入 院 中 の 日 記 −1−



98年12月5日 入院前

石灰化部分の試験切除の結果を聞いた日から10日、入院予定の日まで10日、と、ちょうど中間の日になった。
あまりのショックにブルブル震えたし、落ち込みは人生最大のものだったかもしれない。
いろんな人に話しを聞いたり、ネットで調べたり、本を読んだりして、私の場合はとても初期の状態だと、自分に言い聞かせてはいるけれど、やはり、落ち着かない。

なんだか、他人事のような気もするし、夢かななんて思うし…。入院・手術なんて信じられないし、逃げ出してしまいたい。こうして、いつもと変わらない生活をしていると、どうも騙されているような気になってくる。

しこりがあって、手術した人の話は山ほどあるけれど、私のように石灰化で手術をした人の情報は今のところ見つからない。あと、10日もすれば、嫌でも自分の病気と正面から向き合う生活にならざるをえないのに、心の準備はできそうにない。


12月15日(火曜日) 入院1日目

昨日の連絡では今日の入院はないといっていたのに、急にベッドの空きができたという連絡がきて、入院した。みんな出払っていたので、夫や子供たちにもパソコンでメッセージを書いて、大荷物を抱えて、車を運転して、一人で病院に向かった。

外科の病棟が空いていないので、とりあえず、2Bの婦人科病棟になった。

夕方、主治医の回診。術前の検査が終わる、17日に手術法などの相談をする。
いくつかの選択肢があるので、よく、話し合いましょうと言われた。



12月16日(水曜日)

尿検査・採血・心電図・肺活量・血液凝固検査・胸部レントゲン
アレルギーパッチテスト・動脈血採血・マンモグラフィ


T先生の回診。手術の予定は来週の月曜日(21日)。
この先生の話では、早期のガンではあるが、石灰化の場所が、乳首に近いことや、広がっていることなどから、手術の方法については、慎重に考えると言われた。

主治医以外の先生の話を聞いたのは始めてだったけど、なんだか、余計に不安になった。入院するまでは、早期のものだから、絶対に温存手術でいこうと、自分では決めていたのだけど、そんなに甘くないのかなあ。


12月17日(木曜日)

腹部エコー・RI(骨シンチ)・MRI


朝から、注射の連続。おまけに昨夜ほとんど眠れなかったせいか、風邪をひいてしまったようで、マズイ。
検査もようやく、全部終わり、検査結果が出そろったら、先生との打合せになる。先生の、難しい話になるよという言葉や、他の先生の話からすると、あまり、楽天的にはなれない。

とにかく、”治る”と、言うことが第一の目的だ。

【先生の説明と手術方法】

  • 術前の検査により、全身のチェックをしたが、異常所見はなし。
  • 病理検査では、ガンは乳管内にとどまっている。
  • ガン細胞に良く集まる物質を投与して、MRIを撮ったが、何も写らない。
  • ただし、マンモグラフィでは、石灰化が、まだ認められる。

手術の方法については、以下の方法から私自身が選択する。

  • 乳房温存手術をして、術後放射線の照射……局所再発の可能性は残る。
  • 全摘手術………まず、100%近い、完治が望める。
  • リンパ節郭清は、私の選択にまかせる。ただし、リンパ節を残した場合は、病理検査の結果により、乳管から、ガンが飛び出していた場合、改めて、手術により、郭清する。

私も夫も入院前は絶対に、温存手術を選ぶと決めていたのだが、温存した場合の手術後の自分の不安を考えると、温存にふみきれなくなっている。
それに、リンパ節の郭清をしてしまったら、今までのように、スポーツを楽しむことができなくなる。
ガンになったことで、自分の人生が大きく変わるのはあまりにもつらい。
せっかく、早期に、とても早期に見つかったのだから、命が助かることと、それだけではなく、元の元気な自分の生活に戻りたいと、強く思った。

一時間近く先生と話し合った。先生は私のQOLを考えても、乳房を残してあげたいと思うと言ってくれたし、私の価値観で選択すべきだと、言われた。

どの方法を選んでも結果(治癒率のようなこと)は、同じだと思うとも言われた。

私が迷っていると、夫が「この人は異常なくらいの心配性だから、温存を選んだら、局所再発を恐れて暮らすに決まっているので、全部取って下さい。」と、言った。

私はこの時、びっくりした。温存がいいのではないかと、いっていたくせに……。
やはり、私の不安感の強く心配性な性格を最も理解していると、感心してしまった。

この夫の一言で、私も心が決まった。とりあえず、全摘。ただし、リンパ郭清は、しない
涙があふれて、止まらなかった。


12月18日(金曜日) 外科の病棟に移る

温存か、全摘かについて、まだ迷っている。どちらの方法をとっても、結果は同じと言われると、やはり温存しようかと思い、揺れている。

温存を選んだ場合の放射線療法について、また、先生にいくつか質問した。

今日はなんだか、落ち込んでいるし、誰にも逢いたくないなぁなんて思っていた。

友達が何人か来てくれて、テンション上げて元気にしていたら、本当に元気が出てきた。

人と接するって、やっぱり、大事なことだ。



12月21日(月曜日) 手術前日

先生と3度目の相談。十分にていねいに、何度でも、何にでも、きちんと説明して、そして、一緒に考えてくれる。

私の選択を全面的に支持してくれて、疑問にも明確に答えてくれる。

やっと、迷わずに手術に臨めそうだ。先生も私の考え方や選んだ手術についても、センスのある選択だと思うよと、言ってくれた。

私は、子宮筋腫もあって、手術を勧められていたのだが、この降ってわいたような、乳がんで、筋腫の方は、棚上げになっていた。

その事を先生に相談すると、もし、リンパ節の郭清手術をすることになったら、全身麻酔だから、婦人科の主治医と相談して、同時に手術を受けられるようにコーディネートしてくれることになった。

病理の結果が良好だったら、リンパ郭清はしなくてすむので、その場合は、婦人科に転科して、筋腫の手術を受けられるように、頼んでくれることになった。


何度も先生は私の相談にのってくれ、本当に詳しく、説明してくれた。

私の場合、はっきりしたしこりがあるわけではなく、ガンといってもまだ、形として現れてはいないので、手術中に先生に、全摘か、温存かを判断してもらうことができない。

だからこそ、こうして悩みながら、自分で決めなくてはならない。これは、想像以上につらかった。

選ぶというのはしっかりとした、根拠や、見込みがないと、とても難しい。先生は、明日手術の前に、考えが変わってもいいよと、いってくれた。

夜、夫がキャンサーネットジャパンの、乳がんの資料を見つけてきてくれた。

NIH(米国立衛生研究所)が、患者や医師向けに出している、資料を和訳したもので、 これには、私のような非浸潤ガンについても、詳しい検査法や、治療法なども紹介されている。

これを読んだことで、ほんとうに、決心がついたし、自分の選択に納得して手術を受けることができる。