◇腹腔鏡下手術とは◇


 1987年に、フランスのDr.Mouretが最初の腹腔鏡下胆嚢摘出手術を行って以来、徐々に世界的に普及しつつ有る

 「外科手術の革命」的手術法。

 以来1988年にフランスのDubois、アメリカのMcKermannとSaye、ReddickとOlsenらが相

 次いで報告している。

 日本では、1990年5月、帝京大学溝口病院の外科によって第一例が行われた。


 近年、腹腔鏡下手術の発達に伴い、胆嚢摘除術以外の腹部外科領域としては、胆石症、鼠径ヘルニア手術、虫垂切除術、胃部

 分切除術、脾臓摘除術、食道裂孔ヘルニア手術、大腸切除術などがある。

 最近、腹腔鏡下大腸切除術に関する関心が深いことは、学会の演題が年々増加していることからも理解できる。

 しかし、本手術の技術的な困難性のため、その普及は必ずしも十分とは言えず、手術方法も施設によって様々であるのが現状である。

 このような状況にあって、本術式を施行する外科医の適切なガイドラインとなるような基本的手術手技を確立する必要がある。


 手術は、腹部に数カ所、数センチほどの穴をあけ、腹腔鏡と呼ばれる硬性鏡を挿入、鉗子やスカルペル(メス)を挿入するた

 めのトロカールと呼ばれる装置を他の穴から刺し入れて、腹腔鏡によるモニター画像を見ながら作業をおこなう。



 ◇利点と欠点◇


 利点としては、

 1 術後創痛が軽微である。

 2 腹壁の機能障害が軽い。

 3 入院期間の短縮。

 4 早期社会復帰が可能

 5 手術痕が小さく美容上優れる。

 6 術後の腹腔内癒着が生じにくい。

 7 経口摂取が早期に望める。

 8 術後合併症の減少。

 9 創部感染の可能性が低い。


 欠点としては、

 1 全身麻酔下を要する手術である。

 2 手術部位の立体的な把握ができない。

 3 触診ができない。

 4 止血操作その他の技術面での困難性がある。

 5 手技的な習熟に長い時間がかかる。

 6 手術時間が長い。

 7 手術器材に費用がかかり過ぎる。



◇インフォームド・コンセント◇


 医療を行ううえで、医療を施行する側が決定した方針に従って一方的に検査や治療を強要せず、治療の意義や弊害を説明する

 ことによって患者の同意を得ること。

 または種々の選択肢があるとすれば、患者自身に選択する権利を与えること。

 医師が患者に説明すべき内容と要点としては、


 1、 原疾患に対する外科的治療法の必要性。

 2、 腹腔鏡下外科手術の紹介と従来法。

 3、 腹腔鏡下手術の利点と欠点。

 4、 腹腔鏡下手術の具体的方法。

 5 、腹腔鏡下手術の危険性 (術中偶発症、術後合併症など)

 6、 開腹手術へ移行する可能性。


 内視鏡下外科手術について予備的な知識をもつ患者とまったくもっていない患者では、医師の説明に対する理解の違いと、過

 度の期待とイメージをもっている場合があるため、内視鏡下外科手術という治療法をより冷静な目で理解してもらうことが必

 要である。



 ◇腹腔鏡下大腸切除術の要点◇


 [ 腹腔鏡下手術は大腸癌の治療として適切であるか。]

A

 
「port-site recurrenceの問題も含めて、本術式が大腸癌の治療法として適切であるか否かが今後解決されなければならな

 い重要な問題である。わが国では、各施設における症例数が少なく、かつ、術後追跡期間も短いので現在の所結果の分析は困

 難であり、今後の問題と考えられる。」

 [ 問題点。]



 
「大腸癌に対しての適応に関しては欧米でも議論の多いところである。十分腹腔鏡下手術の経験の豊富な施設では、早期癌

 だけでなく進行癌への適応が可能と報告されている。」

 [ 吻合法について。]



 
「S状結腸切除や直腸切除で、吻合部腸管を腹腔外に持ち上げることができない解剖学的位置にある場合には、ダブルステイ

 プリング法による腹腔内吻合が施行される。その他の場合には、腹腔外で切除吻合がなされることが多い。腹腔外で吻合せず

 に腹腔内にて腹腔鏡用の自動縫合器を用いてfunctional end-to-endanastomosisを行う方法もあるが、手技的に困難であ

 り、また、標本を取り出すために小切開をおくことは必要であるので、一般的には、あえて腹腔内で困難な手技にて吻合する

 理由はないと考えられる。」


 「この自動縫合器は開いた状態でも2つのブレ−ドの間隔が狭いので、直腸を挟み込む際にブレ−ドの先端によって直腸壁を

 損傷しないように注意する。」


 「吻合後、吻合器をゆるめて肛門から抜去するが、抜去が困難である場合には、腸鉗子にてあまり吻合部に緊張がかからない

 程度に口側結腸を把持すると簡単に抜去される」


 「抜去後、両側のリングが完全であることを確認し、また骨盤腔に生食をためて吻合部より口側の結腸を腸鉗子にて把持し、

 肛門からバルーンカテーテルを用いて直腸内に空気を送ってリークテストを行いエアーリークのないことを確認する」


「最後に、ポートを抜きながら腹腔鏡によってトロカー挿入部より出血がないことを確認し、トロカー挿入部の筋鞘を強彎針

によって閉鎖し、皮膚を縫合閉鎖して手術を終了する。」


 [ 臓器把持牽引の際の注意点。]



 
「まず消化管を把持する場合には、鉗子の選択が重要である。腹腔鏡手術で用いられる鉗子類は、kinesthetic sensation

 のフィードバックがほとんどないため、鉗子が腸管にどれくらいの外力を及ぼしているかが不明である。」


 「専用の鉗子を用いる際にもいくつか留意点がある。鉗子による消化管損傷は、基本的には鉗子先端部の一部分に大きな外力

 が加わるために起きるため、十分な量の腸管を把持すること、腸管を把持した鉗子のローテーションや鉗子長軸方向への過度

 の押し込みや牽引は避ける必要がある。」

 [ ダブルステイプリング。]



 
「サーキュラーステイプラ−を引き抜いたのち、両側の粘膜リングの連続性を確認し、また、小骨盤腔に生食を溜め、肛門か

 ら挿入したネラトンカテーテルから直腸内に送気し行うリークテストも、開腹手術の際と同様に施行する。」


 [ 腸管剥離。]



 
「腹腔鏡下操作で腸管を把持、牽引することは腸管損傷をきたすだけでなく、port-site recurrenceの危険性も増加させる

 と考えられる。」


 [ port-site recurrence ]



 「腹腔鏡下手術は操作性の悪い鉗子で組織を把持、牽引する必要があるため、不要な組織損傷をきたしやすく、癌細胞の散布

 を起こす危険性が開腹手術よりも高い可能性がある。」


 [ 基本的手術操作。]



 
「一般的に腸管把持の目的で使用されているバブコップ鉗子は角がシャープでかつ把持力が強すぎて腸管の漿膜、筋層を損傷

 する危険性がある。」