次の日も快晴。

衛星ベクターの動きを監視していたチームから、小惑星帯にあるセントラ基地で何か動きがあるという情報が入った。
基地の中の、閉鎖された接岸堤付近の小惑星が移動させられているというのだ。
何かを発進させるつもりなのか。一人の元帝国兵技師が口を開いた。

「そこはセントラ基地のブロックC、16番格納庫だ。インドラー専用の大開口ドックになっていたはずだ。」

月帯から放たれた悪魔の矢が、蘇る。
同時に、衛星ベクターから爆雷投下艦が展開を始めているとの情報も入った。
恐れていた事が現実となった。

可能性を考慮して、予めエール空軍基地からブースターユニットが調達されてはいたが
今単体で上がればすぐに見つかってしまう。
ロプロス宇宙基地は、ワイガート宇宙軍(WSF)直轄の為に未だXeNONの影響下にあった。
今でも、地上からベクター建設に使われる物資を積んだ輸送艇が、マスドライバーで宇宙に射出されている。

そこで、これら輸送艇の打ち上げ作業にまぎれて打ち上げるという計画が立てられた。

垂直に打ち上げられるように設計されているブースターは、エンジンの噴射時間が短く、マスドライバーの加速軌道を飛び出す頃には燃えつきえてしまう可能性がある。
さらに母機のエンジンの推力だけでは、ブースターを抱えたままでは十分に加速できない。
そこでこのブースターにリニア被加速体を取り付けて、加速力を補おうという事になった。
かつては敵同士だった技術者達が知恵を出し合い、ようやくブースターの改良が終了した。

電力装置がダメージを受け、予備電力を使用中。

私達はみんなで、もう会えなくなるかも知れないパイロットを見送った。
落ち着いている人、帽子を下げてうつむいている人。私はといえば、初めての戦争体験で
恐怖に足が震えていた。

旋回砲身、外殻を取り外した所。機体中央が重力制御装置。
●攻撃機スラッガー2:

コレクター・バーにより吸収したエネルギーを多段アンプ回路で増幅させ、攻撃を行う事が出来る。
共和国側が開発した当時の浮動装置はまだエネルギー消費が大きく、補助動力と
併用されていた為、あまり攻撃装置に大きなエネルギーを供給することが出来なかった。
スラッガー2は一世代前のスラッガー1を改修したもの。
エール・アヴィエーション社製。

 

試験当時の状態。ハッキング装置は自機の倍はある大きさだった。
●GEOPTO:

ギャラクシー計画の1番機。
計画自体は順調に進んだが、ハッキング装置が大型化し機体の搭載重量を大きく超えてしまった。
根本的な見直しの為に装置は一度降ろされたが、軍の要求が機体を含めた小型化に移っていった為、
この機体での開発は中断。二度と搭載される事は無かった。
降ろされた装置は、後に大型戦闘機に搭載されている。
これに変わって、計画と平行して開発されていたA・Iが試験的に搭載された。
ゼノンに採用されている現代の合理体系化型A・Iとは違い、当時主流だったより人の思考に近い形で制御されていた。
このA・Iと同等のものが次の2番機にも搭載されているが、こちらは機体制御を管理するだけで機体全体の自己制御は出来ない。

 

小惑星の帯、月帯は日中でも見ることが出来る。
大戦末期、この美しい光の帯からは帝国のシティーバスターレーザーが降り注いだ。
宇宙の制空権を奪われていた共和国側は、帝国首都占領を急いだ。
最終決戦を決断し、浮上した空中要塞は一路帝国首都を目指した。
首都上空での激しい戦闘により南ウイングが大破、東ウイングも浮上ジェネレータが被弾し着底。
大きく傾斜しながらも機能し続け、翌日正午、帝国は降伏を宣言した。

地上から見れば小さいが、実際は幅2キロ、長さ5キロの巨大な建造物だ。 その帝国が宇宙に浮かぶ光の帯に建設したのが、都市攻撃基地の”セントラ”だ。
大戦後は統合政府によって各基地で武装解除が進められたが、このセントラは宇宙に在る上に非常に広範囲で大規模である為に、作業は後手にまわされたまま放置されていた。
最近になってようやく手が入れられ、統合軍によって宇宙開発基地として改装され始めたがXeNONの暴走により、再び軍事基地としての機能を取り戻した。

