有田正広・フルートリサイタル

 先日の日曜日、我が家の敷地にある音楽ホールの前を通りかかったら、フルートリサイタルの案内が出ていたのでふらっと聴きに入ってみた。

 と、この文章は上の一文を書きたいが為だけに作ったものなので、もうこれでお終いにしてもいいのだが、それじゃなんなので多少付け足しておく。我が家の敷地に本当に音楽ホールがあるのか、と言われれば、それはあるのだ。嘘じゃない。事情をご存じの方は分かると思うが、我が家には700席規模の本格的音楽ホールと、図書館と、カフェその他いくつかの商店が入る商業スペースが付属しており(カフェとクリーニング屋の他は殆ど流行っていないが)、全て我が家から建物の中を通って行くことが出来る。ついでに言わせて貰えば、地下には地下鉄の駅に続く専用出入り口も付いている。で、まあ、我が家がどれほど立派かという自慢はこれぐらいにして、後はそのリサイタルのことを若干紹介しておこう。

 有田正広という人は、フラウトトラヴェルソをバルトルド・クイケンに学んだという古楽フルートの名手である。日本人の男性アーティストには珍しく、ソロで世界に通用する一人だ。さすがにこんな地方都市なのに4500円も取っていた。会場は8分の入りである。普通フルートと言えば牧神の午後とか、モーツァルトのフルート協奏曲などをイメージする方が多いと思うが、今回は全てのプログラムをバッハとハイドンで埋めるという通好みの試行である。ちなみに伴奏チェンバロは有田千代子さんという方だが、奥さんなんだろうか。この人はチェンバロをロベール・コーネンに、その他の室内楽をヴィーラント・クイケンに学んだと言うから、こちらも本格的な古楽器奏者だ。我が家の音楽堂にこんな名手がそろって見えるのはそう無いことで、喜ばしい限りである。

 さて、曲目は殆どヘンデルとバッハのフルートと通奏低音のためのソナタ、それに一曲だけバッハの無伴奏フルートのためのパルティータが挟まっていた。あまり詳しくないのでおおざっぱな印象だけ言うと、私にはなんと言っても無伴奏フルートのパルティータが最も好ましかった。フルートという楽器は息が抜けるもので、その漏れ た息の音が楽器の音色と相まってまた何とも言えない魅力がある。バッハのパルティータはこの効果が大変素晴らしく、幽遠とも言える世界を作り出す。残念ながらチェンバロが加わってしまうとこの息の音が聞こえなくなるので、こういった不思議な感覚は得られない。だが、ヘンデルのHWV379とバッハのBWV1030(いずれもチェンバロの通奏低音とフルートのためのソナタ)では、チェンバロが上段の鍵盤を用いて、まるで琴のような独特な音を出していた。これは非常に面白く、また美しい音色で、フルートとの組合せも実に絶妙である。ピアノでは出来ない芸当だろう。ふと思ったが、多分本物の琴と古楽器のフルートというのは、きっと似合いのデュオなのでは無かろうか。誰かそう言う演奏をご存じないかしら。

 2004年5月16日 有田正広フルートリサイタル、楽楽楽(ららら)ホールにて。
(2004.5.27)

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