講演会

2002年3月24日に大阪で開催された「もやもや病の患者と家族の会」の年次総会で、「もやもや病と妊娠・出産およびその他の病気」というタイトルで、講演をさせていただきました.内容は、基本的にはホームページ上にある情報を主体でお話ししました.

内容

1. 私の患者さんについて(もやもや病と妊娠・出産に関して、その問題点の提起をする目的で紹介しますが、患者さんのプライバシーは厳しく守っています).
2.裁判になっている事例
3.妊娠時の身体の変化
4.過去の妊娠・出産の報告
5.診断方法の安全性
6.妊娠・出産・避妊・不妊治療
7.内服薬と副作用
8.病因・遺伝
9.その他の病気
10.インターネット情報
11.まとめ



1.私の患者さん、2.裁判になっている事例について(病気と妊娠・出産に関して、その問題点の提起をする目的で紹介しますが、患者さんのプライバシーは厳しく守っています).

もやもや病患者さんの妊娠・出産での問題点のまとめ

妊娠・出産は安全か? 血管吻合術は有効性か?
出産方法はどのような方法が安全か? 麻酔はどんな方法が安全か?
不妊治療は安全か? 複数回の出産は安全か?
避妊方法は何が安全か? 薬は飲み続ける必要があるか? 薬は安全か? 
レントゲン・MRI検査は安全か? 子供に遺伝するか?

以上のことから、「娠・出産して大丈夫でしょうか? 」ということになります.

これらについて、明解な答えはありません.過去の事例を、参考にこのような傾向にあるというしかありません.しかし、まったく情報なしで、不安なまま考え込んでいるよりは、明解な答えがなくとも、過去の事例を参考に、これからのことを前向きに考えていくほうが良いように思います.

3.妊娠時の身体の変化

循環血液量・心拍出量の増加, エストロゲンの増加,血液凝固能の亢進などが起こります.
妊娠中毒症の可能性 (高血圧、タンパク尿、浮腫)や子癇(てんかん発作)の起こる可能性もあります.

4.過去の妊娠の報告

18歳以上の87人の調査結果(もやもや病の実態調査集計、2001から)
出産経験なし(20人)、妊娠中(1人)、発病後出産(22人)、発病前に出産(27人)、第1子出産後発病(2人)、第2子出産後発病(9人)、第3子出産後発病(4人)、第4子出産後発病(1人)、出産後発病(1人)、出産時発病(1人).

もやもや病と分かってからの出産は20人で報告があり、普通(自然)分娩(7人)、帝王切開(11人)、無痛分娩(1人)でした.

出産時の母体の異常は、49人の報告があり、異常あり(13人)、異常なし(35人)、不明
1人).異常:妊娠中毒症、高血圧、発作の増加.
妊娠中にもやもや病を発病した方が、この調査に何人含まれているかは不明です.

もやもや病と子供の時に診断された患者さんが妊娠した症例 (過去の論文から)

37例の報告あります. 28例:帝王切開、9例:自然分娩(経膣分娩).予後不良は、1例のみ、(10歳時にもやもや病と診断され、妊娠30 週で両側の脳室内出血を起す).この患者さんの子供は正常、患者さんは高度の意識障害が残りました.別の1例で脊髄麻酔での帝王切開中に、不安のため高血圧、過換気発作が出現しましたが、母子ともに問題なし.
36例で分娩時に問題があった症例はありませんでした.
37例で、血管吻合術を受けた患者さんは、たった9例でした.

脳卒中を起こし初めてもやもや病と診断された症例 (過去の論文から)

31例の報告がありました.20例:帝王切開、6例:自然分娩、2例:流産、3例:不明.
妊娠中に脳卒中:24例、分娩時:3例、出産後:3例、1例:不明.
出血発症:24例、虚血発症:6例 、1例:不明.

母体の予後 良好:15例、不良:9例、死亡:5例、2例:不明.
子供の予後 良好:22例、不良:1例、死亡:3例(2例の流産を含む)、5例:不明.
初産婦24人:経産婦:7人.妊娠中毒症:3例.

5.診断方法の安全性

胸部X線撮影、腹部X線撮影、頭部CT検査、脳血管撮影、MRI、ヨード性造影剤

胸部X線撮影は0.02-0.07 mrad(被曝線量の単位)、腹部X線撮影は 100 mrad、頭部CT検査は、1 rad以下の胎児被爆があります.腹部をシールドして施行するCT検査は約2 mradの胎児被爆があるとされ、脳血管撮影も腹部シールドすれば、約2 mrad程度の被爆があるとされます.
放射線の5 rad以下の胎児被爆は、奇形、成長障害、流産のリスクを上げないとされます.

妊産婦に脳血管撮影が必要な場合は、子宮に対してシールドを行えば、胎児の被爆は最小限にできます.ヨード性造影剤は、胎児への影響は、ほとんどないとされます.MRIによる胎児に対する副作用報告はありませんが、妊娠第1期には避けた方がよいとされます.

放射線学的検査を妊娠の初期に行っていたとしても,多くの場合奇形、成長障害、流産のリスクを上げないために,妊娠の中断をする必要性はありません.

6.妊娠・出産・避妊・不妊治療

妊娠前に診断されている場合

妊娠管理:妊娠中毒症の予防,過度な運動や肥満を避ける.
不妊治療:その過程でホルモン剤の投与が行われます.不妊治療が過去にもやもや病の患者さんに問題を起したという報告はありませんが、避妊法と同じ理由でややリスクがあるように思います.
避妊法:経口避妊薬は脳梗塞のリスクファクターとされます.