 

ロングランジ同様、底面にはコンクリート装甲板が取り付けられている。
●都市攻撃機インドラー:

大重量のレーザー発射装置を搭載する為に、推進用ロケットモータを16個も使用している。
爆雷投下艦のロングランジと共に、セントラで一機のみ造られている。
宇宙での制空権を得た帝国軍による勝利は目前にまで迫っていたが、共和国側の高高度対空砲による粘り強い反撃が続いていた。
事態を打開するためにさらに高高度からの地上攻撃を行う為に造られたのがインドラーだった。
インドラーには、当時両陣営が開発中だった長距離レーザー砲の中でも特に高出力な物が搭載されていた。
最大出力で使用すると過大負荷による機関破壊の危険があった為、50%に出力を落として使用していた。
インドラーは小惑星帯を盾にして、共和国の拠点を次々に破壊した。
発射されたレーザーは、約30秒間で地上で半径約500mの円を描くように照射される。
大戦終結後、インドラーは制御を停止され小惑星帯を漂流していたが、統合軍によりセントラ基地まで曳航され保管される事となった。

 

セントラ基地に進入したパイロットからの通信が途絶えてから1時間後、
大気圏内に落下する一つの物体があった。インドラーだ。
月帯から光の筋を引きながら落下する。
大戦中、死の光を降り注いだ悪魔が今、自ら光の筋となって落ちていく。

着工から20年、未だ完成していない人工の星、衛星ベクター。
世界統合、平和の象徴であったベクターは内面の姿を大きく変えた。
繋留されていた爆雷投下艦は発艦準備を終え、次々とベクターを後にする。
今となれば、ここまで来れた事こそが奇跡だ。
目の前に待ち構えている大艦隊を前にパイロットが感じるのは勝利か、絶望か。
まだ一部居住ブロックが出来ていないが、建設は停滞している。

 

艦載機はあるが、主にその役割は小惑星除去だ。
●爆雷投下艦ロングランジ:

セントラ基地で建造された、高速落下爆弾を装備した高高度爆撃機。宇宙での運用に限定
された構造で、翼は無く、地上へ降りる事は出来ない。
宇宙空間での対艦戦闘はまだ想定されていなかった為武装は貧弱だが、地上からの対宇宙掃射に対する底面装甲は、小惑星を破砕して作った均質高密度コンクリート板が敷き詰められ非常に強固となっている。
撃墜されたロングランジの破片の中でも、底面装甲だけは原型を残したまま落下してくるそうである。

 

左右の武装ブロックを取り外して打ち上げる。
●強襲艇ヴァンペル:

帝国との激しい宇宙制空権競争のさなかに造られたもので、大型の機体に多重装甲・多重装備である為
大重量で、打ち上げ時は分割出来るようになっている。
共和国軍の機体の中では飛びぬけて大型で、帝国軍の宇宙戦艦に対抗する為に造られた。
帝国側が宇宙で戦艦を建造するのとは対照的に、この機は地上で建造される。
大戦後期、帝国の長射程レーザー兵器の登場で状況がより不利となる中
ついに所属するハイネケア宇宙基地が高速落下爆弾による空爆を受け、基地機能は停止してしまった。

大戦後、一機だけ残ったヴァンペルは修復を受け、ベクター建設の為に作られたマスドライバーで打ち上げられた。
その巨大なペイロードを生かして有人太陽系惑星探索艇として改装される予定だった。

 


●XeNON マスターシステム:

広義には衛星ベクターのマスターシステムを含めた、惑星全体の端末や情報処理装置
全てを合せてXeNONシステムと呼ぶ。
ギャラクシー計画と平行して研究されていたA・Iシステムの内、合理体系化型A・I
(コードネーム「アトム」)を発展させたものを搭載している。
衛星ベクターに設置されている巨大メインフレームで稼動するプログラムコードが地上の全ての
端末装置に対して排他的制御権を持っている。
中継システムとしてベルガー山地K6基地のサブシステムがあり、
地上における全ての端末とゼノンとを結ぶ。
衛星ベクターに対する直接の指示は、定期的に地上の統合政府管制制御室から送られる。

