平成12年(ワ)第206号損害賠償請求事件
 原告訴訟代理人 横田由美子弁護士殿



公立***先端**医学研究所 所長 
馬 庭 芳 朗 


 順天堂大学浦安病院 福永正氣先生の意見書についてご依頼がありましたので回答致します。
 福永先生のご意見は原告、あるいは外科手術を受けられる患者様の立場にたった真摯なものであると思います。



 また、先に私が指摘してきましたように、福永先生も@腹腔鏡下大腸手術施行にあたっては、患者様に対するイン

 フォームドコンセントが重要であり、A術者の手術の習熟度により今回の争点である縫合不全の頻度に差があり経

 験が浅い場合は頻度が増えることを認められています。この他、B原告が苦労されております便意頻回、しぶり腹

 などの後遺症も縫合不全や腹膜炎などの影響のため、直腸を含めた再切除範囲が長くなったことによる可能性も示

 唆されております。



 福永先生のご意見に賛同する一方、意見書を依頼された被告代理人の“意見を求める事項”にはこの事件の核心点

 自体が欠落しており福永先生のご意見も反映されておりません。このままでは裁判の審理において不都合が生じる

 と思われます。



 すなわち、福永先生と私が共に指摘しておりますような手術前の被告による説明・インフォームドコンセントの重

 要性が被告代理人の論点からは未だ欠落していることです。当時本邦において発展途上にあった腹腔鏡補助下直腸

 切除術について、福永先生・馬庭の両鑑定医が重視しているインフォームドコンセントが常識的に行われていたな

 らば、本件の致死的な術後合併症と術後後遺症は回避できた可能性が極めて高く、また、たとえ合併症が発症した

 としても、医師側・患者側の信頼関係構築という医療の基本が達成されている環境では訴訟問題には至らなかった

 と推測します。



 なぜインフォームドコンセントが今回の事件の核心であるかというと、当時一般的であった開腹手術に較べ、習熟

 した外科医による腹腔鏡手術、習熟途上にある外科医による腹腔鏡手術、初めてあるいはこれに類する外科医によ

 る腹腔鏡手術の順に合併症の頻度が高まることは福永先生のご意見を待たず自明の理であるからです。この情報が

 原告に正しく提示されていたなら、筑波メディカルセンターでの腹腔鏡手術に原告が同意していない可能性が高

 く、結果合併症や後遺症の危険性も減じたと再度推測致します。



 腹腔鏡手術が安全に遂行された場合、患者様の利益になることも今や外科学の常識であり、この手術の普及に向け

 た外科医の努力が求められています。この過程で、技量の稚拙さによる合併症を如何に回避するかという問題があ

 り、先進施設や腹腔鏡手術トレーニングセンターでの研修、指導医の招聘、実験動物での修練などの解決策のほ

 か、内視鏡外科学会でもガイドラインを本件より前に提示するに至りました。この他、発展途上であることの十分

 な患者様への説明と術式選択についての同意を得る努力を怠れば外科学の正常な発展と社会の認知は得られません。


 福永先生は腹腔鏡手術のご経歴も豊富であり、以上述べました点、および下記の細目につきまして再度ご鑑定戴

 きましたら裁判の審理上も普遍性が増し有用かと存じます。このような医療訴訟の場合真摯に鑑定に応じる医師が

 少ないこと、外科学・腹腔鏡手術の発展を願う気持ちに福永先生・馬庭共変わりがないことを今回の意見書を通じ

 て感じたからであります。


 福永先生への鑑定依頼事項



 1. 本件の場合どのような術前の説明とインフォームドコンセントが必要であったか。
   また、腹腔鏡手術施行前のインフォームドコンセントの基本理念についてのご意見。


 2. 福永先生の意見書では被告術者らの習熟度を示す根拠としては手術時間しか示されなかった。また、最後の記載で

   も断定的な回答ではないと真摯に述べられている.したがって、習熟度に関するご回答はあくまで類推と捉えてよ

   いのか。


 3. 腹腔内と交通している右腹部ポート挿入創に多大な炎症を認めた時点で限局性腹膜炎ではなく汎発性腹膜炎ではな

   いのか。


 4. 術前・術後管理を含めた習熟度が外科手術の習熟度ではないのか。数例でも同様な手術の経験があれば、上記2のよ

   うな術後経過の異常を異常として確信できたのではないか。


 5. 本件のように極めて早期に重篤な腹膜炎が発症したのは、術前日に予定されていたニフレックなどの腸管前処置が手

   違いで術当日にずれたための腸管内容排出不足が一因として推定されないか。


 6. 本件の術前予想された癌進達度と病巣位置で下腸間膜動脈根部での切離が必要不可欠であったか。残存腸管のため左

   結腸動脈は温存しても良かったのではないか。通常の開腹手術の場合でも一般的に考えられる郭清範囲として妥当か

  (施設間で意見の相違はあるだろうが)



 原告側の鑑定医を引き受けてくださった馬庭先生(ご本人了解の上実名公表)より、被告側鑑定医の福永先生に

 宛てて意見書が出された。

 この意見書に添えて、原告側からカルテや診療記録等すべての資料を福永先生にお渡しし、改めて福永先生のご

 意見を仰ぐことになる。

 過日提出された福永先生の意見書を読んで、冨田が抱いたように、鑑定医の馬庭先生も原告代理人の横田先生も

 福永先生の高い見識と倫理観、真摯なお人柄を見込んで、この意見書の回答をお願いしようと思っている。


 この流れは被告側にとっては予想外であろうし、特に被告代理人にとっては青天の霹靂に違いない。

 そもそも鑑定を求める医師に対して、カルテも見せずに被告医師の陳述や本人尋問の内容だけの偏った情報のみ

 で意見書を作成してもらおうという魂胆が浅ましいのだ。

 裏を返せば、カルテを見せれば被告側に都合の良い鑑定をされないと踏んだのだろう。

 公正な資料を故意に開示しないで意見書を作成するのは「真相のねつ造」に他ならない。

 この点だけを見ても、被告医師、被告代理人のみならず、メディカルセンターの医療機関としての資質を疑わざ

 るを得ないし、この病院では起こるべくして起きた事件だと言える。

 多くのスタッフがいても、誰一人間違いを正そうとする者がいない。それどころか、複数のスタッフが毎日何度

 もこのサイトを黙々と監視し続けている。残念ながらこの病院は必ず同じ間違いを繰り返すだろう