妊娠中に初めて診断される場合

多くの症例が脳出血で発症するため、生命にかかわる症例も含め、重症例も含まれます.母体の安全を優先し、脳出血の治療を行い、帝王切開が可能な月齢であれば、帝王切開で出産をすることが多いようです.一般論で、妊娠中の脳卒中は、非妊娠中の脳卒中と同様に治療するのが原則です.

分娩方法

自然分娩 vs 帝王切開

自然分娩での分娩時の過換気や痛みによる高血圧が問題になるかもしれません.
医師側の自然分娩の方が帝王切開よりも危険であるとの思い込みもあるようです.何か事故が起こったときの訴訟対策で帝王切開が選択されることが多いようです.

帝王切開の利点:マンパワーのある日中の予定手術にできる.
結局、脳神経外科医だけでなく、麻酔科医、新生児科医がそろった総合病院で出産する方がいいでしょう.

麻酔方法

全身麻酔(吸入麻酔と静脈麻酔)、脊髄麻酔、硬膜外麻酔、後2者の併用など.
全身麻酔では、全身管理が容易ですが、気管チューブ挿管時の高血圧、嘔吐、出生児の遷延性の麻酔薬の効果などのマイナス面もあります.脊髄麻酔、硬膜外麻酔には、血圧の低下や患者さんが不安のため過換気や逆に高血圧になる可能性があります.硬膜外麻酔には、産後の疼痛コントロールが続けてできる利点があります.

7.内服薬と副作用

抗けいれん薬と妊娠

妊娠中に薬剤を服用しなくても先天奇形の発生頻度は約2-3%あります.妊娠中で最も薬剤の影響を受ける時期は妊娠4-10週とされます.抗けいれん薬には先天奇形のリスクを上げることが知られおり、一般の発生率よりも4-6%高くなります.

2種類以上の抗けいれん薬を服用していると先天奇形のリスクはさらに上がります.
けいれん発作のある女性は、妊娠しても、また妊娠を計画しても、抗けいれん薬を服用するのが原則です.しかし、抗けいれん薬を服用している多くの女性が、正常で元気な子供を出産しているのも事実です.抗けいれん薬は、可能であれば、その種類を減らすこと、服用量を最小限にすることが望ましいです. 長期間、けいれん発作のない場合、さらに服用量を減らしたり、服用を中止したりすることも考慮すべきです.

抗てんかん薬を服用していても、多くの場合、正常な子供を出産するため、抗てんかん薬の服用が人工流産の理由には決してなりません. 勝手な判断で、通院を中止したり、服用を中止したりしてはいけません. 抗けいれん薬を長期服用している女性患者さんで妊娠を予定している場合は、神経管閉鎖障害(二分脊椎など)の発症リスクを低減させる目的で、葉酸の服用が奨められます.

神経管閉鎖障害の発生に葉酸の関与が知られています.デパケン、フェノバール、アレビアチンなどの長期服用により、葉酸の欠乏が起こることが知られています.葉酸摂取により神経管閉鎖障害の発生リスク低減が期待出来ることから、妊娠を計画している女性では、妊娠してからではなく妊娠の一ヶ月以上前から、妊娠三ヶ月までの間、葉酸を栄養補助食品から一日 0.4 mg 摂取することが奨められています.

8.病因・遺伝

もやもや病の病因は現在でも不明です.家族内の発生が8-10%報告されています.遺伝的要素+ 環境因子で発症すると考えられています.家族性のもやもや病で、第3、6、17番染色体上での連鎖の報告があります.これは、もやもや病が必ず遺伝するということはありませんが、10%で家族内発生があることを考えて、妊娠・出産を考える必要があるでしょう.

9.その他の病気

もやもや病に一般的な内科的な疾患(高血圧,糖尿病,高脂血症,痛風,悪性腫瘍,消化器・肝臓・呼吸器疾患など)が合併することがあります.

全身疾患に合併するもやもや病:類もやもや病として,もやもや病と分けて考えられています.

感染症: 結核、ハンセン氏病
血液疾患:再生不良貧血、Fanconi貧血、鎌状赤血球症、ループスアンチコアグラント陽性
先天性疾患:Apert 症候群、ダウン症候群、Marfan症候群、結節性硬化症、Turner症候群、レックリングハウゼン病、Hirschprung病、脳瘤
血管障害:動脈硬化、大動脈縮窄症、繊維筋性形成異常症、心筋梗塞、狭心症、肺動脈狭窄、腎動脈狭窄、大動脈瘤
:頭部外傷、放射線照射、脳腫瘍、高血圧

もやもや病における内頚動脈の狭窄・閉塞性変化と同様な血管変化が,他の部位にも起こることが知られています(全例ではなく、一部の症例). 

腎動脈狭窄:腎性高血圧 → 経皮的血管形成術
冠血管狭窄・閉塞:狭心症,心筋梗塞 → 経皮的血管形成術、冠血管バイパス手術
肺動脈、脾動脈、浅側頭動脈、中硬膜動脈なども狭窄性の変化がくる場合があります.

10.インターネット情報

利点

病院に行かなくても(行けなくても)病気の情報が得られる.場所・時間を選ばない.英語のページは、国外からもアクセス可能である.疑問点について質問可能である.患者さん間の情報交換も可能である(患者さんの開設している掲示板).

問題点

正しい情報が提供されているか? 医療情報の質? 個々の疑問に答えるには,患者サイドの情報不足な場合が多い.

11.まとめ

もやもや病に関しては、分かっていないことが多いですが、妊娠・出産に関しても同じことが言えます.100%安全な妊娠・出産は、もやもや病でない患者さんでもありませんが、もやもや病の診断がされてこれから妊娠される方の、危険性は高いものではないと思います.出産方法・麻酔方法は、その病院で慣れた方法で可能と思います.主治医とじっくり相談してください.