をタブー視/交際支援のケースも

 施設内で暮らす18歳以上の知的障害者は全国で約10万人いる。しかし専門家や複数の施設関係者によると、多くの施設は「寝た子を起こすな」的に性の問題をタブー視し、妊娠の恐れなどから施設内での交際に消極的だという。一方で入所者同士の恋愛を支援する施設や、宮城県が入所者を地域に帰し自活を支援する「施設解体」を宣言するなど、変化の兆しも出ている。

 99年に東京都が18歳以上の障害者を対象に実施した「障害者の生活実態調査」(複数回答)によると、「障害のためあきらめたり妥協したこと」の質問に、知的障害者の4割以上が「異性との付き合い」「結婚」を挙げた。「出産」を挙げる人も2割以上いた。身体障害者の場合、先の三つの答えは3〜7%に過ぎず、知的障害者に「恋愛」のハードルが高いという現実を示している。

 西島被告の入所していた施設によると、恋愛禁止は明文化しておらず、食堂や校庭で会話やゲームをするような交際は認めている。入所者への性教育はしていないという。施設長は「妊娠のことを考え『男女関係を伴うような付き合いはやめてくれ』と言っている。結婚しても年金だけで生活できない現状では『まず社会人として自立するのが先ではないか』と話している」と説明する。

 一方で知的障害者の恋愛を積極的に進める施設もある。徳島県松茂町の知的障害者通勤寮「若竹通勤寮」は十数年前から、入所者同士の交際や結婚を積極的に支援している。既に約20組が結婚し、寮内での男女交際も自由に行われている。専門家を呼び、避妊やホテルの利用方法などの情報提供や相談に応じている。寮の生活支援ワーカー、林弥生さん(31)は「男女交際は周囲への配慮が必要で、けじめをつけて楽しむように伝えている。禁じる施設は対応するノウハウがないため、性について『駄目』というメッセージしか伝えていないのではないか」と話す。

 また、宮城県福祉事業団は今月23日、ある知的障害者施設で入所者全員を地域のグループホームなどに移す「施設解体」を宣言した。同事業団は「入所者の生活については、これまで本人より家族や行政関係者の希望が反映されていた。しかしグループホームなどで自活を体験した入所者が、施設に戻りたくないと思っている調査結果が出たため」と説明する。

 知的障害者入所施設の理事長も務める堀江まゆみ・白梅学園短大教授(障害者心理学)は「日本の施設では集団管理的な発想がはびこり、障害者の人生を縛っている。これからの福祉は利用者一人一人の希望する生き方にそって、支援のやり方を変えていかなくてはならない」と指摘する。(毎日新聞)

[11月27日3時31分更新]

 

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