XeNONシステムは、主に多目的情報ネットワークや政府系機密ラインを構成する一方で
世界中の技術力分布や地理的情報、資源情報、気象情報等に加え、
宇宙での観測情報も含めてデータベースを構築して
惑星規模でのプラネットコントロールを目指していた。
統合政府が誕生してからも小規模な紛争は未だ続いており、大戦後現存する兵器類は
廃棄されずにほぼ全てが無人化改修を受けてそのまま使用されている。
ゼノンのプラネットコントロールには事故や紛争、戦争等の人的災害現象の制御も
組み込まれており、これら軍事システムも管制下に置かれていた。

XeNONシステムが運用を開始し、数年の歳月が流れた。
集められた情報はコンテナ型大型メモリモジュール(一台512EByte)数万個に達していた。
情報が飽和し、整理段階に入ったXeNONはA・Iセクションを起動。
XeNONはプラネットコントロールの概念、環境保全・不安定要因の排除に基づいた処理を開始した。
処理はさらに数年続いた。この間も前例の無い情報についてはデータベースへ組み込まれている。

その後整理段階を終了したXeNON-A・Iは、処理結果に基づいた判断を地上の統合政府管制制御室へ送信した。

「My name is XeNON. I am the ruler of this planet.」

地上からの制御が特権モードにより遮断され、XeNONは実行段階に移行した。
送信から数秒で全てのネットワークは遮断され、軍システムは無人制御選択状態に切り替わった。
何が起きたのか。
対XeNON戦争後、破壊されたメインフレームに残されていた思考記録から解析がなされた。
それはプラネットコントロールの概念に忠実なものであった。
「環境保全・不安定要因の排除」に基づき、惑星で起こるあらゆる人的事例の排除という判断を下したのだ。
XeNONは人間の信仰の要素から自らを「神」という形態に照合し、「神の怒り」として人類への攻撃を開始した、
と分析されている。

 

操縦室の下についているのが、ハッキング装置。
●戦闘機ファルクラム:

共和国が大戦中に開発した大型の戦闘機。兵装の搭載能力が大きく
あらゆる攻撃能力を持つことができる。
製造はエール・アヴィエーション社。
第13回エール航空ショーで初めて姿を現した時、従来の戦闘機のような
スタイルとは一線を画したデザインが注目された。
操縦室やエンジンを構造的に分離し、戦闘機としては初めてユニット交換式を採用していた。

機体が大型化する事を避ける為重力制御装置を積んでおらず、代わりに
高出力エンジンに推力偏向ノズルという、従来の方式を採用。大型エンジンの強力な排気で
砂埃を巻き上げて荒々しく演技飛行する姿に観客が沸いていた。

また、製造された機体の内一機は改修され、GEOPTOから降ろされたハッキング装置
を搭載している。旧型とはいえ性能はAR−8のものとほとんど変わらない。
ただしGEOPTOから降ろされて以後はテスト機として用いられていたため
識別信号は旧来のままであり、この装置からAR−8を同種識別できずにロック出来てしまう。

 

2機の機影がベクターから飛び出した。

レーダーの映像はぼんやりではあるが、確かに2機の機影を捕らえていた。
しばらくして戦闘機から無線が入った。

「作戦成功、XeNONは消滅」

ベクター突入前に、戦闘機を支援する所属不明の機体が確認されていた。
識別は青を示し、見方であることは分かっていたが、我々以外にも攻撃を計画した
部隊がいたのだろうか。

パイロットの証言から、正体不明機はギャラクシー計画1番機のGEOPTOと判明した。
私達の世代では分からないけれど、計画に参加していた技術者達は話を聞くなり
空に向かって敬礼をしていた。

ただの機械かも知れないA・Iに何故ここまで思いを入れられるのだろうか。
彼らにしか分からない、何かがあるのだろう。

 

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