正倉院の琵琶

  1280年前の琵琶を見てきた。

 文化の日、私は突然思い立って奈良へ飛んだ。奈良国立博物館で、正倉院展をやっている、しかもあの琵琶が出品されているとネットで見たからだ。一度NHKの特集で見たことがあった。長さ1メートルほどの琵琶の背面一杯に貝殻を埋め込む螺鈿という装飾が施されて、それはそれは美しかった。しかもそれが、1280年間、殆ど痛まず当時のまま、保存されているのだ。その琵琶が出品されている。だが展示会は、たった2週間しかやらないという。仙台から奈良まで、どうやったら行けるだろうか?週末は既に2回とも用事でふさがっていた。
 しかし、本当に行きたいと思ったらいってしまうのが私というものである。先日の文化の日、私は奈良国立博物館の展示会場前で、入場までの長い列に並んでいた。

   楓蘇芳染螺鈿槽琵琶(かえですおうぞめらでんそうのびわ)。琵琶は、そもそも西アジアに起源があると言われ、正倉院が造られた当時、唐から高い技術で作製された琵琶が何点か、我が国にも伝わっている。しかし驚くことには、この琵琶は日本製だというのだ。その決定的な証拠としてあげられるのが、表に張られた絵に用いられている白い染料。これは当時唐で用いられていた染料とは全く違い、日本独自のものであることが調査の結果判明している。また螺鈿に用いられる貝殻も、通常使われる南洋のアコヤガイより日本近海で捕れるアワビを多用、さらに胴体そのものも唐の高級な琵琶に用いられる紫檀ではなく、日本でも容易に手に入る楓の木を蘇芳染して、一見紫檀に似せるなど、本来の材料が手に入りにくい中、様々な工夫をして制作されたことが分かるのである。

 日本製と言われて再度驚くのが、この表面に張ってある絵。中国風の山水画をバックに、胡人(シルクロードの民)達が数名、象の背中で琵琶を弾いたり舞を舞ったり。当時象など見たこともないだろうし、胡人も間近で見たわけでは無かろうに、どうしてこれほどリアルに描けたのだろう?象を見たこともない人が描いた象とはとても思えない、生き生きとした絵なのだ。
 
 こう書くと、なーんだ、要するに日本人お得意のイミテーションじゃん、と一蹴されそうだが、実際に見ればそのレベルの高さに圧倒されることは間違いない。正倉院には全部で六面の琵琶が保存され、他の5つは唐からの輸入品と言うことだが、それらいわば“本物”と比べても完成度の高さでこの琵琶は全く遜色ないものとされる。本来の材料が手に入りにくい中で、よくぞこれだけのものを当時の日本人が作ったものだ。


 それにしても、こんなものがよく1280年も残っていたものだ。しかも残欠などではなく、今でも演奏可能なほどそのままに、我々に作製当時の姿を晒している。この奇跡をもたらした正倉院、現在は元々の建物は倉庫としては使用せず、宝物は冷暖房空調完備の新しいコンクリート製の倉に補完されているそうなのだが、本当にそれで大丈夫なのだろうか?コンクリートの建造物は、どう考えても1000年持つまい。100年後、200年後の子孫に、我々の世代が誹りを受けなければよいのだが。

奈良国立博物館第56回正倉院展(11月15日まで)
(2004.11.7)

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